終業ベルのあとも蛍光灯だけが残っていた。私は自分の席で、送信済みのチャットを何度も見た。「今夜、来ます」——送信した指が、まだ震えていた。
私の名は響。三十八歳。川崎の部品商社で総務課長をしている。部下のミスは先に拾い、数字の穴は夜中に埋める。社内では「冷静で、怒らない上司」だ。夫は同業の技術職で、会話は穏やかで、夜は短い。責められない夫を、私は責める資格もない。資格がないまま、身体の奥だけが夜ごとに渇いていった。誰かに預ける場所が欲しい。欲しいと認めた瞬間、課長の顔が薄紙になった。
その薄紙を最初に破ったのは、私の部下である唯斗だった。二十六歳。報告は短く、目だけが正直な男。
「課長は、全部自分で抱えたがりますね」
出張精算の書類を返したとき、声は低かった。
「本当は、判断を奪われたい。縛られて、女の部分だけ残されたい」
笑って「仕事に戻りなさい」と言うべきだった。言えなかった。その夜、浴室の鏡に裸を映しながら、同じ言葉が皮膚の裏で鳴った。奪われたい。残されたい。見られたい。見られたあとで、それでも受け取られたい。
夫が新潟へ二泊した木曜。私は終業後、指定されたホテルの部屋番号を受け取った。ドアの向こうで唯斗は、部下の顔を置いていた。
「ここから先は上下ではありません。響さんは今夜、俺の所有物です。途中で課長に戻る権利はありません。分かったら、自分の言葉で言え」
喉が一度、詰まった。詰まったまま、私は言った。
「分かりました。今夜の私は、唯斗さんのものです。戻る権利はありません」
言った瞬間、長年の勘定が音を立てて落ちた。怖かった。怖いのに、下腹部が熱くなった。恐怖と欲が同じ管を通っていることを、そのとき初めて理解した。
「ルール。服は指示順。目は逸らさない。イくときは許可。拒否は無効。涙は出していい。涙は嘘をつかない」
生成りの麻縄と、細い革の首輪。まず首輪。金具が喉仏の下で閉まる音が、部屋に残った。自分の脈が、金具に当たる。
「印です。外すのは俺だけです」
「ブラウス。ボタンは上から。急がない。俺に見せながら脱げ」
指先が滑る。一つ外すたび、窓ガラスに自分の鎖骨が映る。カーテンは腰までしかない。街灯が、白い生地の隙間から肌を舐める。ブラを外すと冷気が乳首を縮め、その縮みが恥ずかしいほど目立った。スカートを下ろすと、ショーツの中央がすでに濃くなっていた。布が秘裂に張りつき、歩くたびに糸を引きそうだった。
「そこまで自分で。下着は俺が剥ぐ」
踝まで下ろされる。指が布の濡れを確認し、私の鼻先へ持っていく。
「嗅ぎなさい。課長の身体は、もう部下に降伏した匂いがします」
自分の匂いが鼻腔に広がる。羞恥で耳まで熱い。熱いのに、割れ目がさらに開く感覚があった。身体は正直で、正直なことが一番みじめで、一番気持ちよかった。
椅子ではなく、窓際の低い台に開脚で座らされる。縄が手首を背中で固定し、胸の下を斜めに締めて乳房を持ち上げ、膝の裏を外側へ開かせる。麻が皮膚に食い、呼吸のたびに乳首が縄の縁で擦れる。痛みは鋭く、その直後に熱が広がる。熱が広がると、秘部が勝手に収縮した。収縮するたび、台の木目に蜜が点になっていく。
「光が当たるたびに、誰かに見られていると思え。見られることが、所有の証明です」
車のヘッドライトが太腿の内側を白く走る。耻毛の際まで光が届く。閉じたい膝を、縄が許さない。閉じられないことが、頭の中の「ちゃんとした私」を少しずつ殺していく。殺されていく感覚が、疼きに直結した。
「怖い」
「怖いなら、正直に言え。何が怖いか」
「……このまま戻れたら、どうしようもない自分が残ることです。夫のいる家に、この匂いを持って帰ることです」
「持って帰る。それが服従です」
彼の指が陰唇を左右に開き、中の熱を空気に晒す。クリトリスはすでに皮を被らず、赤く腫れて脈を打っていた。指の腹で軽く弾かれ、私は腰を浮かせた。浮かせた瞬間、頬を一度、乾いた音で叩かれる。
「勝手に逃げるな。感じる場所から、逃げるな」
短い革の鞭が内腿に落ちる。音より先に熱が来る。次は乳房の外側。次は、開いた秘裂のすぐ横。打たれるたび、蜜が糸を引いて落ちる。落ちる音が、自分の耳に恥ずかしい。
