第一章:揚げ物と若さの匂いの中で
厨房は、まるでフライヤーの中に放り込まれたみたいだった。
熱気と油の匂い、それに混じって微かに漂う制服の洗いたての柔軟剤の香り。
それが、彼の匂いだった。
私が勤めるお弁当屋さんは、地元では人気の個人経営。
もう3年もここで働いていて、気づけば若い子の入れ替わりを何度も見てきた。
でも——今年の夏に入ってきた「彼」は、ちょっと違った。
「佐藤くん」としか呼んだことはないけれど、18歳になったばかりのその少年は、細くて白くて、まるでまだ大人になりきれていない線の細い犬のような佇まいをしていた。
可愛い、というよりは、壊れそう——なのに、時折見せる視線だけがやけにまっすぐで。
「今日も暑いですね」
「あら、若い子は平気なんじゃないの?」
そんな何気ないやりとりが、少しずつ距離を詰めていく。
ピークタイムが過ぎ、いつもどおりふたりきりになる午後の厨房。
私が少しふざけて「腰揉んで〜」とエプロン越しに頼むと、最初は戸惑いながらも、すぐに素直な手が私の背に添えられた。
若い掌の熱が、私の背中をじんわりと溶かしていった。
彼が、私の心のスイッチに指をかけたのは、きっとその頃だった。
第二章:演じた眩暈、誘ったのは罪か情か
その日も相変わらずの灼熱で、私は厨房の隅で少しだけ目を閉じた。
「大丈夫ですか?顔赤いですよ…!」
慌てた声がすぐ近くで聞こえた。そのときすでに私は、演じることに決めていた。
「ちょっと、苦しくて……ごめんね」
そう言いながら、彼の前で少しだけ胸元のボタンを緩めた。
下に着ていたブラトップが汗で透けて、密着しているのを感じる。
視線が泳ぐ彼の様子が、かえって愛しくて。
「…背中、さすってもらっていい?」
「はい…わ、分かりました…!」
彼の手が震えながらも、私の背中を上下に優しくさすっていく。
そのたびに汗が動き、布が擦れ、私の皮膚が、彼の指の熱に触れるたびに脈打っていく。
決して直接的ではない。でも、それが逆に心の奥を撫でるようだった。
「……あの……胸も……?」
彼が恐る恐る言ったその言葉に、私はかすかに笑って首を振った。
「それは…また、今度ね」
罪悪感なんて、もうとうに熱で蒸発していた。
私が欲しかったのは、「彼」だった。
若さと、従順さと、そしてあの——誰かに初めて触れるときの恐れと純粋。
それを、吸い込みたくてたまらなかった。
第三章:ふたつの鼓動、ひとつの静寂
あの日の午後——
私は初めて彼を、自分の胸に抱き寄せた。
「こっちに来て」
そう言って、制服のままの彼の頭をそっと私の胸元に導く。
躊躇いながらも寄り添ってくる姿に、私は自分の欲望がどこまで育っていたのかを痛感した。
彼の唇が、何も言わずにそっと肌に触れた瞬間。
胸が張りつめ、奥の奥までじゅわりと滲むような感覚が広がった。
乳首に触れた舌は、たどたどしく、でも真剣で。
その不器用さが、まるで初恋のように私を溶かしていった。
私は目を閉じて、ゆっくりと腰を抱え、彼の頭を撫でながら、
「うん……そう、上手……」と、母性とも、欲情ともつかない声で囁いた。
背徳と快楽の狭間で、私は息を吐くことさえ忘れていた。
ふたりの吐息だけが厨房に静かに溶けていき、タイマーの音も、レジの音も、すべてが消えていた。
やがて彼が顔を上げたとき、目に浮かんだのは、何かを知ってしまった子どものようなまなざしだった。
私はその頬に手を当て、「これはふたりだけの秘密ね」と微笑んだ。
熱はまだ身体の奥に残っていたけれど、心にはどこか冷たい風が吹いた。
たぶん——これが、忘れられない夏の始まり。
それとも、終わりだったのかもしれない。
…余韻のなかで
彼は今も変わらず私を「〇〇さん」と呼び、少し照れたように笑っている。
何もなかったかのように。
でも、あの午後のぬくもりは、私のなかでいまも静かに火を灯している。
あのとき溶けたのは、制服の汗じゃない。
私の、理性と——心だった。



コメント