第一幕:湯けむりと孤独と、すれ違う夫の背中
夫と私は、もう長いこと抱き合っていない。
触れ合いも、言葉も、まるでどこかへ置き忘れてしまったように。
「お互い忙しいから仕方ない」
そんな言い訳を何年も続けてきた。けれど心の奥では、寂しさという名のひびが静かに広がっていた。
38歳の私は、仕事の出張を利用して、ひとり温泉宿に滞在していた。
静かな山あいの旅館。誰にも知られず、何も求められず、ただ夜の湯に浸かる。
その夜、露天風呂の隣にある小さなバーで、一人でグラスを傾けていた私に、
「こんばんは、おひとりですか?」
と声をかけてきたのは、年下の青年だった。
二十歳そこそこの大学生。友人たちと旅行に来ていると言う彼は、礼儀正しく、笑顔の奥にどこか影を持っていた。
その彼の後ろから、もう二人の仲間がやってきた。
三人とも背が高く、日に焼けた肌に白い歯が眩しい。
驚くほど私好みのタイプだったのは、きっと偶然じゃない。
女の本能が、何かを察していた。
「僕たちの部屋で、二次会しませんか?」
そんな誘いに、「だめよ」と笑って断りながら、
心のどこかでは、もう頷いていたのかもしれない。
第二幕:三つの若い熱に囲まれて、ほどけていく私の身体
三人の部屋に入った瞬間、空気が変わった。
狭い和室に広がる男の匂い、酒とシャンプーと、どこか甘い香り。
私は着崩した浴衣のまま、彼らの差し出すお酒を少しずつ口にした。
いつもなら慎重な私が、どこかゆるんでいたのは、きっとこの旅館の夜のせい。
「肌、綺麗ですね」
最初に触れたのは、一番年上の彼。そっと私の髪を撫で、耳に口を寄せる。
その吐息だけで、私は喉の奥がふるえた。
気づけば三人の熱が私を包み込んでいた。
誰がどこに触れているのかも、わからない。
背中に、太ももに、首筋に……若く硬い指が、熱を伝えてくる。
浴衣がゆっくりとずらされ、裸になった身体を、三つの視線が真っ直ぐに見つめた。
「奥さん、すごく綺麗です」
「ずっと触れていたかった」
「抱きたい、なんて思ってしまいました」
罪悪感よりも、圧倒的な欲望が勝っていた。
私は自分でも信じられないほど、熱く、濡れていた。
胸に吸い付かれ、舌が這い、指が奥へと進んでくる。
もう誰にどうされているのか、曖昧になるほどに、
私は男たちに開かれていった。
「順番とか、もうどうでもいい……」
自分の口から漏れた言葉が、自分のものとは思えなかった。
夜は深く、体位は幾度も変わり、
私は何度も絶頂を越えては、若い熱に飲み込まれていった。
第三幕:朝靄の中で、まだ女でいられるということ
目が覚めたとき、私は布団の中、彼ら三人に囲まれていた。
誰かの腕に抱かれたまま、誰かの脚が私に絡んでいた。
昨夜のことは、夢だったのかもしれない。
でも身体には、確かな痕があった。唇の痕、爪の跡、快楽の余韻。
誰も何も言わなかった。
けれどその沈黙が、妙に心地よかった。
「……朝、食べませんか?」
彼のひとことで、私はふっと笑った。
38歳、人妻、旅先での過ち。
でも私は、心の奥底で確かに救われていた。
女として、まだ求められる喜び。
誰かの手で溶かされる幸福。
許されない一夜の中で、私は生きていると感じた。
心のどこかで、また会いたいと思った。
でも、きっともう二度と交わらない。
それでいい。
あの夜があったことだけが、これからの日々を照らしてくれるのだから。



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