“気づかれた瞬間、私の視線が彼を煽っていた”
夏の終わり、私は高校時代の親友・沙織の家に泊まりに行った。仕事帰りにそのまま立ち寄ったので、彼女の夫である誠さんとも久しぶりに顔を合わせた。涼しげな顔立ちに眼鏡をかけたその姿は、どこか知的で、でも力強いものを秘めている印象だった。
「この間、京都に行ってきたの。お土産あるよ」
沙織はワインを開けながらそう言い、三人で夜更けまで語り合った。やがて、彼女があくびをこぼし、「先に寝るね」と立ち上がった。
「客間、寝室の隣なんだ。気にせず使って」
そう言って沙織が私を案内してくれた畳の部屋は、確かに仕切り襖一枚の向こうに主寝室がある造りだった。
私はシャワーを浴びて、借りたTシャツワンピに着替え、布団に入った。でも、なぜか眠れなかった。沙織と誠さんの仲睦まじい様子が頭に浮かんで、胸の奥がざわついていた。
と、そのとき。
ふいに、微かな声が聞こえた。
「……ん、誠……だめ、今日……」
襖の向こうで、ふたりの寝息とは違う音が始まっていた。
私の呼吸が自然と浅くなる。音を立てぬように身を起こし、襖に耳を寄せた。シャラリと布団が擦れる音、甘い吐息。身体が思い出したように、じんわりと熱を帯びていく。
そして――隙間から覗いたその先で、私は見てしまった。
沙織の脚が布団の上に浮かび、誠さんがその腰を深く沈めている光景を。
目が、合った。
誠さんと。
暗がりの中、彼の眼差しがはっきりと私を捉えた。
一瞬、動きが止まった。けれど次の瞬間、誠さんの腰が、より深く、強く沈む。まるで、私に見せつけるかのように。
「んんっ……あっ……!」
沙織の声が揺れて、布団の軋みが激しくなっていく。私は襖の隙間から目を離せなかった。自分が見ていると気づいているその男が、隠すどころか、むしろ私の視線を燃料にしているかのような、その動きに――身体が、震えた。
やがて、絶頂の気配とともに彼女の身体が跳ねるように沈黙し、すぐに眠りの深みに落ちていったようだった。私は、そっと布団に戻った。
がさりと音を立てぬように、背を向けて横になる。すぐ後ろにある襖が、音もなく開いた。
そして次の瞬間。
布団の上から、そっと伸びてきた手が――私の胸を、撫でた。
私は呼吸を止めたまま、微動だにできずにいた。心臓の音が、頭の奥で脈を打つ。
その手は、迷いなくTシャツ越しに私の乳房の輪郭をなぞり、親指が固くなった先端を擦った。
「……起きてるの、わかってるよ」
耳元に落ちた低い声は、沙織の夫――誠さんだった。
私はまぶたを閉じたまま、声も出せなかった。
でも、感じていた。
身体が――否応なしに、目覚めていた。
「眠りの隣で、ふたりきりの夜が始まった」
布団に横たわったまま、私は目を閉じていた。
けれど、耳は澄まされ、肌は研ぎ澄まされていた。
すぐ背後から、誠さんの吐息がかかる。かすかに鼻腔をくすぐるのは、彼の肌と夜の熱気。
その手は、私のTシャツ越しに胸を包み、やさしく揉みながら、指先で先端を転がす。布地の摩擦が余計に感覚を鋭くする。
私は身じろぎもできなかった。
動いたら終わってしまう――けれど、何もなければ、この疼きがどこにも行き場を失う。
「ねぇ…起きてるの、でしょ?」
低い声が、私の耳の奥に落ちてくる。
私は、かすかにうなずいた。
その瞬間、背中から抱きしめられるようにして、彼の胸が私の背に触れた。
Tシャツの裾がめくられ、下腹部に彼のものが当たる。硬く、熱く、息が詰まるほどの存在感。
それがぴったりと私のヒップに沿って押し付けられると、喉の奥が自然と鳴った。
「沙織は…熟睡してるよ。大丈夫。俺たちの音なんて、聞こえやしない」
彼は、そう囁きながら、ゆっくりと私のショーツをずらしていく。
空気に触れた素肌がひんやりとして、でもその直後にくる彼の指先の熱が、それを塗り替えていく。
私は仰向けになった。
彼がのしかかってくると、その重さと熱に思わず目を開けてしまった。
薄暗い部屋の中で、誠さんの瞳が私を見下ろしていた。
「ねぇ……ほんとに、いいの?」
私がそう問いかけると、彼は、目を細めて静かに頷いた。
「君の視線で、さっき俺、すごく興奮した。…あんなふうに見られたの、初めてだった」
彼の指が私の太腿をなぞり、膝をゆっくりと開かせる。
そのまま、腰を沈めてくると、私の奥がじわりと広がって――思わず、甘い吐息が漏れた。
沙織が隣で眠っている。
この襖の向こうじゃない。いま、彼女の寝息のすぐ隣で、私たちは交わっている。
音を立てないように、声を漏らさないように。
でもその制約が、快感をより鋭くしていく。
彼の動きは、深く、静かで、けれど確実に私を貫いてくる。
ぎしり、と布団がわずかに軋む。私はそのたびに喉を噛み締め、眉を寄せて耐えた。
彼が私の胸を口に含み、舌先で先端を転がした瞬間、耐えていた快楽がせり上がる。
「だめ、もう……」
小さくつぶやいた声が、逆に彼を煽った。
彼の腰が激しくなり、私の身体は何度も、波のように弾かれた。
足先まで痺れるほどの熱。
彼が私の奥深くで震え、静かに果てたとき――
私は何かを失った気がして、でも同時に、何かに目覚めた気もしていた。
彼は布団を直し、沙織の寝顔を一度だけ見てから、黙って部屋を出て行った。
私は一人、天井を見つめたまま、乱れた呼吸を整えていった。
自分の中に残る彼の熱。
友人の隣で交わったという背徳感と、それを越えてしまった快感。
静かな夜に戻った部屋で、私はそっとまぶたを閉じた。
― その後、何事もなかったように朝が来た。
沙織は笑いながら朝食を用意し、誠さんはいつものように寡黙で。
ただひとつ違っていたのは――私たちの間に、もう「知らないふり」は通じないということだった。



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