あの夜、私は知らなかった。
かつての「先生」の熱が、こんなにも深く、私を溶かしてしまうなんて。
大学三年の夏。湿度の高い風が髪を撫で、太陽の残り香がアスファルトから立ち上る帰省の午後。
地元の駅前の書店で、私は偶然、彼に再会した。
隆之さん。中三のとき家庭教師だった人。黒縁眼鏡に知的な横顔、いつも静かな声。
初めて“男”を意識した相手だった。
「……美咲ちゃん?」
低く、記憶より少し枯れた声。振り返ったその瞬間、心臓が跳ねた。
その夜、食事を終え、彼の車の中。
沈黙と共に走る、田んぼ道。外には蛙の声、風の匂い。
助手席の私は、彼の左手の動きばかりを追っていた。ハンドルを握る骨ばった指先、たまに伸びる手首の筋、喉仏のゆっくりとした動き──。
呼吸が浅くなっているのを、自覚していた。
「送るだけだから」と言いながら、彼の車は街灯のない農道へ逸れた。
止まった車の中、夏の闇が、ふたりを包む。
「昔、よく頑張ってたよね。君……ほんと可愛かった」
不意に囁かれたその言葉に、私は背筋がぞくりとした。
その声はもう教師ではなく、ひとりの男の声だった。
「……触れてもいい?」
わずかに湿った声が、私の奥へと落ちてくる。
私は、頷いていた。心と身体が、追いつかないほど速く。
彼の手が髪に触れ、頬をなぞり、耳の後ろをくすぐるように撫でる。
それだけで、息が止まりそうになる。
ゆっくりと首筋を辿り、鎖骨に、そして胸の上に。布越しでもわかる指の温度。
まるで花びらのように、そっと、でも確かに──私の蕾が応える。
「美咲……」
名を呼ばれるたび、私は“女”に変わっていった。
ボタンがひとつずつ外され、シャツが滑るように肩を抜ける。
ブラの上から包み込まれると、背中が反った。
指先が、花の中心を撫でるように、円を描く。
そこに吸い寄せられるように、唇が落ちる──あたたかく、湿り気を帯びた吐息。
吸い上げられるたび、全身がしなる。
「こんなに……もう、濡れてる」
スカートの奥、指先が確かめるように触れる。
下着越しに撫でられた瞬間、腰が浮いた。
言葉にならない声が、喉の奥で漏れ出す。
シートを倒され、脚を開かれ、彼の身体が覆いかぶさってくる。
車内という密室、密着した肌。熱が、肌を通して伝染していく。
下着をずらす彼の指が、すでに溢れていることに気づいたとき、私は羞恥と快楽の狭間で震えた。
「待てないよ、美咲」
一言、その囁きのあと。
彼は私の奥深くへ──ゆっくりと、沈んでいった。
最初の一歩が踏み込まれた瞬間、息が止まった。
異物が奥へ、奥へと進んでくる。その存在感、脈打つ感覚。
私の中が押し広げられていく。
痛みの輪郭に、なぜか懐かしさがあった。
かつての“禁忌”が、いま現実として私を犯している。
動き出すたび、濡れた音が車内に響く。
シートの革が軋む。
私の息遣いと、彼の呻きと、熱の渦が混ざり合う。
「深い……だめ……奥、だめなのに……」
そう口では言いながら、私は脚を絡めていた。
もっと、もっと深く欲しい。
もう“教え子”なんかじゃいられない。
隆之さんのすべてを、私の奥で脈打たせたかった。
彼の手が私の胸を揉み、指が尖った先端を弾く。
舌が這う。
下から突き上げられ、上から吸われ、私は快楽の檻に閉じ込められていた。
呼吸も声も、もう自分のものじゃない。
何度も波が押し寄せ、意識が遠のきかける。
彼が名を呼ぶたび、私は絶頂の彼方へと引きずられていく。
「……もう、いく……」
その一言が合図だった。
身体が跳ね、白くなる。
指先が痺れ、腰が突き上げるように跳ねた瞬間──
ふたりの時間が、静止した。
終わったあと、私たちはしばらく何も話さなかった。
ただ、額を重ね、呼吸を整える。
車の中には、ふたりの香りと、熱が残されていた。
「……なんで、こうなっちゃったんだろうね」
私が呟くと、彼は少しだけ笑った。
「きっと……お互い、忘れられなかったんだよ」
車窓の外、田んぼに風が吹く。
遠くで蛍が、一瞬、光った。
この関係に未来はない。
でも、あの夜。
私は“あのとき”の想いを、全身で果たした。
身体も、心も、奥の奥まで──
一度で終わるはずだったのに。
今でも、あの感触が、消えてくれない。



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