いつもより少し早い電車に乗る朝だった。
端のボックス席が空いていたのはラッキーだったけれど、昨夜の疲れがまだ体に残っていて、私は誰もいないその席に吸い込まれるように腰を下ろした。小さなカバンを膝に抱え、薄手のコートを羽織ったまま目を閉じる。
目覚めていないのは、体だけだったのかもしれない。
車内は静かで、空調の低い音と、時折遠くで誰かがページをめくる音がするだけ。うとうとと揺れに身を預けていると、不意に、視線のようなものを感じた。
「……ん」
まぶたの奥が、ほんのりと焼けるような感覚。
目を開けると、向かいの席に誰かが座っていた。――驚いた。そこには、息子の友人・涼がいた。
大学生になった彼とは、しばらく顔を合わせていなかった。
「……涼くん?」
「あ、気づきました? こんにちは……じゃなくて、おはようございます、かな」
少し照れたように笑ったその顔は、昔と変わらない人懐っこさと、でもどこか、見違えるほど大人びた色気を帯びていた。
細身のパンツに、淡いグレーのシャツ。高校生の頃よりも背が伸び、体格も引き締まっている。いつのまに、こんなに“男”になっていたんだろう。
「ここ、いいかなって思って」
「うん……もちろん。びっくりしたけど」
思わず笑ったけど、胸の奥では小さな波紋が広がっていた。
それは懐かしさと、少しの戸惑いと――それ以上の、何か。
ふと気づくと、彼の視線が私の脚に落ちていた。
膝上丈のスカート。電車の暖房でうっすらと汗ばんだ太もも。コートの隙間から、素肌が少し覗いている。
私は慌てて姿勢を直そうとした。でも、彼の視線は逸れなかった。
「……今日もお綺麗ですね」
その言葉が、肌の奥まで響いた。
冗談まじりかもしれない。けれど、あの目の色は――本気だった。
涼の言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「お綺麗ですね」――そんな言葉、いつから言われなくなっていただろう。
私は曖昧に笑って目を逸らし、また目を閉じた。寝たふり、だったかもしれない。
けれど視界を閉じても、彼の存在はすぐ隣に満ちていた。
同じ空間にいるはずなのに、まるで彼だけが別のリズムで動いているような、不思議な気配。
電車の揺れに合わせて、コートのすそがふとずれた。
脚に当たる冷たい空気。そこに――それよりもほんのり温かい、布越しの圧が加わった。
指先だった。
そう気づいたときには、もう彼の手が、私の太ももにふれていた。
「……涼くん」
囁くように名前を呼んだのは、止めたかったから? それとも――。
「……起こしちゃいました?」
声は低くて、どこかくすぐるような響きを帯びていた。
私は目を開けられなかった。頬が熱くなり、指先は硬直したまま膝の上で震えていた。
その手が、そっと滑る。
コートの布の下、スカートの端をかすめ、柔らかく指がストッキング越しに脚をなぞってくる。
電車のガタンという音が、心音と重なる。
朝の静寂に閉じ込められた密室。誰にも見えない場所で、私は静かにほどかれていく。
「ずっと、こんなふうに、触れてみたかったんです」
耳元でささやかれた瞬間、身体の芯が、きゅっと引き締まる。
「息子の友達に、こんなこと……」
そう思った。なのに、拒まなかった。
むしろ脚は彼の手に沿うように、わずかに開いていた。
――ストッキング越しの指先が、私の一番熱いところを撫でてくる。
はじめは布の上から、そっと。
それが次第に、押し当てるような動きに変わる。
呼吸が浅くなっていく。車内は誰も会話をしていない。
だけど私の心は、叫びたいくらいざわついていた。
彼の手が、そっとストッキングの内側へと入り込んだとき、
私は目を閉じたまま、膝を少しだけ上げてしまっていた。
彼は言葉にせずとも、私の動きが合図だと受け取ったようだった。
指先が、熱を帯びたまま奥へと。
乾いた生地のすれと、濡れはじめた感触が、密かに交差する。
「……感じてるんですね」
耳元にふっとかかる吐息。
体中が熱くなり、股の奥がきゅうっと収縮する。
抵抗しようとする心と、ほどけていく身体。
私は、どちらも自分だと受け入れ始めていた。
涼の指が私の奥にゆっくり入ってきたとき、
心の奥で、何かが割れたような音がした。
唇を噛みしめ、必死に声を押し殺すその瞬間、
私の身体は彼の指先に、全てを明け渡してしまっていた。
コートの中で、小さく震えながら──私は、確かに達していた。
電車の中で、誰にも知られずに。
外は、何も変わらない朝だった。
けれど、私の中にはもう、元には戻れない何かが残っていた。
駅に着いても、身体はまだ熱を引きずっていた。
背中には、彼の指の軌跡のような余韻。
脚の奥には、甘く火照る疼き。
「このまま……もう少し、一緒にいられませんか?」
彼が私の後ろで、静かに言った。
返事をする代わりに、私はゆっくり振り向いた。
目を見れば、わかってしまう。涼も、私と同じ熱を抱えていた。
駅前のホテルは、思っていたよりも近くにあった。
でも、歩いている間の数分間が、とても長く感じられた。
誰かに見られていないか、という羞恥と、
