第一章 ユニフォームを脱いだ夜に
「真理さん、今夜、うちでパパたちと軽く飲んでるから来なよ」
──そうLINEをくれたのは、息子の少年野球チームでコーチをしている、井上さんだった。
その日は金曜日。主人は今週ずっと大阪出張。息子は合宿中。夜風はぬるく、キッチンの片隅に置いた保冷バッグには、ビールの缶が冷たく汗をかいていた。
「奥さんたちは?」
思わず聞いた私に、井上さんは笑って「奥さんたちは怖いから呼ばない」と、冗談ぽく返してきた。
少年団の飲み会は、普段は家族ぐるみで賑やかにやるのが常だった。でも今夜は違う。「パパたちだけで」と聞いたとき、私は胸のどこかが軽く痛むように反応した。
見送る者のいない玄関で、私はリップを引き直し、ジーンズからワンピースに着替えた。
いつもはユニフォーム姿で接してきた彼らに、女として見られるのか。
その期待が、肌の内側を静かに湿らせていた。
第二章 テーブルを囲む手と視線と──四人の男たち
「おっ、真理さん来た!」
「やば、めっちゃいい匂いするじゃん」
「それ、野球場じゃ着ないでしょ?」
彼らは言葉の端々に、男だけの空間に“女”がひとり混じったことを楽しんでいた。
ピザの油、焼き鳥の煙、そしてハイボールのアルコール。狭いリビングの空気が、だんだん濃くなっていくのがわかった。
四人の男たち。
井上さん。寡黙で一番年上。息子の打順をいつも真面目に考えてくれる人。
拓也くん。細身で優しくて、いつも私にだけLINEが多い。
佐藤さん。ジム通いでガタイがよく、口数が少ない分、視線が鋭い。
そして、涼くん。まだ三十代前半で、息子がピッチャーのときキャッチャー役をしてくれる、甘えたような年下の空気。
酔いがまわるにつれて、話題はだんだんと下世話な方向に傾いていった。
「ぶっちゃけ、真理さんってさ……モテるでしょ」
「ご主人、いないの今週だけ?」
「女って寂しくなると、肌、乾燥するっていうけど……嘘でしょ?」
冗談交じりの質問。でも、どこか鋭利。
私は笑って受け流しながら、グラスの氷をくるくるとまわし、脚を組み替える。
「……じゃあ、俺たちの中で、誰が一番タイプ?」
ふとした静寂の中、涼くんがそう聞いたとき、部屋の空気がひとつ、音を立てて崩れた。
返事をためらっていると、拓也くんが私の手の甲に、そっと指を這わせた。
その瞬間、私はもう笑えなくなっていた。
第三章 声を出せない夜──夫のいない間に
手の感触が、火のように残った。
浴室のタイルでさえ乾いているこの季節に、私は自分の太ももの内側がしっとりと濡れているのを感じていた。
井上さんが、私の後ろに回って髪をそっと撫でたとき──
拓也くんが、ワンピースの裾をそっとめくり、膝頭にキスを落としたとき──
涼くんが、ブラのホックを指先で外したとき──
私は、誰の手かもわからない熱に包まれながら、もう「ごめんなさい」とは言えなかった。
畳の上。肌が重なるたび、胸が震え、息が漏れ、女としての輪郭が溶けていった。
私を囲む四つの視線が、指が、息が──
まるで野球のベースのように、順番に私の中を巡っていく。
声は殺した。息だけで鳴いた。
夫がいない間だけの“夜”に、私は誰よりも淫らに、敏感に、汗ばみ、濡れて、揺れた。
クライマックスの瞬間、私の全身が波打つように跳ねて、そして崩れ落ちた。
そのあと、井上さんが静かに「ごめんな」と呟いた。
私は笑って「謝るのは私の方よ」と答えた。
心も身体も、まだ火照っていたのに、どこか冷たく風が吹いていた。
翌朝。
洗面所で顔を洗い、鏡を見たとき、私の頬には見覚えのない赤みが残っていた。
誰の手だったのかはもうわからない。けれど私の中には、確かに“あの夜”が残っていた。
夫にはきっと気づかれない。
でも、私の中の女は、あの夜からもう戻れない。



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