【第1部】机越しの沈黙が、女の奥に触れた夜──“質問時間”が疼きに変わる瞬間
夫と最後に身体を重ねた夜がいつだったか、思い出せない。
日付すらも曖昧で、けれど、あの夜の「私じゃない何か」と抱き合っているような感覚だけは、今も身体のどこかに残っている。
それでも、私は講師という役割を捨てない。
学習塾という蛍光灯の下で、淡々と進行表に従い、淡々と答えを示し、誰かの未来のために時間を注ぎ込む。
それが、私の「今」だった。
けれどその夜、“彼”は来た。
質問があると、ノックもせずに教室に入ってきた彼は、大学一年の裕真(ゆうま)。
高校を卒業しても、なぜか時々この塾に顔を出す。
最初は受験生の弟の送迎ついでだったらしいけれど、最近はそれもなくなった。
「先生、まだ残ってたんですね」
柔らかな声。
でも、目だけが大人びていた。
見下ろすでも、媚びるでもなく──ただ、まっすぐに。
「ちょっと、英語のことで聞きたいことがあって」
「今さら受験英語?」
「うん。…じゃなくて、“先生”の英語が、好きなんです」
机を挟んで隣に座るその距離が、
なぜかいつもよりも近く感じられた。
会話は教科書の延長のようで、
でも、彼の視線はそうじゃなかった。
シャープペンの芯を変える音すら、息を詰めてしまいそうな沈黙。
その静けさが、教室という空間に、湿った熱を滲ませていく。
「先生ってさ、誰にも触れさせないような雰囲気、あるよね」
その言葉に、呼吸が止まりかけた。
私は笑ってごまかそうとした。
でも声が震えた。
彼の目が、その震えをちゃんと見ていた。
「俺、触れたいと思ったことあるんです」
言葉の意味に気づく前に、
その声音に、下腹がきゅっと疼いた。
それは、指先でも唇でもなかった。
けれど、確かに“私”の奥に触れた──そんな気がした。
【第2部】沈黙を破った唇と濡れたまなざし──“先生”が“女”に還る夜のはじまり
「…先生、俺のこと、嫌いですか?」
その言葉は、質問ではなく、
触れられたくなかった“蓋”を、そっとこじ開けるような響きを持っていた。
時計の針が22時を過ぎたのを見た瞬間から、私は早く帰らなければと頭では思っていた。
でも、身体が動かない。
帰る理由よりも、ここに残る理由が、少しずつ濡れた呼吸になって部屋に満ちていた。
「どうして、そう思うの?」
自分の声が、思ったより掠れていた。
喉が乾いているわけではないのに、妙に奥が張りついている。
言葉を発するたび、下腹の奥に振動が伝わるような感覚。
「だって…俺がこんなふうに近づいても、逃げないし…」
そう言いながら、彼は私の顔を見つめて、
まるで“触れてもいい?”と目で聞いてくるようだった。
私は、逃げなかった。
むしろ──待っていたのかもしれない。
「……高校生のときは、子どもに見えた。でも今は……」
そこで言葉が詰まった。
言えない。言ってしまったら、すべてが戻れなくなる。
けれど、彼は一歩、私の顔の近くに寄ってきて、
机の上に手をつき、覗き込むように言った。
「今は? 俺、どう見えてる?」
香りがした。
若い男の肌から漂う、石鹸と熱のまざった匂い。
それだけで、太ももの内側が疼く。
椅子に座っているのに、重心がふわふわしていた。
「……男に、見えてるわよ」
そう答えた瞬間、彼の瞳が微かに揺れて、
そのまま、私の唇に触れてきた。
唇だけ。
けれど、それは接吻ではなかった。
“確認”だった。
女である私が、本当にここにいるか。
触れても壊れないか。
許されるのか。
そのやわらかな唇に、私は微かに息を吐いた。
吐息のなかに、何かが溶け出す。
「……触れたいの?」
囁くように聞いた私の声は、私のものではないようだった。
まるで、身体の奥が声帯を奪って、代わりに答えさせたみたいに。
「ずっと、触れたかった」
そう言って、彼の指が私の髪に触れた。
耳の裏からうなじへ。
ゆっくりと、誰にも見せたことのない部分をなぞるように。
そのやさしい指が、まるで私の“拒絶”を、丁寧に剥がしていく。
髪を撫でられただけなのに、
ブラウスの中の乳首が、信じられないほど敏感になっていた。
