車の窓越しに差し込む西日の光は、どこか懐かしい匂いがした。
エンジンの振動が足元からゆるやかに伝わり、過去の記憶が少しずつ目覚めていくようだった。
久しぶりに帰った実家の町。
スーパーの駐車場でカゴを抱えて歩いていた私に、ふいに懐かしい声が降ってきた。
「……マナちゃん?」
胸の奥で、長く封じていた箱の蓋がそっと開いたようだった。
中学時代の家庭教師、Yさん。あの頃、年上の余裕と優しさにほのかな憧れを抱いていた人。
あれから七年。大学三年生になった私は、もう彼にとって“教え子”ではなかった。
「うわぁ……ぜんぜん雰囲気違う、大人っぽくなったね」
彼の声も、目の奥の光も、変わっていないようでいて、どこか私を異なる存在として見つめていた。
「時間ある? よかったら、ちょっと話さない?」
その誘いに、首を振る理由なんてなかった。
助手席に乗った瞬間から、空気は少し張りつめていた。
窓から流れ込む風と、彼の視線が交差するたび、胸の奥がそわそわと熱を帯びていく。
「ガリガリくん、食べる?」
会話の空気を緩めたくて、スーパーで買っていたアイスを差し出す。
口に含むと、冷たさが喉を撫で、彼の視線がじりじりと肌に這う。
「……ピアス、似合ってる」
「大学入って開けたの。どう?」
「うん……なんか、ほんと綺麗になったよ」
ふいに彼の指が私の髪に触れ、そっと耳にかけられた瞬間、
氷菓子よりも冷たいものが背筋を走った。
「……変な声、出ちゃった」
照れ隠しに笑ってみせたけど、彼の目はもうあの頃の優しい先生のままじゃなかった。
迷いのないまなざしが近づいてきて、呼吸が止まった。
そして、唇が重なった。
溶けかけていたアイスの甘さと冷たさが、彼との口の中で混ざり合い、
感覚が痺れるように溶けてゆく。
彼の指がそっと私の腰を引き寄せた。
シートを静かに倒しながら、私の背中に腕をまわす。
押しつけるでもなく、引き裂くでもなく──ただ、そっと包まれる。
「マナ……めっちゃ可愛い」
唇が首筋に降りてきた。
吐息の温度が耳の奥をくすぐり、キャミソールの裾から入った手が、躊躇なく胸を探る。
親指が乳首をなぞるたび、身体の芯が反応してしまう。
「……気持ちいい?」
「……やばい……うん……」
言葉にするたび、欲望の炎に油を注ぐようだった。
彼の手が下着の奥へと滑り込んできたとき、私はもう抗えなかった。
でも、その夜はそこで終わらなかった。
彼の膝の上にまたがった私の脚は、震えていた。
けれど不思議と怖くはなかった。
私が自ら跨ることで、記憶と欲望を、確かに繋げた気がしたから──
ゆっくりと沈んでいく私の腰。
彼の鼓動が内側から伝わり、ふたりの身体が深く交わる。
重力に逆らうように揺れるたび、奥から熱が噴き上がってくる。
「マナ……すごい……綺麗すぎて……」
見下ろす彼の目に、自分が映っていた。
私は、彼の中にだけいる“女”だった。
何度も上下する動きの中で、彼の手が腰を支え、唇が胸を求めて這ってくる。
体内で擦れ合うたび、快感は雪崩のように広がって、理性の輪郭をぼやかしていく。
「ん……も、だめ、あっ……もう、いっちゃう……!」
視界がかすんで、身体の奥がきつく締まり、
彼の中に自分がすべて溶け込んでいく感覚。
ひとつに重なったまま、ふたり同時に、頂きへ──
熱がぶつかり合い、心の壁が崩れ落ちるような感覚だった。
喘ぎと吐息、濡れた音と震える声。
全てが混ざり合って、言葉を超えたところで、ふたりは一度死に、一度、生まれ変わった。
静けさの中で、彼が私の肩をそっと抱き寄せた。
「……マナ、俺、ずっと……」
言葉は聞こえなかった。
でも、胸に残った鼓動がすべてを伝えていた。
私はただ、彼の胸に頬を寄せ、目を閉じた。
まるで中学生の私が、今の私を祝福しているような、不思議な安心感があった。
過去と現在が重なり、
私はこの夜、心まで素肌になった。



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