女であることを、忘れていたわけじゃなかった。
ただ、あまりにも長く、抱かれなかっただけだった。
抱きしめられることも、肌を求められることも、もう必要とされていないと、自分に言い聞かせて生きてきた。
でも、あの夜。母という皮膚が波の音に洗われ、風に削がれ、私は女としての輪郭を取り戻した。
子どもを連れて、ママ友3人で来た海辺のキャンプ。
沙織、由紀、そして私。子どもたちは5人。浜辺で遊び尽くして、早々に全員がテントで眠り込んだ。
母親という仮面は、子どもの寝息と一緒に沈んでいった。
隣の区画には、大学生3人組。肌を焦がすような視線。若くて素朴で、だけど獣のように本能を隠さない目。
「ママ」ではない「女」としての私たちに向けられる、あの目。
最初に抜けたのは沙織だった。
何も言わず、グラスを置いて立ち上がり、ワンピースのまま海へと歩き出す。その背に、痩せた大学生のひとりが自然とついていった。
波打ち際で唇を重ね合うふたり。
白いワンピースがずり上がり、彼の手が彼女のヒップを這う。
私たちの耳に届くか届かないかの吐息。
「やだ、こんなところで……」
「誰もいませんよ。ここで、感じてください」
彼の身体に抱き上げられるようにして、沙織は彼の上にまたがった。
交わる音。波音と溶け合って、沙織の口元から艶やかな喘ぎ声が洩れる。
次に席を立ったのは由紀だった。
「ちょっと、風にあたってくるね」
手にはワインのグラス。ふだんは息子たちに怒鳴ってばかりの彼女が、そのときだけはひどく女らしかった。
筋肉質な大学生が由紀の手首を取って、物陰へ連れていく。
「ほんとにこんな……若い子と、していいの?」
「歳なんて関係ないですよ。ずっと、あなたの脚が気になってました」
スカートが捲られ、由紀はテントの裏に押し倒される。
唇を重ね、首筋に舌が這い、彼女の背中がのけ反る。
「だめ、そんな激しくしたら……声、出ちゃう……」
でも、大学生は彼女の中に深く沈み、腰を打ち付ける。何度も、何度も、貪るように——
私は焚き火の前に残されていた。
燃え尽きかけた炎のオレンジが、私の胸元を揺らし、まるで女としての私を最後に照らしてくれているようだった。
「お子さん、ぐっすりですね」
その声に振り返ると、タカシくんがいた。あの大学生。私のことを、母親ではなく、一人の“女”として見ていた視線の持ち主。
「ええ……もう母親業は、今夜はお休み」
「じゃあ……女として、隣に座っていいですか」
その言葉に、私の内側が静かに、しかしはっきりと震えた。
彼が隣に座り、そっと私の膝に手を置いた。私も無意識に、彼の指に自分の指を絡めていた。
「ずっと見てました。あなたの笑顔も、脚も、首筋も……全部、見惚れてました」
喉の奥が熱くなった。長く忘れていた言葉。長く忘れていた視線。
「……抱かれたいの?」
私の声は、かすれていた。
「……はい。ずっと、あなたを抱きたかった」
私は立ち上がり、テントの裏へ彼の手を引いた。
夜の風が、肌にまとわりつく。テントの影、誰の目にも触れない草の上。
私たちはそこで、黙って向かい合った。
彼の手がTシャツの裾をまくり、胸を撫で上げる。ブラ越しに乳房を包み込む手が、まるで確かめるように優しい。
「すごく……柔らかい」
私の手が、彼の腰に伸びる。ベルトに触れ、震える指先で外す。
ズボンの中から現れた熱を、私はゆっくりと手に取った。
恐れと興奮が交錯し、息が詰まりそうになる。
しゃがみ込み、唇でそっと彼を包んだ。
「……ん……っ」
彼の指が私の髪をそっと撫でる。私はゆっくりと舌を這わせ、彼の脈動を口内で感じながら、自分が“求められている”ことを全身で受け取っていた。
「気持ちよすぎて……もう」
私はそのすべてを飲み込み、目を閉じて余韻に浸った。
そして彼を見上げ、言った。
「今度は、私の中で、満たして……」
彼が私を押し倒し、ショーツをずらす。
「濡れてる……こんなに、もう」
そのまま彼の舌が脚のあいだを這い、私の中心を貪るように吸う。
「ん……っ、そんな、強く……」
身体が勝手に震え、指が草を掴む。声を押し殺すのがやっとだった。
「挿れるね……?」
頷く間もなく、彼が私に入ってきた。
「熱い……深い……っ」
打ち付けるたびに、奥に届く感覚。私は脚を彼の腰に絡め、求めるままに腰を動かした。
「もっと……もっと激しく……」
快楽に飲み込まれ、何度も絶頂に達した。
「中に……出して……全部……私の中に……っ」
彼が果てる瞬間、私は静かに涙をこぼした。
翌朝、誰も何も言わなかった。
沙織は笑い、由紀は子どもの髪を結い、私はコーヒーを淹れた。
でも3人とも、どこか遠くを見ていた。
昨夜、波の音に抱かれながら、それぞれが“女”に還ったことを。
誰も、言葉にしなかった。
だからこそ、あの夜は永遠に美しい。
そして、また私は夜の海を思い出す。
女でいることを、許されたあの夜を。



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