都心の高層階。
夜景を背にワイングラスを傾けながらも、私の心は、ずっと透明な空虚に包まれていた。
夫はいつも忙しい。
愛されていないわけではない。尊重されている。感謝されている。
だけど、抱かれていない。
いつからか私は、自分の身体を鏡に映す時間が長くなった。
「このウエストライン、誰のために保っているの?」
答えのない問いを胸に、私は今日もジムの更衣室で自分を整えていた。
フィットネスウェアの上に羽織ったシャネルのカーディガン。
髪をふわりと結い、ルブタンのヒールで鏡の前を離れたとき――
視線が交わった。
トレーニングルームの向こう。
ひと際目を引く肉体が、マシンに凭れながら私を見つめていた。
漆黒のTシャツに浮き出る胸筋と二の腕。
ウエストは引き締まり、汗が首筋を伝って鎖骨に落ちる。
その男、隼人は、私が歩くたびに視線を逸らさず、飢えた獣のように見つめていた。
「良子さんって、きっとすごく手入れされてるんですね。ずっと目で追ってました」
その声を、私は否定しなかった。
肌に触れる彼の言葉は、なぜか心地よかった。
私の“努力”が、はじめて誰かの欲望を呼び起こしたようで。
それから週末ごとに、彼と待ち合わせてジムへ行き、トレーニング後にお茶をした。
手を触れ合うことも、キスを交わすこともなかったけれど――
ある日、彼が囁いた。
「今度の休みに、温泉……行きませんか?」
向かったのは、軽井沢の静かな森に佇む、大人だけの隠れ宿。
石造りの露天風呂付き離れ。
障子を開けた瞬間、私の中の理性が静かに崩れていくのを感じた。
「どうぞ。脱衣所、先に使ってください」
彼の声は穏やかだった。
けれど私は、無言で帯を解いた。
真っ白な肌に、たっぷりとした胸、細い腰、そして年齢を感じさせないヒップライン。
鏡に映る私は、まだ“女”として、充分通用することを知っていた。
タオルを一枚、胸に巻いて、露天へ向かう。
雪がちらつく空の下、湯けむりの向こうに、彼の背中が浮かんでいた。
「良子さん……来て」
その一言で、私はゆっくりと湯に身を沈めた。
手を伸ばされ、引き寄せられた瞬間、背中にあたる熱くて硬い何かに、心臓が跳ねた。
「……これは、」
「見ますか?」
彼が湯から立ち上がったとき、私は言葉を失った。
膨らみ、反り返り、脈打つように張りつめた彼の中心。
見下ろすような角度で、私の視界を占めるほどのサイズ。
太さも、長さも、私の知るどんなものよりも圧倒的で――
理性と欲望が、同時に膝を砕いた。
「触ってください。ずっと、あなたの手を待ってた」
私は湯の中で膝をつき、そっと手を伸ばした。
重い。
片手では包みきれないほどに硬く、脈打っていた。
指を這わせると、彼は小さく息を飲む。
私はその反応に背筋を震わせながら、唇を近づけた。
舌先で亀頭の先端をそっと撫でると、彼の手が私の髪を撫で、腰がわずかに跳ねた。
「良子さん、綺麗すぎて……ヤバいです」
その言葉が、喉奥まで届いたとき、私はゆっくりと彼を口に含んだ。
湯の中で、私は彼の熱を唇に迎え入れていた。
信じられないほどの硬さと重さが舌を圧し、上顎を擦りながら喉奥へ迫ってくる。
思わず涙が滲んだ。
けれど、嫌じゃなかった。むしろ、快感だった。
この美しく保ってきた私の口が、今、彼の欲望でいっぱいに満たされていることが。
手のひらで竿を添え、唇で先端を包みながら、ゆっくりと喉を動かす。
腰の奥で、彼が痙攣するように震えているのがわかる。
唸り声のような吐息が頭上から落ちてきて、私はさらに深く吸い込んだ。
「良子さん、ヤバい…そのままじゃ、イッちゃいます」
彼の声がかすれ、髪を優しく掴まれる。
私は唇を外さず、喉の奥でうなずいた。
「我慢しないで…出して。私の口で、全部受け止めたいの」
その瞬間、彼の身体がびくりと跳ね、そして次の刹那、熱いものが喉奥へ噴き上がった。
びゅく、びゅく、と脈打つたびに溢れる彼の体液。
私は逃げずに受け止め、舌の上で転がしながら、甘く飲み込んでいく。
「……すごい。飲んでくれたんですね……初めてです、そんな女性」
照れたように言う彼の笑顔に、私の中で何かが溶けていった。
尊ばれる女としての悦び。
欲される肉体であることの、圧倒的な肯定感。
「お風呂、上がりましょうか」
「……うん。続きは、布団でね」
障子の向こうに敷かれた寝具は、真っ白なリネンが肌に冷たく心地よかった。
けれど私の身体は、彼の視線だけで火照っていた。
浴衣を脱がされる瞬間――
胸が、肌が、彼の目の前にさらされるたびに、私は震えていた。
けれど恥ずかしさではない。
美しいと思われたい。求められたい。貫かれたい。
その願いが、全身を柔らかく、甘く緩めていた。
「良子さん、ほんとに綺麗。こんな人に抱かれるなんて、俺……信じられない」
「……じゃあ、いっぱい抱いて」
その言葉に、彼の目が変わった。
ゆっくりと私の胸に唇を落とし、舌先で乳首をすくい上げるように撫でる。
そこから唇を這わせて、鎖骨からお腹へ、そして太ももへ。
脚を押し広げられた瞬間、彼の息が私の秘部に触れ、身体が跳ねた。
「いやっ…そんなところ、汚いから……」
「汚くなんてない。綺麗で、美味しそう」
彼の舌が、花びらの内側に吸い付くように入り込んできた。
小さく震える舌が、ひだの奥を探り、蜜を啜るように動く。
私はシーツを握りしめ、何度も喘ぎ声を洩らした。
「だめ……そこ、もう……変になる」
舌と指が、同時に私の中心をかき乱す。
快感の波が何度も押し寄せ、ついに私の身体は彼の口の上で果てた。
「……入れるね、いい?」
私は無言でうなずいた。
すでに私の中は彼の舌で潤いきっていて、挿れられることに怯えながらも、切望していた。
太くて、硬くて、果てしない彼のものが、私の奥へと押し込まれてくる。
「ああ……そんなに、奥まで……入ってきてる……」
入口を通るだけで、身体が裂けそうな感覚。
けれど奥まで届いた瞬間、全身が熱で満たされた。
「凄い……中、すごく締まって……気持ちいい……」
「お願い、動いて……壊して……私、もっと、もっと……」
彼は私の脚を抱え上げ、さまざまな体位で私を何度も貫いた。
一晩中、私の中は彼の熱で膨れ、絶え間ない快楽に溺れた。
天井を仰いで喘ぐ自分の声が、まるで知らない女のもののように響く。
品位も、理性も、すべて脱ぎ捨てて、私は“本能だけの女”になっていた。
朝、彼の腕の中で目覚めた私は、静かに涙を流していた。
「良子さん……?」
「……何でもないの。ただ、私……こんなふうに“女”に戻れるなんて、思ってなかったの」
彼の腕が優しく背中を撫で、唇が私の額に触れた。
「また、抱いてもいいですか?」
「ええ、何度でも……私が壊れるまで」
あの夜、私は確かに壊れた。
だけど壊れた先にあったのは、欠けた女ではなく、
本当の私――一人の女として、悦びを受け止められる私だった。



コメント