「ねえ、先生……このまま、帰さないとしたら……怒りますか?」
そんな言葉、10代の男の子が言っていい台詞じゃない。
でも私は、笑えなかった。
むしろ、その一言で、何かが完全にほどけた。
「……怒らないわ」
唇がそう言ったときには、
私はもう、濡れていた。
“あの人”にも、こんなふうに濡れたことはなかった。
理性の枷が外れた音が、静かな教室の中に、確かに響いた。
【第3部】抱かれてほどけた私の全部──静けさのなかで滴る女の本能と許しの絶頂
ブラウスのボタンに触れた指は、震えていた。
けれどそれは、戸惑いの震えではなかった。
何かをずっと待ち望んできた人間だけが持つ、赦しを求める熱だった。
一つ、また一つ──
外されていくたびに、胸元に夜の湿気が入り込んでくる。
「……ほんとに、綺麗だ」
その言葉に反応したのは、心ではなく、乳首だった。
彼の手が触れるより早く、私の身体は“その瞬間”に備えて尖っていた。
それを見た彼の目が、微かに見開かれる。
まるで、想像していたよりも早く、私が“開いてしまった”ことに、息を呑んだように。
「どうして……そんなふうに見るの?」
私は問いながら、すでに答えを知っていた。
“女”という言葉を、久しく誰にも言われていなかった。
なのに今、彼の視線は、まるですべてを飲み干すような熱を帯びている。
肩紐が落ちた。
静かに、恥ずかしいほど優しく。
下着が滑り落ちる音がしないほど、空気は濃く、湿っていた。
胸が露わになった瞬間、
彼の手のひらが、戸惑いながら包み込む。
若い指が、形をなぞり、指の腹で乳首を撫でる。
「っ……」
声にならない息が漏れた。
拒んだわけじゃない。
ただ、あまりに久しぶりすぎて、
誰かに“慈しむように”触れられることに、身体が追いついていないだけだった。
キスが、胸に落ちる。
舌が、乳首を含む。
彼の舌遣いは不器用で、けれど異常なほど一途だった。
唾液の熱が、乳首から子宮の奥まで伝っていくような錯覚に、
私は無意識に足をすり寄せた。
その動きに気づいた彼が、視線だけで問う。
「……奥、疼いてるんですか?」
私は頷いた。
もう、言葉はいらなかった。
スカートの裾がまくり上げられたとき、
下着はすでに、濡れすぎて身体に貼りついていた。
「……濡れてる、すごく……先生」
その“報告”が、どこか嬉しそうで。
私の中の羞恥心と、女の誇りが、交差して甘く疼いた。
ゆっくりと下着が降ろされ、彼の指が、そこに触れた瞬間──
「……っ」
言葉にならない声がこぼれた。
恥ずかしいほど、入り口が震えていた。
彼の指が、静かに中へ沈む。
まだ挿れていないのに、
私の奥は、抱かれる準備をすべて終えていた。
「……入れていい?」
その言葉が、何よりも丁寧だった。
だから私は、頷くしかなかった。
挿れられた瞬間、
思い出した。
身体の奥に、“私だけのかたち”があることを。
そこに“彼だけのかたち”が、ぴたりと合う奇跡。
抜き差しされるたび、
許されていくようだった。
失っていたものが、
一滴ずつ戻ってくるように。
「先生……中、気持ちいい……すごく……」
その言葉に、私は初めて、
彼の背中に腕をまわした。
「……嬉しい、そんなふうに感じてくれて」
その瞬間、私の奥がきゅっと締まった。
「っ……今、締めた……?」
「……ごめんなさい、でも……止められない」
汗が、音を立てて滴るほど重なり、
濡れた音は教室の静けさと混ざり合って、
私たちの躯だけが、この世界の“中心”になった。
何度も奥を突かれ、
何度も目が合って、
何度も快感の波が、私の中に生まれては沈んだ。
そして──
絶頂は、静かに訪れた。
叫びもなく、涙もなく、
ただ、すべてが溢れて、零れ落ちるように。
彼の名を、私は心のなかで何度も呼んだ。
そして、すべてが終わったあとの静けさのなか、
私は初めて、“抱かれた”ということを、全身で理解した。
身体が覚えた熱は、消えなかった。
それは、“誰かに抱かれた”という記憶ではない。
“私は、女として生きている”という証明だった。


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