第一章:ガラス越しの欲望 — 知性と情欲の境界線
春。新年度の大学キャンパス。
午後の講義を終えた私は、まだ温もりの残る教室に一人、ノートを整理していた。
「先生――ひとつ、質問してもいいですか?」
静かに響いたその声に顔を上げると、そこには佐伯遼が立っていた。
黒髪に白い肌、憂いを帯びた瞳が私の視線を正面から受け止める。
その立ち姿は、十八という年齢から想像できないほど、静かな色気を纏っていた。
「……あなた、よく残るのね」
「先生と話してると、落ち着くんです」
そう言って、彼は私の斜め後ろに腰を下ろす。
その距離感が、教師と生徒のものではないことに、私は気づいていた。
彼の指先が、ふいに私の手に触れた。
あまりにも自然に、けれど、明らかに“意志”のこもった接触だった。
皮膚の表面を走った微弱な電流のような感触に、私はノートの文字が霞んで見えた。
「由紀子先生って、綺麗ですよね」
「……なにを言ってるの」
「本当のことを、言っただけです」
その瞬間、私は自分の心の奥にあったもの――
もう“終わった”と思っていた女の欲望が、微かに息を吹き返すのを感じた。
第二章:音もなく崩れていく ― ベッドの上で、私はただの女になる
彼を自宅に招いたのは、理性の綻び――
けれど、彼の目が私を射抜いたとき、すでにその綻びは“裂け目”になっていたのだと思う。
「USB、渡すだけだから」
そう言って、彼を玄関に通したのは私。
けれど、静まり返ったリビングに二人きりという事実が、肌の下に、熱い予感を這わせていた。
「コーヒー、飲む?」
「先生の匂いがします」
後ろからふいに囁かれたその言葉に、背筋がぞくりとした。
次の瞬間、彼の手が私の腰に添えられた。
指先が、躊躇うふりをしながら、確信を持って私のブラウスのボタンに触れる。
カチ…とひとつ外れたとき、何かが胸の奥で音を立てて崩れた。
「……だめよ、そんなこと、しては――」
「先生が綺麗すぎるから。もう、我慢できない」
ボタンが外され、ブラウスが肩から滑り落ちると、レースの下着の輪郭に彼の視線が触れた。
そして次の瞬間、若い舌がその谷間に沈み、じっとりと濡れた熱を肌に溶かしてくる。
「可愛い……ここ、柔らかくて、美味しい」
恥ずかしい言葉に目を伏せたくなる。けれどそれ以上に、
彼の舌先が乳首の尖りを探り当てた瞬間、身体は無防備に反応していた。
「そんなに……吸っちゃ、だめ……んっ……!」
乳房が唇の熱でとろけ、奥の神経にじわじわと響く。
私は脚を揃え、膝を締めることでしか、自分の声を抑えることができなかった。
やがて彼の手が、スカートの裾を撫で上げる。
太ももの内側、下着の上から探るような圧がかかると、私はひとつ、小さな喘ぎを洩らしてしまう。
「すごい……もう濡れてる」
「見ないで……そんなふうに、言わないで……」
「大丈夫。俺が、もっと綺麗にします」
彼は私の脚をやさしく開かせ、ソファに腰を沈めると、私の中心に顔を埋めた。
レースの下着をずらし、そこに、ゆっくりと、舌を滑り込ませる――。
最初は震えるような舌先の輪郭。
そして、それが焦らすように、花びらのような肉をくすぐり、奥の芯に吸いついた。
「やっ、そんな、そこ……強く吸わないで……っ」
舌が円を描き、唇がやさしく蕾を含む。
私は思わずソファの縁を掴み、腰を前に押し出していた。
脚が勝手に震え、足先まで快感の波が届く。
彼の指がそっと入ってくる。舌と指――
二つの異なる熱が、私の奥をかきまわす。
「もっと……奥、そこ……気持ち、いい……っ」
その言葉に、彼はさらに深く舌を入れ、指の動きを増した。
私は息を呑み、背筋を反らす。
そして、彼は囁いた。
「次は、先生の番です。教えてください……触れられるのって、どんな感じですか?」
彼がズボンを脱ぎ、目の前に露わになったその熱を、私は指先で確かめた。
硬く脈打ち、今にも弾けそうな彼のそれに、唇をそっと触れる。
「ん……可愛い……舌、柔らかい……」
私はゆっくりと彼を含み、舌で円を描きながら喉の奥へと導いていく。
彼の手が私の髪を優しく撫でる。
深く、そして浅く。呼吸を合わせるように、私はその熱を味わった。
「やばい……先生、それ、ほんとに……気持ちよすぎて……っ」
唇を離すと、糸を引く。
その熱を再び確かめるように、私は彼の目を見つめながら、微笑んだ。
「全部、あげるわ。今夜だけは……女として」
そして、私たちはベッドへと沈んだ。
まずは正常位。
彼のものが、ゆっくりと私の内側へと滑り込んでくる。
じわりと広がる充足感。彼が私の奥に触れるたび、全身がひとつになっていく感覚。
「先生の中、あったかくて……締め付けてくる……」
「やだ……そんなこと言わないで……恥ずかしい……」
次は、後ろから――後背位。
彼の手が私の腰を引き寄せ、そこにまた、彼の熱が入ってくる。
深く、鋭く、けれど優しく。
私は顔をシーツにうずめ、声を押し殺す。
「奥……だめ、そんなに突かれたら……私、もう……!」
最後は、私が上に――騎乗位。
彼の胸に両手をついて、腰をゆっくりと回す。
自分で動くことで、彼の形をすべて感じ取れる。
「……あぁ、先生……可愛い……そんな顔、反則……っ」
彼が熱く脈打ち、私の奥を揺らす。
私は天井を仰ぎ、身体のすべてで、彼を迎え入れていた。
「いく……っ、お願い、もう、いかせて……」
重なった鼓動と快楽の奔流のなか、私は彼とともに、甘く、深く果てていった――。
第三章:女であるという目覚め ― 朝焼けに浮かぶ本当の私
目を覚ましたとき、カーテンの隙間から差し込む光が、部屋を金色に染めていた。
裸のままの身体。隣には、うつ伏せに寝息を立てる遼の姿。
彼の肌の匂い、私の中に残る熱の名残、それがまだ“現実”であることを教えてくれていた。
私はベッドの端に座り、窓の外を見つめた。
春の光が、どこまでも静かで、残酷なほどに優しい。
――女って、こんなに壊れるものなのね。
そう、心の中で呟いた。
彼は目を覚ますと、静かに私の肩を抱いた。
「また、逢ってくれますか?」
答えは言えなかった。でも、拒む気力ももうなかった。
私はもう、“由紀子先生”ではなく、ただの由紀子として、彼の腕の中にいた。
妻であること。母であること。
それは今日の私には関係なかった。
私は、女として、心から悦び、そして壊されたのだ。
その夜、私は再び、女として目覚めた。
そして――“罪”ではなく、“赦し”に近い静けさを知った。
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