波音に溶けた午後──揺らぐ心と火照る素肌
あの日の海は、記憶よりもずっと静かだった。
陽射しは真っ白で、浜辺には家族連れがぽつぽつと点在しているだけ。
私はひとり、海の家のパラソルの下で、氷の溶けかけたグラスを持て余していた。
夫と息子は、沖に浮かぶ小さな波に向かってサーフボードを滑らせている。
「午後からは南風が強くなるかも」なんて、夫が朝に口にしていた言葉を思い出しながら、私は無意識にビールのグラスを口に運んでいた。
── 何も起こらない日。
それが、少しだけ退屈で、少しだけ、求めていた。
「すみません、それ、ここのビールですか?」
唐突にかけられた声に、私の時間がぴたりと止まった。
目の前には、海パンにTシャツを羽織った若い男性。
そしてその後ろに、同じような雰囲気の二人の若者が笑いながらこちらを見ていた。
「いきなりすみません、僕らこっちの海、初めてで。おすすめの飲み物とか、食べ物とか……あと、なんか面白いこととか、知ってます?」
どこか無邪気で、どこか挑発的。
目線が、私のグラスと、胸元を行き来しているのが分かった。
「面白いことなんて、この海にはあまりないかも」
そう答えながらも、私は自分の口元が少し緩んでいるのを感じていた。
頬が、ビールのせいだけじゃなく火照っている。
「じゃあ……少しだけ、面白くしてくれません?」
言葉の意図を測るよりも先に、心が先に反応していた。
“してくれません?”ではない。“されたい”のは私だった。
「車、あっちに停めてあるんです。クーラーボックスも、Bluetoothのスピーカーも。……海、飽きたらどうですか?」
答えを出すまでに、時間は必要なかった。
「……10分だけなら」
気づけば、私はビーチサンダルの音を鳴らしながら、三人の若者の後ろを歩いていた。
海沿いの駐車スペースに止まったワゴン車は、内装を簡単に改造してあり、フラットになった後部座席にはブランケットが敷かれ、砂まみれのサーフボードが端に立てかけられていた。
「冷たいの、どうぞ。……奥、座ってください」
私は差し出された缶ビールを受け取りながら、薄暗い車内に足を踏み入れる。
スライドドアが閉まると、そこはまるで、海と隔絶された別の世界だった。
「ここ、めっちゃ秘密基地感ありますよね。……なんか、ドキドキしません?」
ひとりがそう言って私の隣に座る。
もうひとりは前からスピーカーで音楽をつけ、三人目はクーラーの中から何かを取り出している。
「ていうか……奥さん、ですよね?」
「ええ、たぶん。……妻で、母でもあるけど、今日はひとりの人間として来たの」
「それ、最高です」
若者のひとりが、そう囁くように言いながら、私の髪に指先を滑らせた。
その指が、首筋をかすめた瞬間、背筋にぞくりとする電流が走る。
「汗、すごい出てますね。ほら、ここ……」
Tシャツの首元をすこし持ち上げられ、鎖骨に唇が触れる。
濡れた肌に、彼らの吐息が重なっていく。
「……みんなで、奥さんを癒やす会ってことで」
言葉よりも、視線よりも、先に触れられた手。
胸元に滑り込んだ指先は、汗をぬぐうふりをしながら、確実に“そこ”を探っていた。
「奥さん……すごくいい匂いする」
首筋に触れた唇が、囁きながら私の耳たぶを軽く噛む。
甘噛み、というにはあまりにも本能的で、肌に火がついたみたいに熱くなった。
「ねえ、ほんとに……いいんですか?」
向かいに座ったもうひとりの青年が、静かに尋ねてきた。
その声に、どこか戸惑いと敬意が滲んでいたのが逆に、心を強く揺さぶった。
私は頷いた。
言葉は要らなかった。
ただ、唇がふるえながら、そっと開くのを感じた。
それが“はじまり”の合図だった。
Tシャツがするりと脱がされ、日焼け止めと汗の混ざった匂いの中、肌が空気に晒された。
肩に触れる指。乳房を包み込む手。
左右から二人の男に胸を吸われ、舌を這わされると、身体の奥がじゅわりと疼きはじめる。
「……やばい。奥さん、エロすぎる」
そう呟きながら、片方の彼が私の腰に手を回し、ショートパンツのボタンをはずしていった。
硬い金属の感触が、なぜか背筋をぞくぞくと撫でていく。
「脱がせるよ、いい?」
「……うん、お願い」
股の間の布がゆっくりと降ろされ、露わになった下着に、彼らの目が吸い寄せられるのが分かった。
「濡れてる……」
誰かが、そう呟いた。
自分でも気づかないうちに、私の身体は、もう準備を終えていたのだ。
羞恥、罪悪感、それをすべて超えて──「触れてほしい」と叫んでいた。
「舐めさせてください」
言葉と同時に、下腹部に熱い舌が触れた。
ピクンと腰が跳ねる。
「やば……奥さん、めっちゃ反応いい」
太腿を広げられ、秘所を割るように舌が執拗に蠢いてくる。
クリトリスが何度も吸われ、息が詰まり、喉が震える。
「……だめ、もう、だめ……っ」
唇を噛んでも、声が漏れる。
ふたりが胸を責め、ひとりが舌で奥を暴く。
快楽が渦を巻いて、脳が溶けていく。
「奥さん、入れていい?」
自分の中で、なにかが崩れる音がした。
「……来て」
ひとりが脚のあいだに体を重ね、先端を熱く押し当ててきた。
すでに濡れきったそこに、ぐっ……と圧がかかり、割れて、裂けて、迎え入れる。
「……あ、ああ、やば……」
入った瞬間、彼の息が止まり、私の膣がきゅう、と収縮する。
ぎゅうぎゅうに締めつけながら、私は彼を飲み込んでいた。
奥に届いた感覚に、目の奥が白く染まる。
その後ろで、もうひとりが私の口元に腰を寄せてきた。
「俺のも、いい?」
頷く間もなく、唇に押し当てられたものを、私はそのまま受け入れた。
くちゅ、という音と共に、舌がそれを巻き取り、ゆっくりと上下する。
「最高……奥さん、やば……っ」
前後から突き上げられ、胸は吸われ、頭が真っ白になっていく。
三人の熱に挟まれ、私はただの“女”に還っていた。
快楽の果て、三人の体液にまみれたまま、私はワゴンのマットに崩れるように寝転がった。
乱れた髪の隙間から、風が吹き込んでくる。
「奥さん、俺たちの顔……覚えてないよね?」
「……たぶん、すぐ忘れる」
「でも、今日のことは……?」
「……忘れたくても、忘れられない」
誰かが、私の頬にキスをした。
どこかで、波の音がまた聴こえてきた。
──それは、背徳の記憶と快感を閉じ込める、午後の終わりの静けさだった。


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