「日曜の午後、私は晒された」
——フェンスの陰で、見られたくて震えていた。
その日も、空は抜けるように青かった。
早朝から洗濯機を二度回し、息子のサッカー用のユニフォームを干し終えた私は、ベランダから空を見上げたまま、しばらく動けずにいた。
風に揺れる白い布。冷たく光る金属の物干し竿。その向こうに、彼の姿が脳裏をかすめた。
日曜の朝——少年団の練習。
息子のキャプテンである俊太くんが、開会のあいさつをする時間。
その横には、いつものように彼がいる。俊太くんの父親、黒沢さん。
私はそこで思い出す。
彼の手の温度、太ももの張り、息の深さ、あの時、車内で中まで満たされたときの、ひりつくような熱の余韻を。
「……今日も、見られに行くのよね」
自分の胸の奥で呟く。
誰かに言うことはできない。でも私は今、夫の目を盗んで“見られたい”という欲望のために下着さえ履かずに家を出ようとしている。
少年団のグラウンドは、今日も子どもたちの歓声に包まれていた。
「おはようございます」
自然に交わす保護者同士の挨拶。
その輪に加わりながらも、私の目は彼を探していた。
見つけた。
向こう側で、俊太くんの足元を指導している黒沢さん。
濃いグレーのTシャツに、黒の短パン。日焼けした肌が汗に濡れ、ふくらはぎの筋がはっきりと浮き上がっている。
私の中の何かが疼いた。
あの脚に挟まれて、また奥まで貫かれたい。そう思った瞬間、彼と目が合った。
一瞬。
けれど、それはすべてを読み取るのに十分だった。
彼はベンチに視線を移し、手招きをした。
誰にも気づかれないように私は席を立ち、子どもたちから視線の外れるフェンスの奥へと、彼のあとを追った。
そこは、日差しを遮る樹木とコンクリ塀に囲まれた、ほとんど死角の場所だった。
微かに草の匂いが漂い、風が通るたび、ユニフォームの擦れる音が聞こえる。
「……今日は、どうしたの?」
彼が低く囁く。
私は答える代わりに、ワンピースの裾をそっと摘み上げてみせた。
風が吹き込むと、下半身が露になる。
彼の目が細まり、私の脚の付け根へと吸い寄せられた。
「……履いてないのか」
その声が喉の奥で震えたとき、私はもう、脚が自分の意思では動かないほど熱くなっていた。
彼の手が、何の前触れもなく太ももに触れる。
ひやりとした指先。なのに、痺れるほど熱い。
指が内腿を撫で上げ、柔らかい部分へと滑っていくたび、息が詰まる。
「やっぱり、濡れてるじゃないか」
声を出してはいけないのに、私の唇から漏れる吐息が止まらない。
子どもたちの声が遠くに聞こえる。数十メートル先では夫もいるかもしれない。
それでも私は、脚を少し開き、木陰に腰を預けた。
「……見て」
自分の指で、下腹部をゆっくりと割って見せた。
羞恥と快楽が入り混じるように、太ももが震える。
彼は、しゃがみ込んでその奥を覗き込むと、顔を寄せてそっと舌を這わせた。
一瞬、世界が反転したような感覚に襲われ、私は口を手で塞いだまま首を仰け反らせた。
舌が吸い上げ、唇が花びらのような場所を愛おしそうに咥えるたび、腰が勝手に揺れる。
吐息だけでは足りず、喉から漏れた声を彼の肩にかすかに埋めた。
「もう、入れて……」
彼の指が私の中で震えていた。
それが私の理性をひと噛みで溶かした。
ワンピースの裾を捲ったまま、彼は私をフェンスに向かせ、後ろから身体を預けた。
中に押し入ってくる硬さと熱に、全身が膨張するような衝撃を受ける。
「こんなに濡れて……母親の顔じゃないな」
「……だって、私は……あなたに見られたい女なんです」
ゆっくりと腰を引き、再び押し込まれるたび、膝が笑い、腕がフェンスにしがみつく。
遠くで、子どもの叫ぶ声が聞こえた。
見られたらどうしよう。でも、同時に——見られたい。
日曜の昼下がり、私は母ではなかった。
ただ、脚を開き、夫ではない男の熱を、奥まで受け入れている女だった。
彼の熱が、奥まで満ちていた。
私の中を割るように進んでは、奥の壁を押し、子宮の底をつくたびに、声が喉奥で詰まる。
