【第1部】触れられていないのに、濡れてゆく背面の疼きと沈黙の指先
どうして、あのときの私は、あんなにも素直に背中を預けてしまったのだろう。
静かな部屋だった。整体師の名前すら、はっきり覚えていない。けれど、彼の指先の温度だけは──今も背中の奥で、息をしている。
「力、抜いてくださいね」
低く、余計な装飾を削いだ声だった。私はうなずき、うつ伏せになったベッドの上で、自分の足先がほんの少し震えているのを感じていた。
その日、夫にすすめられて、初めてこの整体院を訪れた。
疲労、凝り、婦人科的な重さ──そんな体の不調にかこつけて、私は何か別の“疼き”を隠していたのかもしれない。
タオル越しの手。腰椎のあたりをなぞるような、やわらかく、しかし確かな圧。
その瞬間、息を呑んだのは、痛みでも快さでもなかった。
──なぜ、こんな場所が濡れていくのか。
「……っ」
私の背中が小さく揺れた。
指先が尾骨の近く、まるで“気配”のように触れた。まだ触れていないのに、触れられたような錯覚──いや、錯覚ではなかった。
タオルの下、ショーツの縁。そのすぐ内側。
“触れられたら終わる”と本能が告げる、最後の境界線。
なぜこんなにも、抗えないのか。
この人に、私の“そこ”を許したわけでも、望んだわけでもないのに──
皮膚ではなく、粘膜が反応してしまう。心のもっと奥、骨盤の中心で、なにかがわずかに震えていた。
私は、うつ伏せのまま、知らぬ間に息を止めていた。
呼吸をしてしまえば、濡れていることがバレてしまう気がした。
この濡れは、私の意志ではない。
身体が、先に落ちている。
「このあたり……少し詰まってますね」
彼の声が、まるで内診のように、腹の奥に響いた。
“そこ”を見透かされている。
私はタオルの中で、じっと足を閉じた。けれど、下腹が熱い。ぬるりとした感覚がショーツの奥で広がっていく。
私は……
感じている。
まだ、触れられていないのに。
触れられたら、もう戻れないのに。
でも──
なぜだろう。
怖くなかった。
次の瞬間、指先が“そこ”に触れた。
タオルの上から、ショーツの布越しに、はっきりと。
ぴくん、と背筋が跳ねた。口が勝手に開いた。
けれど、声は出なかった。
──私は、何も言わなかった。
だから彼も、何も聞かなかった。
それが、私たちの“はじまり”だった。
【第2部】秘められた性感が指に濡れてゆく背徳のうつ伏せ快楽
私は、なにも言っていない──けれど、彼の指は“そこ”に触れた。
あれは、偶然ではなかった。
ショーツ越しの尾骨のすぐ下。
皮膚と皮膚の接触ではない。
それは、もっと“深い場所”への、静かな宣言だった。
「……緊張してますね」
耳元ではなく、腰の奥で囁かれたような声。
私は返事もできず、ただ、ベッドに張り付いたまま、足の指先を強く丸めた。
ショーツの布が、ゆっくりと、指の腹でずらされた。
何も言われていないのに、私の腰はほんの少しだけ浮いた。
まるで、無意識が、彼の指を招くように──
布がずれ、冷たい空気が肌に触れた。
恥ずかしい場所が、空気にさらされている。
それだけで、内腿がじんわりと濡れを伝えていた。
指先が、尾てい骨のすぐ下をなぞる。
左右の筋肉をゆるやかにほぐしながら、中心に寄ってくる。
その“中心”こそ、触れられてはならない場所──
“そこ”に触れられたことなんて、いままで一度もなかった。
でも今、私は……
指が、沈んだ。
粘膜ではなく、皮膚。
それなのに、なぜか音もなく“押し込まれた”感覚だけが残る。
ぐっ、と奥が疼き、口元から熱い吐息がこぼれた。
「ここ……すごく固いですね」
どうしてそんな声が出せるのだろう。
彼の指が、“そこ”の周囲を円を描くように撫でていくたびに、
腰の奥がびくびくと反応してしまう。
私は、必死にベッドのマットを握りしめる。
でも、身体は正直だった。
「……開きたがってますね」
その言葉に、腰の内側がひくりと震えた。
