熱の名残を、潮風に隠して
夫が単身赴任で北海道に赴任してから、三ヶ月。息子も春から県外のサッカー強豪校へ進学し、寮生活を始めた。家には私ひとり。自由と引き換えに得た静けさは、やがて虚しさへと変わっていった。
仕事もある。家事もちゃんとしている。けれどふと手が止まることが増えた。食器を洗いながら、ひとりでご飯を食べながら、「私って、誰のために生きているんだろう」と思う日がある。
そんなある日、思い立って車を出した。春の終わり、まだ夏には遠い、でも確かな熱を孕んだ風。ナビも決めずに、ただ西へと走らせた。海が見たかった。潮風に晒されれば、私の中のよどみも、少しは消える気がした。
たどり着いたのは、断崖に建てられた海辺の小さなカフェ。テラス席からは、どこまでも続く水平線と、ゆっくりと崩れていく波が見える。私はアイスラテを注文し、海が一望できる席に腰を下ろした。
「……ここのラテ、美味しいですよ」
不意にかけられた声。驚いて隣を見ると、若い男性が微笑んでいた。黒のTシャツにジーンズ、どこか中性的な雰囲気を纏った、大学生くらいの男の子だった。
「以前、ここでバイトしてたんです」
それが彼との出会いだった。
会話は自然に続いた。海のこと、旅のこと、好きな本や映画。彼は言葉を選びながら丁寧に話す人で、私は久しぶりに「聞かれている」と感じた。
「……このあたりに、人の少ない岩場があるんです。よかったら、案内しましょうか」
一瞬、心の奥で警鐘が鳴った。でもそれ以上に、胸の奥の渇きが勝っていた。
「……お願いします」
遊歩道を抜け、岩がごつごつと並ぶ静かな入り江へ出た。そこは本当に人気がなく、波音と風の音しか聞こえなかった。
「よく来るんです、ここ。ひとりになりたい時に」
彼が岩に腰を下ろし、私を見上げる。その目に映る私は、どんな女なのだろう。息子のいる母親? それとも、ただの寂しさを抱えた女?
胸元が少しだけ開いていた。私はそれに気づきながらも、直すことをしなかった。海風に押されるように、シャツのボタンをひとつ、そっと外した。
「……見たいんでしょう?」
彼の喉が、ごくんと鳴った。
次の瞬間、彼が立ち上がり、私の頬に手を添え、唇を重ねてきた。若さを感じる、でもどこか痛みを知っているようなキス。私は目を閉じ、その熱に身を委ねた。
彼の手が、胸元をそっと開き、指先が肌をなぞる。ブラの上から撫でる動きに、乳首がすぐに反応してしまい、自分でも驚くほどだった。
「こんなに…感じてるんですね」
彼が囁き、指でやさしく転がしながら口づけてくる。私は耐えきれずに小さく声を漏らしてしまった。
スカートの裾がめくられ、太ももに指が触れたとき、私は小さく息を飲んだ。
「声、出しちゃだめですよ」
その囁きが、余計に私の中を濡らしていく。彼の指が下着の中へと滑り込み、敏感な部分をなぞったとき、私は脚を閉じようとするも、もう抗えなかった。
「……気持ちいい」
自分の口からそんな言葉が漏れたことに驚きながら、彼の愛撫を受け入れていった。下着が抜かれ、彼の口がその場所に触れたとき、私は岩にしがみつき、喘ぎを堪えた。
舌が、私の奥を丁寧に、でも確かに探ってくる。何度も波が押し寄せるような感覚に、意識が遠のきそうになる。とろけるような熱が、何度も身体の奥で弾けた。
「……もう、欲しいの」
彼にそう告げたとき、私は完全に理性を手放していた。
彼が私の上に覆いかぶさる。ゆっくりと身体の中へと迎え入れた瞬間、張り裂けそうなほどの充足感と、ほんの少しの痛みが混ざった。彼のものが、深く私の中を満たしていく感覚に、思わず腰を浮かせた。
「すごく…あたたかい」
彼がそう呟き、私の奥をゆっくりと、でも確かに刻んでいく。波の音と、彼の息遣いが混ざり合う。動きが激しさを増すたびに、私は自分の声を押し殺すのに必死だった。
彼の指が私の髪をかきあげ、耳元に触れながら、さらに深く押し入ってくる。奥の奥まで貫かれるたびに、身体が震え、頭の中が真っ白になる。
クライマックスは突然やってきた。身体が震え、視界が白くなり、深く何かが崩れ落ちた。全てが満たされたようで、同時に喪失もあった。
彼が私の髪を撫でている。終わったあと、私は彼の胸に顔を埋め、ただ波の音を聞いていた。
「……帰ろうか」
彼の言葉に頷きながら、私はそっと岩に置いた下着を拾った。
帰りの車の中、助手席には何も置かなかった。ハンドルを握る手が少しだけ熱を持っていた。
春の終わり、私は確かに「誰かと触れ合った」ことを、あの岩場の風が教えてくれた。



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