やめてほしいのに、もっとふれてほしい。私の中の矛盾が、静かに壊れていった。
その朝、私はどこか落ち着かない気分で、会社を早退した。
理由は──下腹部の違和感。
けれど本当は、それだけじゃない。
ずっと、自分の身体が少しずつ変わってきているような、そんな感覚があった。
排卵期でもないのに、胸が張る。
食欲も、眠気も、肌の質感さえ、どこか違う。
それなのに、誰にも相談できずにいた。
カーテン越しの待合室。
名前を呼ばれ、白い部屋へ。
先生は清潔な白衣に、感情の読めない静かな眼差しをたたえていた。
「じゃあ、診察台に上がってください」
静かで機械的な声。
私は言われるまま、スカートをたくし上げ、下着を膝まで下ろし、脚を広げる。
すべては“診察”の一部。それだけのはずなのに、肌がひりつくように熱くなっていく。
「少し炎症がありますね。外側にお薬を塗っておきます」
その言葉に、私はうなずくしかなかった。
ジェル状の冷たい薬剤が指に取られ、そして──ふれられた。
その瞬間、背筋に細く鋭い震えが走った。
まるで、熱の中に一滴だけ落ちた冷水。
じわりと拡がる感覚に、胸の奥がざわつく。
「……力、抜いてくださいね」
先生の声は、どこまでも淡々としていた。
それが、余計に私の不安を煽る。
下の方から、くちゅ、と微かに音がする。
薬が塗られているだけ。それだけの行為なのに、私は体温の上昇を止められない。
やだ。
なんでこんなに敏感になってるの……。
先生の指先は、外側をなぞるように、柔らかく、そして次第に上のほうへ。
一番、ふれてほしくないところ。
いや──
一番、ふれてほしいところへ。
ふれるか、ふれないか。
そんな絶妙な距離で、くすぐるように、撫でられていく。
「……っ」
喉の奥がきゅうっと詰まって、私は声を飲み込んだ。
気づかれたくない。
でも、もう手遅れかもしれない。
下半身の奥が、じゅわ……と熱を持ちはじめていた。
ぬる、とした感触が自分でもわかる。
身体が勝手に反応してる。
やだ。
どうしてこんな……。
「中にも、塗っておきましょう」
その言葉の意味を理解する前に、指が差し込まれた。
ゆっくりと、迷いなく。
膣の入り口から、奥へと侵入してくる指。
その存在が“異物”であるはずなのに、私の内側は、拒絶どころか──待っていた。
「あ……っ」
小さな声が漏れた。
私の声。
私の恥。
先生の表情は見えない。
でも、彼にはわかっているはず。
私の声も、濡れも、体温の高さも──すべて。
「この辺、少し腫れてますね。痛くないですか?」
優しい声。
なのに、奥を撫でる指の腹は、どこか支配的だった。
くちゅ、くちゅ。
小さな水音が診察室に響く。
動きはゆっくりなのに、正確に、私の中の敏感な場所を見つけ出す。
触れられるたびに、奥がびくっと震えて、息が漏れる。
「ん、っ……くぅ……」
左手で口を押さえた。
だめ。
こんなの、おかしい。
でも、もう止められない。
腰がわずかに浮き、脚が震える。
脳が白くなる。
視界が霞む。
何かが、はじけそう。
「……気持ちよくなっても、大丈夫ですよ」
先生の声が、鼓膜を震わせた。
その瞬間、私の中の“ダム”が崩れた。
息を詰めていたのに、吐き出すように声が漏れる。
「あっ、……あぁ、く、あっ……だめ、やだ……でも……っ」
もう、誰の声なのかわからない。
自分のものだった感覚さえ、失っていく。
指は、出し入れではなく、“奥を撫でる”ことに集中していた。
まるで、私の身体の構造を、完全に理解しているかのように。
内壁の、もっとも感じやすい部分。
わずか数センチのところを、押し上げるように、こすって、撫でて。
「あ、あっ、だめ……いっ……いく、いく……っ」
太ももが硬直する。
背中が反る。
指の動きに合わせて、全身が震える。
──そこから先は、もう覚えていない。
ただ、白く塗りつぶされる感覚と、
奥で痙攣するように収縮する自分の身体だけが、現実だった。
静けさが戻る。
指は、ゆっくりと抜かれた。
くちゅ、と粘着質な音がした。
スカートを下ろすとき、私は震えていた。
膝が笑って、立てないかと思った。
「一応、飲み薬も出しておきますね。2週間後にまた来てください」
先生の声は、最初と変わらない。
何もなかったように。
でも、私はもう──
戻れない。
エレベーターの中、鏡に映った自分の目を見つめる。
濡れていたのは、身体だけじゃなかった。
自分の中の“何か”が目覚めてしまったのだと、私は直感していた。
あの瞬間の私は、
“女”として、最も脆く、最も、正直だった。
コメント