娘の彼氏に抱かれた私。 無理矢理押し倒されたあの日からヤリまくった話 木下凛々子
周囲の反対を押し切り、若くして出産。
苦労しながらも女手ひとつで大切に育ててきた愛娘のあずさ。
娘には、私みたいな苦労はさせたくない。誰よりも幸せになってほしい。
そう思っていたのに、娘の彼氏の剛君はあろう事か娘の目を盗んで強引に私を抱いた。
私はあの子の母親、なのに、なのに…。
母性と女心の狭間で、私は悔しいほど感じてしまった。
【第1部】横浜タワマンで乾いていく心──45歳人妻が“娘の元同級生”と再会した瞬間
私の名前は佐伯ゆかり、四十五歳。
横浜・みなとみらい近くのタワーマンションの一室で、単身赴任中の夫と、都内で一人暮らしを始めた娘・茜の「帰ってこない部屋」に囲まれて暮らしている。
朝は大きな窓の外に広がる海とビル群を眺めながらコーヒーを淹れ、
トーストをかじりながらニュースアプリを流し見する。
昼前には英会話スクールの事務パートへ向かい、
帰り道にはデパ地下で一人分にしては少し多い惣菜を選んでしまう。
「明日の昼にも回せるから」と自分に言い訳しながら。
夜、夫から届くのは
「今日は会食」「明日も早い」の短いメッセージ。
既読をつけてスマホを伏せ、
音だけになったテレビの前で、ぬるくなったワインを少しだけ飲む。
壊れてはいない。
むしろ外から見れば「安定した幸せな暮らし」に見えるのだろう。
それでも、胸のどこかがいつも、乾いたまま音を立ててひび割れていた。
最後に夫に熱く抱き寄せられたのは、いつだっただろう。
思い出そうとすると、記憶はいつも途中で白くかすんでしまう。
そんな金曜日の午後。
在宅勤務の日で、洗濯物を畳み終えたところに、玄関のチャイムが鳴った。
「はい」
インターホン越しの画面に映った顔を見た瞬間、
心臓が、普段とは違うリズムで跳ねた。
「お久しぶりです。
立花です、茜さんの、高校のときの同級生の——」
立花悠真、二十五歳。
茜が高校生のころ、よくこの部屋に来てはテスト勉強をしていた男の子。
痩せているのに、妙に筋の浮いた腕や、
ふとした瞬間の真剣な横顔だけが、なぜか記憶に焼き付いている。
玄関のドアを開けると、
少年の面影を残しながらも、輪郭だけがはっきりした大人の男が立っていた。
「突然すみません。
茜さんから預かってた参考書とか、卒業アルバムとか……
東京の部屋に送るより、ゆかりさんに預けてほしいって言われて」
差し出された段ボール。
受け取るとき、指先が触れ合う。
その、ごく短い一瞬だけで、
自分の呼吸がほんの少し浅くなるのを、はっきり感じた。
「わざわざ、ありがと。
急いでないなら……お茶くらい飲んでいって」
自分の声が、少しだけ華やいで聞こえる。
そのことに驚きながらも、私は彼をリビングへと通した。
急須にお湯を注ぎながら、
キッチンのガラス扉に映る自分の姿をふと見てしまう。
ラフなカットソーに柔らかいパンツ。
メイクは朝のまま。
——それでも、頬の血色だけが、いつもよりわずかに明るい。
「相変わらず、いい眺めですね」
窓の外を見ながら、悠真がぽつりと言う。
「前に来たときより……なんか、大人っぽい部屋になった気がします」
「あなたが大人になっただけじゃない?」
そう返しながら、私は彼を正面から見た。
あの頃より少しだけ広くなった肩幅。
シャツの襟元からのぞく、日焼けした首筋。
「茜の友達」だった少年は、
ちゃんと「男」の輪郭を身につけていた。
ソファに向かい合って座ると、
東京での仕事の話や、茜の近況でしばらく場は持った。
けれど、ふとした無言の隙間に、
私の視線は、彼の手首の筋や指の長さを追ってしまう。
——何を見ているの、私。
心のどこかでそう呟きながら、
それでも目を逸らしたくない自分がいた。
やがて、会話がすっと途切れた。
窓の外から、遠く子どもたちの笑い声が届いてくる。
その音の向こうで、悠真がマグカップをテーブルに置いた。
「……高校のときから、ずっと思ってました」
「え?」
「茜さんより先に、
俺はずっと、ゆかりさんを見てました」
時間が、薄く膜を張ったように鈍くなる。
「やめてよ」と笑うこともできた。
なのに、喉がきゅっと締めつけられて、
代わりに心臓の音だけが耳の奥で響き始める。
「ごめんなさい、こんなこと言うのは、
よくないって分かってます。
でも、一回くらい本音を言えないままだと、
