【第1部】“応援してます”と指先で告げた夜に、私はもう濡れていた
たった半年。
そのわずかな期間、私は彼の秘書だった。
春のはじめにその部署へ異動になり、彼はその秋には転勤。
入れ替わるように、私はまた別の部署へ戻った。
けれど、たったその半年間が、今の私の、すべての始まりだった。
彼は23歳年上の56歳。
白髪交じりの髪も、年相応の皺も、なぜだか私には艶やかに見えた。
忙しさの中でも、手元の書類を渡すたび、目を合わせてくれる。
「ありがとう」
「無理しないように」
その声の湿度が、私のどこかを毎日濡らしていた。
身体じゃなくて、もっと奥──理性の皮膚のような部分が。
夜、夫とセックスするときさえ、
私はその声と笑顔を思い浮かべていた。
頭の中では、彼が私の胸に触れている。
脚の間にいる。
私を見下ろして、あの声で囁く。
――もし、彼に抱かれたら、どんなふうに壊れてしまうんだろう。
送別会の帰り。個別に開いた、小さな会。
タクシーの中、酔いと緊張と衝動で、私は彼の手を握った。
「……応援してます」
握り返された指が、私の理性の最後の膜をやさしく破った音がした。
その一ヶ月後。
彼が転勤先から戻ってきた夜、私は彼とふたりで飲みに行った。
そして、帰り際のエレベーターの中で、彼の手が私の頬を撫でた。
唇が触れた瞬間、私の身体の奥が、ゆっくりとひらいた。
キスだけだった。
でも、あの夜の私の下着は、触れられてもいないのに濡れていた。
【第2部】「ビチョビチョになってるとこに、キスしてもいい?」という声に、濡れたのは身体だけじゃなかった
それから、私たちは逢瀬を重ねるようになった。
彼が出張でこの街に来るたび、私は理由をつけて家を出た。
駅前の決まったホテル。
チェックインの時間に合わせて、私は先に部屋へ向かう。
ドアが開いて、彼が入ってくるとすぐに、空気が変わる。
玄関のたたきで、彼はもう私を抱きしめてくる。
スーツのまま、無言のまま。
その腕の中で私は声を漏らし、脚の力が抜けていく。
ベッドに押し倒され、スカートの中に手が入る。
胸元のブラウスがめくられ、唇が乳首に降りてくる。
私の声が天井に届くたび、彼のキスは深くなる。
「あぁ……もう……濡れてる……」
恥ずかしさで目を逸らした私に、彼は低く囁いた。
「ビチョビチョになってるとこに、キスしてもいい?」
私はいつも、それだけは後にしてもらう。
お風呂に入ってからでないと、触れられたくない。
清潔の問題じゃない。
もっと、自分を差し出す準備をしたいから。
「あとでね」
じらすようにそう言って、私は彼の胸に顔を埋める。
バスルームで彼の身体を洗うとき、私は丁寧に彼のものを撫でる。
泡のぬるつきと肌の温かさが混ざる指先。
彼はときおり私を抱き寄せて、胸元を吸う。
もうそれだけで、腰が揺れるほどに疼いていた。
ベッドに戻ると、彼の舌が私の乳首を含む。
くちゅり、くちゅりと濡れる音。
そして指が、私の脚の間へ忍び込む。
「……あぁ……もうダメ……」
私の膣口に触れることなく、彼の唇はお腹、太腿、そして……奥へと滑る。
まるで私の意思とは関係なく、全身が開いていく感覚。
彼の舌がクリトリスだけでなく、膣全体を、
唇の内側で吸い、舐め、震わせてくる。
私は、声を止めることができなかった。
【第3部】「イクとき、キスして」その一言で、私のすべてが赦された
私は、フェラが苦手だった。
けれど彼のものは、どこかかわいくて、いとしかった。
熱を帯びたそこに吐息をかけ、先端を舌で転がす。
穴をクチュ、と吸い、舌の先で撫でていくと、
彼の喉から震えるような声が漏れる。
「……智美……気持ちいい……」
私は名前を呼ばれるたび、下腹部が痺れた。
カリ首を丁寧に舐めながら、口の中でレロレロと舌を這わせる。
裏筋に唇を這わせ、手も添えて上下させると──
彼は果てる。
本番の前に、何度も。
でも、そのあとが、私の本当の時間。
私は彼の上にまたがり、ゆっくりと受け入れる。
膣の中を押し広げていく感触が、深くて甘い。
最初は膝をついて、ゆっくり。
次に、M字に開いた脚で深く沈み込む。
その姿勢のまま、彼の目を見つめながら揺れると、
「そこ……すごくいい……」と彼が震える。
けれど、私は筋肉がもたない。
今度は彼が後ろから、私を包むように入ってくる。
タマが揺れるたび、私の奥にぶつかる場所が変わる。
そのたびに、私は声を上げてしまう。
正上位に戻り、私は彼の肩を抱いた。
「イクとき、キスして」
その一言に、彼の瞳が潤んだ。
「……いい?……イクよ……智美、イクよ」
ディープキスと同時に、彼は私のお腹に放つ。
その熱が肌に伝わる頃には、私の膣も震えきっていた。
終わったあとも、私は離れられなかった。
彼を仰向けにして、そのまま舐めた。
彼の香りと味と息が、私の喉を震わせる。
そして、また。
今度は69。
そしてまた、挿入。
彼は56歳にして、2時間で3回、私の中で果てる。
そのたびに、私は赦されていた。
年齢差も、立場も、既婚者という事実さえも。
「なぜ抱かれたのか」ではなく、
「なぜ抗えなかったのか」がすべてを説明してくれた。
気づけば、この関係は一年半。
疑われることもない。
それは、この歳の差のおかげかもしれない。
けれど、私は知っている。
疑われないことよりも、
“見られたい”と思っている自分がいることを──。


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