発注ミスの揉み消しと引き換えに課長に抱かれた夜|人妻38歳の告白

【第1部】濡れの帳簿と赤提灯──舌のような視線に触れた夜のはじまり

金曜の夜、街は梅雨の名残を惜しむような豪雨に包まれていた。
レインコートの中でスカートの裾が肌に張りつき、信号待ちのたびに、私は何度も鞄で太腿を隠すように立っていた。

課長が待ち合わせに指定してきたのは、隣の駅の喫茶店。
理由を訊くまでもない。──社内の誰にも見られたくなかったのだろう。

「じゃあ、行こうか」
そう言った課長の目は、まるで、今夜の“帳簿”が私の身体にあることを知っているかのようだった。
スーツの隙間から滲む雨の香り。
そして、その眼差し。私の胸元から足の甲まで、一滴残らず舐めとるように滑っていった。

赤提灯の灯りは、濡れたアスファルトを艶めかしく照らしていた。
「昔ながらの名店なんだ」
そう言いながら暖簾をくぐる彼の声には、まるで私の“覚悟”を確かめるような、湿った甘さが混じっていた。

カウンター席に通された瞬間から、私はもう、食事など喉を通らなかった。
左手にある帳簿と、右手にある私の存在──
課長の視線は、どちらも同じ重さでなぞっていた。

「帳簿のことは、僕がやるよ」
低く囁かれたその声に、私は頷くしかなかった。

けれど──
気づいていた。帳簿など、最初から口実だったのだ。
ずぶ濡れのまま赤提灯に入り、誰にも見られずに私を連れ込める店。
それが彼にとっての“名店”だった。

そして私も、なぜだろう。
そのことを、嫌悪できなかった。

赤い暖簾が、まるで初潮のように、私を濡らしていた。


【第2部】帳簿よりも正確な指──濡れた肌に記される背徳の勘定

店を出ると、雨は止んでいた。
しっとりと濡れたアスファルトからは、土と汗のような匂いが立ち上っていた。

「……歩こうか、少し」
そう言って肩に手を添えた課長の指は、どこか“実印”のような確かさで、私の背中を捉えた。
──帳簿に印を押すように。

古びたビジネスホテルのロビーに着いたとき、私はもう、自分の足音すら聞こえていなかった。

「心配しなくていい。全部、僕がやるから」
それは、何に対しての“保証”だったのだろう。
発注ミスのことか。家のことか。私のことか──

ベッドのシーツは白く、なめらかで、官能とは無縁のような顔をしていた。
でもその白さが、逆に私の“汚れ”を引き立てていく。

「スーツの下、意外と薄着なんだね」
課長の指がスカートのウエストをなぞる。
「濡れてる……?」
雨ではない。
私の太腿の内側。
座っていたカウンター席で、すでに感じていた疼きが、形になっていた。

彼は、まるで帳簿を繰るように私の下着の縁を指先でなぞり、
その舌で“赤字”を舐めとるように、私の奥を記録していった。

理性は、項目の一つずつを消していった。
「ここが……反応するんだね」
「やだ……っ言わないで……っ」
けれどその声ですら、どこか安心していた。

責められること。支配されること。
“ミスを責められない代わりに、女として責められる”──
私は、帳簿には載らない代償を、課長の熱に支払っていた。

そして私は、女として一行一行、記されていった。


【第3部】許しの印鑑──中で開かれた、帳簿にも載らない快楽

最奥に届いた瞬間、私は、自分の中の“許し”が開いたのを感じた。

あの発注ミスも、家庭の停滞も、結婚という名の固定費も。
すべてが、課長の重さと脈動に塗り替えられていった。

「奥……苦しくない?」
「……違うの、ちがう……やっと、満たされた……っ」
その言葉は、私のどこから出たのか分からなかった。

目の前の男が、上司ではなく、一人の“雄”として私を抱いていたこと。
そして私自身も、帳簿上では決して載らない“赤”に染まりながら、
何度も何度も、白いシーツを汚していった。

絶頂のたびに、私の奥に“実印”が押されていく。
理性の余白に、男の快楽が捺されるたび、私は何かを喪って、何かを得ていた。

すべてが終わったあと、課長は何も言わなかった。
私はただ、濡れた髪を整えながら、自分の中の“変化”を感じていた。

もう、戻れない。
帳簿には書かれない──
だけど、確かに刻まれた夜だった。

「ありがとう、助かったよ」
そう言った彼の声には、最初のような舐めるような視線はなかった。
それが、私をいちばん濡らした。

私は、人妻。
38歳、清楚で真面目な──
でも今夜、帳簿の行間に、名前のない私が記された。

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