一生後悔する気がして」
その言葉を聞いた瞬間、
長いこと眠ったふりをしていた何かが、
胸の底で静かに目を覚ました。
妻でも、母でもない、
“女としての私” が——。
【第2部】再会の指先と甘い呼び名──「止まれない」と悟った45歳の午後
「ごめんなさい、変なこと言いました。
荷物も渡せたし、そろそろ——」
立ち上がろうとする悠真のシャツの裾を、
私は気づけば指先で掴んでいた。
「……待って」
自分の声が、驚くほどか細い。
「ゆかりさん?」
「座って。まだ……帰らないで」
掴んだ指先が、細かく震えている。
その震えを、もう誤魔化そうとさえ思わなかった。
少し迷ったあとで、
悠真はさっきよりも近い距離に、もう一度腰を下ろした。
クッションがわずかに沈み、
その分だけ、彼の体温が近づいてくる。
「さっきの言葉……」
私は視線を落とし、自分の膝の上で指を絡める。
「嬉しかった」
「本当に、ですか」
「本当に。
ただ、私は——」
「わかってます。
わかってるつもりでした。
でも今日、ここに来て、向かい合って座って……
やっぱり諦め方が分からないって、はっきり気づきました」
言葉が継げずに黙り込んだ、そのとき。
甲の上に、そっと何かが触れた。
悠真の指だった。
ほんの軽い重さなのに、
指先から腕の内側、鎖骨へ、胸の奥へと、
じんわりと熱が染みていく。
「ずっと……触れてみたかった」
震えた声なのに、
真ん中だけは妙にしっかりしていて、逃げ場がない。
「ダメよ、私は——」
そう言う唇が、自分でも分かるほど乾いている。
「ダメだって、頭では何度も言い聞かせたんです。
でも、忘れ方が分からないんです」
絡められた指先が、一度だけぎゅっと握り返される。
手のひらを通じて伝わる鼓動が、
自分の心臓のリズムと重なっていく。
「ゆかりさん、今……震えてます」
「見ないで……お願い」
「見たいです。ちゃんと。
ここまで来ちゃったからには」
頬から唇の輪郭、喉元へと滑る視線。
ただ見つめられているだけなのに、
肌が一枚剥がれ落ちたように敏感になる。
ソファに並んだまま、
彼の腕がそっと私の肩を包んだ。
胸と胸が触れ合った瞬間、
服越しとは思えない熱が、じかに伝わってくる。
「怖いなら、本当にやめます」
「怖いのは……」
私は、ぎゅっと目をつぶった。
「怖いのは、止まれなくなること」
それは、彼に対してではなく、
自分自身に向けた告白だった。
腕の力が、少しだけ強くなる。
首筋にかかる小さな吐息。
耳もとで乱れていく呼吸が、肌を震わせる。
「……ゆかりさん、って。
名前で呼んでいいですか」
「今さら、でしょ」
そう言いながらも、
胸の奥で何かがほどける。
「……好きに呼んで」
囁くと、こめかみに、そっとなにかが触れた。
悠真の唇だった。
壊れ物に触れるような、ためらいのにじんだキス。
少年の不器用さと、大人の男の欲望が、
ぎこちなく重なり合っている。
肩にあった手が、背中をゆっくりなぞり、
腰のあたりで迷うように止まったあと、
思い切ったように少しだけ強く、引き寄せられた。
そのささやかな“決意”の重みに、
胸の奥で、最後の抵抗が音もなく崩れていく。
「……ゆかりさん」
近くで呼ばれる名前。
その響きだけで、長いこと閉ざされていた感覚が、
ひとつずつ目を覚ましていく。
窓の外では、
曇り空が少しずつ色を失い、
港の灯りがにじみ始めていた。
部屋の中だけが、
時間から切り離されたように、
別の温度で満たされていく。
【第3部】「ごめんね」と「もっと」の狭間で──背徳のぬくもりが人妻を生かしてしまう
どれくらいの時間、
私たちはただ、重なっていたのだろう。
気づけば、私はソファの背にもたれ、
悠真は、その身体を支えるように私を覆っていた。
顔を近づけるたび、互いの吐息が触れ合う。
何度もためらい、何度も視線が絡み、
それでも最後には、
ゆっくりと、確かめるように唇が重なった。
最初は、本当に軽く触れるだけのキスだった。
けれど二度目は、
指先でそっと私の顎をすくい上げ、
角度を変えて深く引き寄せるような、
逃がさないキスに変わっていく。
胸の奥で、長く錆びついていた扉が、
軋みもせずに外れたような感覚がした。
「……ん……」
喉の奥から漏れた、小さな息。
その音に、一番驚いたのは自分自身だった。
悠真の目が一瞬だけ見開かれ、