その衝撃は痛みではなく、むしろ望んでいた快感。
「だめ、そんな奥……」
「本当にダメなときは、こんなに締まらないだろ?」
耳元で囁く彼の声は、鼓膜の奥にまで届いた。
それは言葉以上の意味を持ち、膣の奥で感じる脈動とリンクして、私を突き上げる。
肉の音と微かな水音が、風の中に紛れて消えていく。
それでも、もし誰かがこの裏手に迷い込んだら——きっと、私は丸見えだった。
ワンピースの裾は腰の上までめくられ、ヒップは丸出しのまま、男の突きに喘ぎながらフェンスにしがみつく私。
羞恥と興奮は背中合わせ。
その境界が、ある一点を越えるとき、身体は裏返ったように反応する。
「あっ……奥、あたって……」
「こっちも限界」
彼が一気に押し込み、奥で脈打った瞬間、私は硬く目を閉じた。
熱いものが中に流れ込む感覚に、身体がピクリと震え、脚が一瞬、力を失う。
膣の奥に注がれる精の重さを、私は全身で受け止めながら、荒くなった呼吸を静かに整えようとした。
でも、それはすぐに無理なことだと気づく。中でまだ、彼が残っていたから。
「出したの、全部……?」
「……全部」
恐怖と悦びが入り混じる。
けれど、その全てを“後悔”ではなく“肯定”として抱いてしまっている自分がいた。
服を整え、フェンスから離れたあと、私たちは何事もなかったように、それぞれベンチに戻った。
私は息子のプレーを見ながら、脚の間に残る湿り気と粘りを感じていた。
視線を落とすと、ふと太ももに小さな傷ができていた。
フェンスの金網に擦れたのだろう。
その赤い跡を見て、なぜか少し嬉しくなってしまった。
今日のことを、身体のどこかが覚えている証だから。
夕方、帰宅すると、リビングには夫がいた。
テレビを見ながら缶ビールを開けている。私に目もくれず。
「おかえり。夕飯、何?」
いつもと変わらない日常。
でも私は、その裏側に“晒された身体”を隠しながら立っていた。
キッチンに立ち、冷蔵庫のドアを開ける。
野菜室からきゅうりを取り出す手が、かすかに震えていた。
さっきまで別の男に脚を広げていたその手が、いまは家庭を支える妻の顔をしている。
「……都合のいい女でいいから、捨てないで」
かつて黒沢さんにそう言ってしまった自分が、いまでは笑えてくる。
私は“都合のいい女”どころか、自分からその立場に這い寄っているのだ。
数日後の木曜。
昼下がりにかかってきた非通知の着信に出ると、黒沢さんの低い声が聞こえた。
「明日、家に行ってもいい?」
「……うちに?」
「他に行くところ、ある?」
そう言われただけで、内腿がじわじわと熱くなった。
「……じゃあ、明日は、鍵……開けときます」
自分の言葉に、ゾクリと背筋が震えた。
夫のいない午後。私はまた、彼を“家庭”に招き入れようとしていた。
そして金曜。
私は下着をつけないまま、掃除機をかけ、カーテンを開けた。
陽光が差し込むリビングには、何もないはずの午後の静けさが広がっていた。
でもその日、カーテンのすぐ外、窓ガラス越しに彼の姿が映った。
家の鍵は開いている。ドアを開ける音も、彼の足音も、すべてがゆっくりと響いていた。
「……ただいま」
彼がそう言って笑ったとき、私は本当に、自分の居場所が変わってしまったことを実感した。
人妻でも、母でも、主婦でもない。
私はもう、“見られたい女”として、彼のためだけに存在していた。
◆終章:あとがき
背徳とは、罰せられる悦びのようなもの。
見つかってはいけない。でも、見つかってしまいたい。
そんな危うい境界に立つたび、女としての私は生き返る。
愛ではない。けれど、快楽だけでもない。
それはきっと、「誰かに晒されることで、ようやく確かになる私」という存在の形。
この関係が、いつ終わるのかは分からない。
でも今は——
日曜の午後、あのフェンスの陰で喘いだ私が、本当の“私”なのだと信じている。


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