金曜日の夜、ダンスレッスンを終えた私は、少し火照った身体を夜風に晒しながら、駅からバス停へと歩いていた。
身体の芯にまだリズムが残っているような気がして、指先や脚の裏がピリピリと敏感だった。シャワーを浴びて汗を流す前に、風が皮膚をなぞっていくこの時間が、私は密かに好きだった。
ふいに、前から歩いてきたスーツ姿の男性とすれ違う。
「遅いですね」
えっ……?
不意に投げかけられた言葉に、私は戸惑いながらも反射的に微笑んでしまった。
「はい、まぁ……」
知らない人。でも、なぜか知っているような――目を逸らせない不思議な空気を纏っていた。
「こんな時間に出歩いて、旦那さん心配しないの?」
「……たぶん、してないです」
本当に、していない。
そんな風に思ったこと、誰にも言ったことはなかったのに、するりと口を突いて出た。
「俺はね、まだ“繋ぎ止めてる”つもりなんだけど、まぁ、空回りかな」
そう言いながら、自転車の後部座席に取り付けられた子供用の椅子を指差した。
その仕草に、私は少し笑ってしまった。
「でも、こんな時間に声かけるなんて、堂々としてますね」
「……今日は、なんとなく話したかったんだ。君みたいな、熱を持った人と」
彼の視線が、私の首元から胸元に流れ、レオタードの上に羽織ったカーディガン越しでもわかるほど、体温を追いかけるようにじっとなぞっていった。
息をするたび、心が脈を打つのがわかる。
私は、気づいていた。
その夜、何かが起こる予感を。
「少しだけ、歩こうよ。バスの時間まで」
頷いた私の手を、彼がそっと取った。
街灯の灯りが少ない裏通りを、ふたりの影が重なり合う。手のひらに感じる彼の体温が、まるで熱を交換するように、私の心の奥まで届いていた。
言葉は少なくていい。
ただ、彼の歩幅に合わせて歩いていることが、もうそのまま“選んでしまった”証だった。
やがて、人気のない駐車場に辿り着いたとき、彼はふと足を止め、私を見つめた。
「……もう少し、ふたりで深いところへ行こうか」
それは提案でも命令でもなく、たしかな引力だった。
私は、自分の意志で彼の胸に抱きついた。
その瞬間、首筋に落ちる唇。
耳の後ろにかかる吐息。
ふわりと香る彼の体臭に、私の全身がざわめく。
「……弱いんだ、ここ」
耳を甘く攻められながら、私は彼に身体を委ねていく。
壁際に押しやられ、唇を塞がれたまま、シャツのボタンをひとつずつ外されていく。
ダンスの熱が、今度は快楽の熱へと変わっていった。
「……触られるの、好き?」
彼の問いに、小さく頷いた。
胸元を包む手は、すでに下着越しの形を覚えているように滑らかで、優しく、けれど迷いがなかった。
「俺の、触って」
彼が私の手を誘導した先――ズボンの上からでもわかる、それは異様な存在感だった。
熱く、硬く、そして驚くほど太くて長い。
「こんな……大きいの……」
「全部、君にあげたい。中まで、しっかり」
その言葉だけで、身体の奥が濡れはじめていた。
スカートの裾をたくし上げ、私は彼に跨るように促された。
夜の静寂の中、私は彼に“またがった”。
身体の奥を彼の熱が押し広げる。
そのたびに、内壁が悲鳴を上げるように疼く。
「……全部、入ってる……?」
「奥まで、届いてるよ。君のいちばん深いところ」
膝を使い、ゆっくりと腰を上下させる。
自分の動きで、彼の巨根が根元まで出入りするたび、私の身体は震え、そして甘い快感が脳を満たしていく。
何度も、何度も、彼の中心を内側で感じながら、私は自分で波を起こしていた。
彼の肩に手を置き、胸を押し付けながら、私は彼を完全に受け入れていた。
その圧倒的な熱と太さが、私という女の輪郭を内側から削り、塗り替えていく。
「もう……イク、止まらない……っ!」
彼の眼を見ながら、私は最奥まで一気に沈み込んだ。
その瞬間、光が走るように、快楽の頂が全身を貫く。
私の内側が痙攣しながら、彼を強く締めつける。
すると、彼が私の腰を強く抱きしめて――
「……俺も、出すっ」
熱い衝動が私の内側に噴き出してくる。
何度も、脈打つように。
まるで注がれていく液体が、私の深部に宿る命のように錯覚するほど、豊かで、濃く、熱かった。
私の身体が、それを抱きとめていた。
自ら望み、自ら沈み込んで得た、確かな満たされ。
夜風は変わらず吹いているのに、身体はずっと熱を持ったまま。
ふたりの会話は、もう必要なかった。
バスは来なかった。彼の名前も、聞かなかった。
けれど、あの夜――
私は“跨がる”ことでしか辿り着けない場所へ、確かに行った。
そして、そこには快楽だけじゃない、
私という存在をまるごと肯定してくれるような、深い、甘い、赦しがあったのだ。



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