第一章 濡れた登山道と、青年のまなざし
真紀とふたり、私たちは北海道・日高山脈の奥深く、幌尻岳を歩いていた。41歳、子育てもひと段落し、週末の登山が密かな楽しみになっていた。都会の喧騒から逃れ、ただ静かな山の気配と土の匂いに身をゆだねる時間。
「ちょっと空、怪しくない?」
真紀が見上げた空には、すでに厚い雲が広がり始めていた。雨具はあったけれど、次の避難地点までは距離がある。案の定、私たちは稜線上でゲリラ豪雨に捕まり、まるで滝のような雨に打たれていた。
そのとき、岩陰から低く聞き慣れた声がした。
「〇〇さん……?」
振り向くと、レインウェアのフードから覗いたその顔は、二年前まで娘の家庭教師をしていた優斗くんだった。今は大学で山岳部に所属しているという。彼は友人ふたりと登山に来ており、少し前にテントを張っていたらしい。
「この先、僕たちのテントあるんです。……一緒に、避難していきませんか?」
心臓が、ぐっと跳ねた。
—
小雨のなか、ぬかるんだ斜面を下る。たどり着いたテントの中は三人が横になれる程度の空間。中に入ると、私はレインウェアの下の服が肌に貼りついているのを感じた。
「乾かさないと、風邪ひきますよ」
優斗くんの声が、テント内の静寂に溶けていく。
私はためらいながらも、シャツの前を外した。透けた下着、濡れた肌、汗とも雨ともつかない匂い。ふと視線を上げると、彼のまなざしが、胸の奥に何かを灯していた。
第二章 熱を分け合う、許されない距離
シュラフ(寝袋)を広げて乾かすため、私と真紀は交互に中で体を温めることになった。真紀が先に休むことになり、私はテントの端に座っていた。
優斗くんが湯を沸かしながら、そっと囁くように言った。
「……〇〇さん、昔から、ずっと綺麗でした」
その言葉に、私は一瞬、息を呑んだ。
「そんなこと……」
「本当です。高校生のとき、何度も……あなたのこと、見てました」
雨音の中で、その声が妙に鮮やかに響いた。抑えていたものが胸の奥から滲みだすように、私は目をそらせなかった。
「……だめよ、優斗くん」
「だめだってことは、考えてくれてたってことですよね」
彼の手が、私の肩にそっと触れた。濡れた肌にぬくもりが移り、鳥肌が走る。
そして、ためらいがちに、彼の指が私の鎖骨をなぞった。
「こんなとこで……」
「でも、ここだからこそ……ですよ」
テントの薄布の向こうには雨音と風の音。見られるかもしれない、聞かれるかもしれない。けれど、その危うさが、私の身体に火を灯した。
ブラの上から包まれるように触れられ、私は息を呑んだ。指先がゆっくりと中へ滑りこみ、硬くなった先端が彼の指に応えるようにぴくりと震えた。
「……やだ、優斗くん……」
「本当は、こうしてほしかったんじゃないですか?」
彼の唇が、私の首筋に落ちる。甘く熱い吐息とともに、私の理性は、音もなくほどけていった。
第三章 滴る熱と、天幕に包まれた微睡
寝袋の中。彼と一緒に入ることを許してしまったのは、私の最後の理性が崩れた証だった。
彼の熱が、身体の奥に押し寄せてくる。
私の腰は彼の動きに応じるように揺れ、喉からは抑えきれない声が漏れ出す。
「……あっ、あぁっ……」
重なり合うたびに、汗と湿気が混ざり合い、身体の奥が震えた。
シュラフの中、布が擦れる音すら官能的で、彼の手が背中を撫でながら私を包み込む。
「イって……いいですか?」
「……一緒に」
私たちはほとんど同時に果てた。深く、静かに、爆発のように。
—
朝、テントの外には雲ひとつない空が広がっていた。
「また、会えますか?」
優斗くんが小さく尋ねたとき、私は答えられなかった。
けれど、あの夜の熱と震えは、身体の奥に、確かに残っていた。


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