第一章:静けさの中に潜む熱
東京・世田谷。夫と二人で暮らす築浅のマンションの一室。私、奈緒子、43歳。専業主婦。いつもは静かな平日の夜だった。けれどその日は違った。
「……旦那さん、出張中なんですか?」
ソファに座った彼が、私のグラスに赤ワインを注ぎながら訊いた。その隣にはもう一人。そして奥の部屋にも、まだ一人。夫の大学時代の後輩たち——30歳前後、男らしくも清潔感ある青年たち。仕事の節目に祝賀会を、という名目で我が家に集まった。
「ええ、二泊三日。今夜と、明日だけ……」
なぜ言ってしまったのだろう。この家に“女ひとり”であることを。微笑みながら頷く彼らの目に、ほんのわずかな影を見た。その時の私はまだ、どこか現実から切り離されたまま、酔った空気の中で浮いていた。
食器を洗いながらキッチンに立つ私の背後に、ぴたりと立った影。その距離に息が詰まる。腰に回された手の熱が、衣服越しに脊髄へと這い上がってくる。
「……だめよ」
そう言う声は、掠れていた。身体が、先に答えていた。
第二章:重ねられる手、崩れていく理性
「ひとりずつなら、いい?」
自分の口からこぼれたその言葉を、私は一生忘れない。
リビングの灯りは落とされ、薄暗い間接照明の下で、私は椅子に座らされていた。胸元まで下ろされたワンピース。ブラは、最初の彼が外した。乳房を包む掌の温度に、呼吸は震え、太腿の奥が痺れ始める。
2人目の彼は、私の脚を持ち上げて舐めた。足の指、膝の裏、そしてもっと奥へと。なぞられるたびに、目の奥が霞んでいく。
「……逝っちゃいそう……」
そう口走った瞬間、ひとつの快楽が私を貫いた。その震えが鎮まる前に、もう一人の彼が膝を割って入ってきた。
「交代だよ」
脈打つその言葉に、抗う術などなかった。
「まだ……私、逝ってない……のに」
そんな願いを置き去りにして、彼らは次々と私を満たし、私は何度も波に攫われていった。
衣擦れの音、男たちの吐息、床に落ちたワインのシミ。すべてが生々しく、現実だった。だが、魂だけはどこか遠くへと飛んでいた。
第三章:赦しと喪失の間で
朝方、鳥の声で目が覚めた。リビングのソファには、シャツだけ羽織った私。床には散らばる服と、沈黙する男たちの寝息。
体の節々が疼く。まるで新しい皮膚が芽吹いたような感覚。喪失と恍惚が交差するなか、私は立ち上がり、ベランダへ出た。ひんやりとした外気が火照った身体に刺さる。
「私……どうしてあんなことを?」
そう自問しながらも、胸の奥には不思議な昂揚が残っていた。壊れたのか、目覚めたのか。わからない。ただ、あの夜の私はたしかに“生きていた”。
夫が帰ってくる夕刻までに、洗濯機は三度回された。床を磨き、グラスを磨き、自分の匂いを消す。でも、奥の方に残る熱だけは、どうしても消せなかった。
その夜、私は赦しを知らずに、快楽に溺れた。
そして目覚めたのは、もう“前の私”ではなかった。



コメント