「誰のものだ」
「唯斗さんのものです……っ」
「響のここは、誰が濡らした」
「……唯斗さんが、濡らしました。私が、勝手に溢れました」
跪いた彼の舌が、腫れた核を直接含む。裏側を規則正しく吸い、時折、入口に舌先を浅く入れる。音が生々しい。濡れた粘膜と粘膜が離れる音、唾液と蜜が混ざる音。窓の外で誰かが話しながら通り過ぎる気配がある。気配があるのに止められない。腰が彼の口に押し付ける。押し付ける自分が、昼間の課長と同一人物だとは思えなかった。
「許可」
声が裏返る。
「まだだ。我慢が、お前の一番綺麗なところだ」
舌を外される。空いた穴が、何もない空気を欲しがって開閉する。涙が顎を伝う。涙は悔しさではなかった。預けている途中なのに、途中で完結させてもらえないことへの、女の懇願だった。
「入れてください。縄のまま、一番奥まで。子宮に当たるまで。見られてもいい。外に声が漏れてもいい」
「乞うたな。忘れさせるつもりはない」
熱い先端が割れ目に rub され、入口を何度も滑る。滑るたびに陰核が押され、腰が跳ねる。跳ねるたびに鞭の熱が内腿で脈打つ。やがて亀頭が入り口を押し広げ、一段ずつ中へ沈む。粘膜が巻き付き、奥の狭いところが抵抗し、抵抗した直後に開く。根元まで埋まったとき、縄が胸を締め、呼吸が浅くなった。充満は痛みに近く、痛みは「もう選べない」という安堵に近かった。
「んっ……当たってる……奥、動かないで……動いて……矛盾してる……」
「矛盾していい。女の正直は、矛盾の中にある」
動きは遅い。抜けるときに粘膜が裏返るような音がして、入るときに子宮口を小さく叩く。叩かれるたびに、視界の端が白む。涎が顎から鎖骨へ落ち、首輪の金具を濡らす。彼の手が喉の横を軽く押さえ、所有の印を意識させる。
「イきそうなら、言葉にしろ」
「いきそうです……お願い……許可ください……響を、唯斗さんのもので終わらせてください」
「呼べ」
「唯斗……唯斗さんっ……いきます、所有されていきます……っ」
一度目は、核から電流のように来た。身体が縄の中で跳ね、穴が彼を強く締め付ける。締め付けている最中に、二度目が重なる。涙と汗と涎が同じ熱になる。三度目、彼が耳元で「遊びではない。俺は本気で響を所有する。職場に戻っても、この中身は俺のだ」と囁いたとき、私は夫の顔を一瞬思い、その直後に、思い出した自分をさらに深く差し出した。罪悪は消えなかった。消えないまま、快感の芯になった。それが、私のSMだった。綺麗な服従ではなく、汚れたまま預ける服従。
射精は奥で熱く広がった。抜かれたあと、穴が閉じきれず、白濁と蜜が縄の結び目まで垂れる。彼は解く順序も正確だった。手首、胸、最後に太腿。首輪だけ残す。湯で濡れたところを拭き、赤い筋に唇を一度だけ当てる。当たった瞬間、私はまた小さく痙攣した。余韻が、行為そのものより怖かった。怖かった理由は、優しくされた瞬間に「また欲しい」が確定するからだ。
月曜、同じフロアで彼は普通の部下に戻る。私は課長の声で指示を出す。出す声の下で、喉の革の記憶が脈を打つ。椅子に座るたびに、内腿の熱が蘇る。夫の横で目を閉じても、窓の光と鞭の音が先に来る。
SMの真髄は、痛みではなかった。見られたまま逃げないこと。罪悪を捨てずに差し出すこと。所有すると言い切る相手に、女の一番みっともない部分を預けること。あの夜、私は課長も妻も一度脱いだ。戻した服の内側で、首輪の感触だけが、まだ生きている。
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隠していた「縛られたい」が、普通の人妻の顔の下から一気に出てくる。縄、蝋、鞭、喉、中出し。最初は目を逸らしていた女が、途中から自分から腰を浮かしてねだる。36人・8時間は長いようで、堕ちる瞬間だけを拾うと短い。安さで見るならレンタル、何度も同じ顔の崩壊を確認するなら買い。サンプルで目を閉じた妻の表情を見た時点で、カートはほぼ決まっている。


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