彼の横顔を見るたびに込み上げる期待が、
呼吸を浅くしていった。
エレベーターの中。
誰もいないはずなのに、彼の手がそっと私の腰に触れる。
ただそれだけで、さっきの車内がフラッシュバックして、
思わず喉が鳴った。
「部屋、入ったら……ちゃんと、触れていいですか?」
その問いに、私は小さく頷いた。
それが、「欲しい」という意思のすべてだった。
部屋に入ると同時に、静かにコートを脱がされた。
白いニットのワンピースの下――電車の中で下げたストッキングは、
まだ中途半端な位置にひっかかっていた。
「……このままの方が、朝の続きみたいですね」
涼の指が、そのままの形に絡まっていたストッキングの上をなぞる。
私はベッドに腰をかけながら、太ももを震わせた。
電車の中ではできなかった、声が漏れる。
「んっ……」
その音に反応するように、涼が私の前に跪いた。
スカートを捲り上げた彼の目が、
私の、まだ濡れて熱を持った奥を見つめる。
「……きれいだ、と思ってしまいました」
そのまま彼の唇が、私の脚の内側に落ちてきた。
舌がゆっくりと、ストッキング越しの湿り気を確かめるように動く。
布ごしの熱が、逆にいやらしいほどリアルに伝わってきて、
私は思わず腰を引いた。
「……ちゃんと、見てください」
涼の声に導かれるように、私は顔をあげた。
彼は、まるで祈るように、私の脚の奥に口づけていた。
そして、ストッキングとショーツを一緒に滑らせながら脱がせると、
そのまま、唇が私のそこに触れた。
ぬるん、とした音。
朝の車内で寸止めにされたままの熱が、一気に溢れ出す。
「気持ちよくなってください……全部、俺がしてあげますから」
彼の舌は、誰よりも丁寧に、私をほぐしていった。
何度も何度も撫でるように、吸うように、
まるで“学んでいる”ように私の反応を確かめながら。
私の中に、また朝の熱が戻ってくる。
身体の奥で、静かに波が巻き起こりはじめる。
目を閉じたその瞬間、
私ははっきりと理解していた。
涼の唇が私の脚を撫でるように伝っていたとき、
私はもう抗うことをやめていた。
「……入れるよ?」
囁きは、朝よりも深く、熱を帯びていた。
答えるかわりに、私はベッドの上で腰を少し浮かせていた。
涼は、私の目を見つめたまま、
ゆっくりと、自分自身を私の中に差し込んできた。
「んっ……ぁ……」
熱いものが、私の奥へゆっくりと入ってくる。
電車の中であれほど求めた“続き”が、今まさに満たされていく。
肌が重なった瞬間、私の中に張りつめていた何かが、ふっと溶けた。
涼は、深くまで挿し込むと、しばらく動かなかった。
ただ私を見つめ、内側の感触を確かめるように、
呼吸と鼓動を私と重ねていた。
「……あったかい」
その言葉が、胸の奥を甘く締めつける。
「動くね」
一度深く沈んでから、ゆっくりと引かれる。
濡れた音が、空気の中で静かに響く。
そしてまた、彼が私の中へと深く戻ってくる。
その繰り返しが、やがてリズムを持ち始めたとき、
私はベッドの端をぎゅっと掴んで、震える腰を受け止めていた。
「すごい……中で、締まって……」
「そんなこと……言わないで……」
でも、内側は彼のものを離したくなくて、
求めるように、きゅっと収縮してしまっていた。
腰を打ちつけるたびに、ベッドがかすかに揺れる。
息遣いが絡み合い、額と額が触れる距離まで、彼が近づいてくる。
「ああ……涼くん、だめ、もう……っ」
「イきそうなの?」
私は必死に首を振ったけれど、
その反応が彼には「イってください」の合図に見えたのだろう。
さらに深く、強く、彼の熱が私を突き上げる。
「んんっ、あっ……やっ……やだ……っ」
身体の奥で、波が巻き起こり、息が浅くなる。
涼の手が、私の髪をなでながら、唇をふさぐ。
そのままキスをしながら、私は自分の限界が近いのを感じていた。
そして、次の瞬間――
「んっ……ああっ……!」
腰が跳ね、脚が勝手にきゅっと締まる。
涼の中で、私はビクビクと波打ちながら、深く達していた。
彼の名を声にならない声で何度も呼びながら、
私はシーツの上で小さく何度も震えた。
身体の奥から、熱いものがこみ上げ、
それが抜けていくと同時に、
全身の力が抜けて、静かに涼の腕の中に沈んでいった。
「……眠っちゃったね」
耳元で、優しい声がした。
私は目を開けずに、小さく笑って答えた。
「……少しだけ、夢を見てた」
「夢、ですか?」
「うん。……朝の電車の中の、続き」
彼が何も言わずに微笑む気配がして、
私はようやく目を開けた。
光は変わっていた。
窓の外は、すっかり昼の色になっていた。
私はゆっくりと身体を起こし、髪を整えながら涼のシャツに手を伸ばす。
「……そろそろ、戻らなきゃ」
現実の時間が、再び動き始めていた。
彼が私の横顔をじっと見つめながら言った。
「また、会えますか?」
私はシャツのボタンに指をかけたまま、少しだけうつむいた。
そして、何も言わずに彼の手に自分の指を重ねた。
その沈黙が、「また」を許した気がした。



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good