【第1部】視線の檻──からかわれるたび、私は濡れていた
夫が隣で寝息を立てている。
もうどれくらい、こうして肌を重ねていないだろう。
私の身体はちゃんと生きているのに、奥のほうばかりが、何かを求めて乾いていく。
だから今夜もまた──あの記憶に、沈んでしまう。
高校一年の春、私は部活に入ったばかりで、少しだけ調子に乗っていた。
進学校の中では目立つ方で、ちょっとした可愛げと、ちょっとした生意気さを持っていた。
だからだろう。すぐに、男女の先輩たちに目をつけられた。
いじられる。
からかわれる。
スカートの丈を指でなぞられる。ポニーテールを引っ張られる。
でもその全部が、どこか甘くて、私の中の何かをくすぐっていた。
「なんか今日、濡れてない?」
そう言われて、私は恥ずかしさで顔をそむけた。
でも本当は──びくりと下腹が震えていた。
視線。
間。
声色。
触れていないのに、私はいつも、濡れていた。
私はきっと、あの頃すでに、欲しかったのだと思う。
触れられる理由を。
いじられる隙を。
けれど、ただの“性的ないじめ”ではなかった。
その関係の中にだけあった、私だけの居場所。
私の身体が、選ばれたような錯覚。
下校中、階段の踊り場で──
「今日の下着、赤でしょ?」
そう耳元で囁かれて、私はほんとうに、赤を穿いていた。
なぜ知っているの?
なぜ、そんなことを言えるの?
けれど私は、怖さよりも、熱を感じていた。
制服の内側が、ゆっくりと湿っていくのが、自分でも分かった。
自分の意思とは別に、身体だけが開いていく。
その恐ろしさと、悦び。
「感じてしまう」ことへの後ろめたさと、優越感。
──私は、すでに堕ちていたのかもしれない。
けれどまだ、触れられてなどいない。
触れられていないのに、私は、濡れていた。
【第2部】制服の奥、私が“欲しかった手”に触れられた夜
あの夜の匂いを、私は今も覚えている。
古い部室の畳、汗と制汗剤の混ざった空気、体育館から漏れていた音楽。
そして、私の鼓動の音。
先輩たちと残っていた放課後、電気を消した薄暗い部室。
「お前さ、そうやって誘ってんの?」
男の先輩にそう言われ、私は「違います」と言いながらも──身体が熱を帯びていた。
「こいつさ、こないださ…」
女の先輩が、私の耳たぶを甘噛みするように囁く。
誰も止めない。
私は、その中心にいた。
制服の襟元を、指がなぞる。
脇の下にある汗を、指先で感じられてしまう。
私は、言葉も動きも封じられたまま、ただ“されるがまま”ではなく、
“してほしい”という欲望を秘めていた。
スカートの裾が捲られたとき、私は抵抗しなかった。
だって──奥は、もう濡れていたから。
女の先輩の指が、太ももの内側を滑ってくる。
まるで、私の濡れを確かめるかのように。
「ほら、やっぱり。こういう子って、濡れるの早いんだよね」
くすくすと笑いながらも、その指は、意地悪ではなく、優しかった。
男の先輩は私の手を引き、自分の膝に乗せた。
「ここ、熱くなってるじゃん」
言葉が熱を持って、耳の奥に残る。
女の指が、私のショーツの隙間から、ゆっくりと入ってくる。
そこにあったのは、恐怖じゃなかった。
──やっと、触れてくれた、という安堵。
私は、自分が“される”ことに憧れていた。
誰かの意思で、快楽に落ちていくことに。
そしてあの夜、私は初めて、誰かの手で達した。
それは性行為ではなく、
でも、身体の記憶として刻みつけられるほどの──はじめての絶頂だった。
【第3部】記憶の中で、今も濡れている人妻の身体
33歳になった今、夫と交わることはほとんどなくなった。
でも私は、もう何度も、あの夜の記憶で濡れている。
シーツを握りしめながら、誰にも触れられていないのに──
いや、あの頃の指先が、いまも私の内側に触れている。
「感じやすい子だと思ってた」
「ほら、また震えてる」
「大丈夫、誰にも言わないから」
あの頃の声が、まるで今も私を犯すように響いてくる。
そして私は、33歳のこの身体で、その記憶に達してしまう。
欲しいのは、ただのセックスではない。
誰かの視線。
自分では選べない快楽。
「私は欲望される女だ」と感じさせてくれた、あの夜のような感覚。
あれは、いじめなんかじゃなかった。
あれは──私の性感を開いてしまった、刷り込みだったのだ。
そして私は今も、
**「なぜ濡れたのか」**を知りながら、
**「なぜ抗えなかったのか」**を確かめるように、
ひとり、声も漏らさず、
シーツの奥で、静かに絶頂を迎える。
濡れた下着の粘膜を感じながら、私は目を閉じる。
夫の隣で、別の指を想像しながら──
記憶のなかで、私は今夜も堕ちていく。



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