次の瞬間には、
何かを決意したように細められる。
「ゆかりさん……」
その声のなかに、
高校生の頃の少年と、
今目の前にいる大人の男の両方がいる。
「そんな顔で見ないで……」
「綺麗だから、見ていたいんです」
あまりにもまっすぐな言葉に、
羞恥と、どうしようもない嬉しさが同時にこみ上げてくる。
彼の手は、不器用なくらい慎重だ。
肩から二の腕、背中から腰へと、
ゆっくり、ゆっくり辿りながら、
私の反応を確かめるように止まっては、また動いていく。
指先が通り過ぎるたびに、
皮膚のすぐ下で、小さな火がともる。
気づけば私は、
自分からも悠真の首の後ろに腕を回していた。
「悠真くん……もう、戻れなくなる」
「とっくに戻れてません。
あの頃、ここで茜さんと勉強してるふりをしながら、
キッチンのあなたの姿ばかり見てたんです」
耳元で囁かれた言葉に、
最後まで“正しさ”を装っていた理性が、
静かに崩れ落ちた。
重なった胸のあいだを通して、
彼の鼓動が伝わってくる。
自分の心臓と足並みを揃えるように、
どんどん速くなっていく。
遠くで、救急車のサイレンが鳴った。
日常を思い出させるような音。
それでも私は、
シャツの裾を掴んだ手を、離すことができなかった。
「……怖い?」
「怖い。
でも、それ以上に——」
言葉の続きは、
彼の胸元を掴む指先に預けた。
「今、生きてるって、
はっきり感じてる」
悠真は何も言わず、
ただ、額を私の額にそっと重ねた。
互いの呼吸を合わせるように、
長く、深い息をひとつ。
部屋の時計の針が、
ふいに大きな音で時を刻む。
「……そろそろ、行かなきゃですよね」
「“行かないで”って、簡単には言えないわね」
「言われたら、本気で迷います」
二人で小さく笑ったその瞬間が、
一番、苦しくて、一番、愛おしかった。
立ち上がる前に、
悠真はもう一度だけ、
まるで印を押すように、
静かなキスを落とした。
「今日は、本当に……ありがとうございました」
「お礼を言われるようなこと、してないわよ」
「俺は、ずっと救われた気分です」
玄関で靴を履き、
ドアノブに手をかけたまま、彼は振り返る。
「また、来てもいいですか」
「……そのとき、
私が断れるかどうかは……わからない」
そう答えた自分の声が、
不思議なくらい澄んでいた。
ドアが閉まり、
足音が遠ざかっていく。
その音が完全に消えてから、
私はそっと壁に背中を預け、
胸元を押さえて深く息を吸い込んだ。
「……生きてる」
誰にも聞こえない声でそう呟いたとき、
背徳と、ひどくやさしい悦びが、
同じ温度で胸の奥を満たしていた。
まとめ:罪と悦びを抱きしめた午後──それでも私は、女として息をしていたい
悠真が帰ったあと、
リビングには、彼が腰掛けていた場所の浅い凹みと、
テーブルに残された湯のみの輪染みだけが残っていた。
たったそれだけの痕跡なのに、
私の身体にはあまりにも鮮烈だった。
指先に残る、シャツの布の感触。
頬のあたりに、まだ消えないぬくもり。
唇の奥に残っている気がする、微かな呼吸の重なり。
「私は、ひどい母親かもしれない」
茜の写真立てを見ながら呟くと、
胸がぎゅっと締めつけられる。
それでも——
今日の自分を「なかったこと」にすることだけは、できなかった。
あの午後、私はたしかに
妻でも母でもなく、
一人の女としてここにいた。
求められることの疼き。
触れたいと思ってしまった衝動。
名前を呼ばれただけで高鳴った鼓動。
もし、これを最後にすると決めれば、
きっと「正しい大人」としては生きられるのかもしれない。
でも、時計の針が進む音を聞きながら、
ソファの凹みを指でなぞっている自分は、
その誓いを簡単には口にできそうもなかった。
——この罪は、きっと消えない。
——でも、この罪がなければ、
私は自分がまだ“女として生きている”と信じられなかったかもしれない。
「最低ね、私」
そう笑いながらも、
心のどこかで、
もう一度玄関のチャイムが鳴る未来を、
はっきりと思い描いてしまう。
背徳と悦びが絡まり合った、
あの午後の温度は、
これからもずっと私の中で静かに燃え続けるのだろう。
消したいと願うほど、
消えてほしくないと願ってしまう——
残酷で、美しい火種として。




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