まるで、私の知らない“第二の性感帯”が目を覚ましていくような──
ぐっ……
ゆっくりと、指先が押し当てられる。
粘膜のすぐ手前。
肛門と名のつく場所が、なぜこんなにも、感じてしまうのか。
羞恥よりも、快感が勝っていた。
彼の指が、円を描くたびに、腰が勝手に動いてしまう。
何かを受け入れるように。
何かを求めてしまうように。
「やめて」と言えない。
言いたくない。
言葉より先に、身体が濡れていた。
いつのまにか、片手が私の脚をそっと開かせていた。
自然な仕草のように見えて、明らかに“導いていた”。
そして──
指が、肛門に押し当てられた。
それは、沈黙のままの“初めて”だった。
圧ではない。痛みでもない。
指先に感じたのは、“受け入れる感触”だった。
私は、何もできなかった。
ただ、震えて、感じていた。
いや──
“感じさせられていた”。
私の中の「女」ではない場所が、
今、性感に変わっていく。
この瞬間、私は──もう、戻れない。
【第3部】アナルで悦ぶ私が壊れてゆく静かな絶頂と骨盤に残る声の余韻
「少し、力を抜いて──吸って、吐いて……」
その言葉に合わせて呼吸を整えようとした瞬間、
彼の指は、もうそこに在った。
“その場所”が開く瞬間を、私は生まれて初めて、体内で聴いた。
「ぬるっ」とか「ぐちゅ」とか、そんな擬音語では到底言い表せない。
それは、音にならない音。
──内側が、受け入れることを許してしまった音だった。
「っ、……ぁ……」
声が漏れた。
恥ずかしさとともに、明確な“快楽”が、腰の奥からせり上がってくる。
私はうつ伏せのまま、身体を反らすこともできず、
ただ、自分の肛門が“感じてしまっている”という現実に、全身で耐えていた。
いや──
もう、耐えていなかった。
快楽の波は、予想よりも静かだった。
だが深かった。
指がゆっくりと動き出す。
左右に──そして、螺旋を描くように、ゆっくり、ゆっくりと。
粘膜ではなく、“括約筋”という名の輪が、
「性感帯です」と名乗り出るように、
私の知らないリズムで、快楽を吸い込んでいた。
そこに、もう一本、彼の指が重なった。
「んっ……!」
腰が浮いた。いや、突き上げてしまった。
アナルの奥が、歓喜していた。
ふるふると震える。
ひくひくと締めつける。
下腹の奥が、肛門と連動して波打っていた。
そして、まるで──
「……イって、いいですよ」
その一言で、すべてが崩れた。
肛門を突き上げられるたびに、子宮の奥が跳ねる。
膣ではない。
乳首でも、唇でもない。
ただ、後ろの穴を責められているだけなのに──
私の全身が、まるで潮のように震え出していた。
震えの先にあるのは、
もう、言葉にならない絶頂だった。
身体のどこにも触れられていないのに、
その指だけで、私は──
背中を反らし、喉を逸らし、腰を跳ね上げ、
息を止めた。
ああ──
“そこ”で私はイった。
アナルで、私は壊れた。
静寂だけが残る部屋。
うつ伏せのまま、指が静かに抜けていく。
「……全部、出ましたね」
その声が、どこか、医療者のように冷静だったことが、
逆に、私をひどく安心させた。
私は、何も言えず、
ただ、背中にうっすら浮いた汗と、
骨盤の奥に残った“声の残響”を抱えたまま、
目を閉じた。
全身が、やわらかく開いていた。
もう、私は──
「される側の女」ではなく、
「自分で選び、受け入れる女」になっていた。
そこに触れてくれたのが、彼でよかった。
「また、来週もどうぞ」
私は、ゆっくりと立ち上がる。
ショーツを穿き直した感触すら、少し名残惜しい。
“その場所”が、まだじんわりと余韻を残していた。
整体の扉を開けた瞬間、
外の風が太ももをなでていった。
私のアナルは、もう……
性感として目覚めてしまった。


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