夫の寝息が聞こえていた。
時計の針が0時を回るころ、私はまだ、唇を噛んでいた。
罪の匂いが、身体から消えない。
シャワーで幾度も流したのに、奥の奥に染みついたままなのだ。
名前は、陽菜(ひな)。
30歳。主婦。
夫の勤める建設会社は朝が早く、今夜も早く床に就いている。
子どもたちも、それぞれのベッドで夢の中。
家のなかは静かすぎるほど静かだった。
でも、心のなかではまだ、**圭吾(けいご)**の熱が脈打っていた。
出会いは偶然だった。
地域の体育館で、週2回だけ開かれるバスケットサークル。
「主婦にも健康を」と始めたつもりが、いつの間にか私の中で“唯一の逃げ場所”になっていた。
彼は、そこにふらっと現れた。
23歳の青年。長い手足、無垢な瞳。
けれどその目だけが、妙に鋭くて――女の奥にある“渇き”を見抜くような光を宿していた。
最初に名を呼ばれたとき、空気が変わったのを覚えている。
「陽菜さん、すごく綺麗ですね。主婦なんて信じられません」
笑って受け流した。けれど、その夜。
私は夫の腕に抱かれながら、目を閉じても、彼の声が耳を離れなかった。
あれは、真夏の夜だった。
圭吾の誕生日。ファミレスの駐車場、エンジンを切った車内。
外では蝉が鳴き、窓の内側では、私の肌が静かに汗ばんでいた。
「……キス、していいですか」
その問いに、私は「だめよ」と答えなかった。
答える前に、もう彼の唇が私の唇を塞いでいた。
一瞬で、背筋が震えた。
濡れる音。
舌の柔らかさ。
触れられてもいないのに、身体の中心が熱くなっていくのがわかった。
キスだけ。
そう思っていた。
でも、その日から私の身体は、彼の熱に目覚めてしまった。
それからの数日、私はサークルを休んだ。
罪悪感に押し潰されそうで――
けれど、昼間、誰もいないリビングで、ソファに寝転がると
スカートの中に指が伸びていた。
ひとりで触れながら、私は圭吾の舌の感触を思い出していた。
唇を、喉を、太ももを。
彼がまだ触れてもいない部分を、想像だけで何度も攫われていた。
夫が夜、求めてくるのを断ることが増えた。
そのたびに、私は彼に申し訳ないと思いながら、別の男の名を心で呼んでいた。
再会は、私から望んだ。
「…会いたい」
その一言に、圭吾はすぐ「はい」と返した。
夜の体育館。裏口の非常扉を抜けた倉庫。
汗と木の匂いが漂うその場所で、私は圭吾の腕に抱かれた。
「我慢してたんだ…陽菜さんのこと、ずっと…」
「わたしもよ。…止められないの」
手が、触れる前から震えていた。
ジャージの紐をほどき、指先で硬く熱を帯びた彼を包む。
圭吾の身体が跳ねた。
私はしゃがみこみ、舌を這わせる。
濡れた音、甘い匂い。
全身が淫靡に濡れていく。
「……陽菜さん、出ちゃいそう…」
「まだダメよ。中に欲しいから…」
私は下着を膝まで落とし、壁に手をついた。
尻を突き出すと、圭吾が震える指で私の腰を支える。
そして、ゆっくり、奥へと挿し込んできた。
「……あ、んっ……あぁ…」
咄嗟に声を押し殺す。
けれど、甘く高い快楽が喉を突いてくる。
奥を、何度も、叩かれるたびに
頭が真っ白になる。
もう、自分がどこにいるのかも、誰のものなのかも、分からなかった。
「…出して、奥に……お願い……全部、頂戴…」
私の声は震え、圭吾は呻くように腰を深く沈めてきた。
熱いものが脈打ち、内側を満たしていく。
「……ごめんなさい、止められなかった…」
「いいの…わたしも、同じだから…」
倉庫の隅、誰にも知られない場所で。
私は圭吾の腕の中で、何度も自分の名を失った。
そしてその夜、帰宅後も、シャワーを浴びても
私は何度も、自分の指で、あの罪を思い出していた。
今夜も、夫の隣で眠れずにいる。
仰向けになると、下腹部がじんわりと疼く。
タオルケットの下で、指先がすべり、触れた途端――
またあの夜が蘇る。
私はまだ、圭吾に貫かれたままなのだ。
これが不倫なら――
私は、喜んでその罪を受け入れる。
この悦びが、いつか罰を招くとしても。



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