【第1幕】視線だけで濡れる──リバウンドの鼓動が胸を叩いた午後
真夏の体育館。
窓際のブロックガラスから差し込む西日の粒が、木の床に滲むような金色の斑紋を落としていた。蒸された空気に汗が浮き、呼吸のたびにシャツが肌に張りつく。
私は、子どもたちの練習を見守る保護者席の端に、ただ一人座っていた。
ぴたりと、視線を感じた。
首筋に、湿った風がそっとなぞるような。目を逸らしているつもりだった私の意識が、知らず知らずのうちに、あの人──コーチの彼の動きだけを追っていることに気づく。
笛を吹く声が低くて、耳の奥で響いた。
タオルで額をぬぐう仕草、ボードに描いた戦術の説明をしながら、肩越しに子どもたちを見渡す横顔。どこか無骨で、けれど熱を秘めたその眼差しに、私の心は微かに揺れる。
「○○さん、いつもありがとうございます」
声をかけられたのは練習後だった。
雑巾をしぼる音と、子どもたちの笑い声が遠くで響いているなか、私は少し遅れて、彼の言葉を受け止めた。
「いえ、私なんて……」
笑ってみせたつもりが、口元の緊張が隠せない。
コーチの彼は私と同じ目線にしゃがみこむと、少しだけ首をかしげた。シャワーを浴びたばかりのような、湯気のような湿気をまとっていて、すぐ目の前にある胸板が汗ばみ、Tシャツの生地が張りついていた。
見てはいけないと思った。
でも、視線が肌を這っていく。喉仏が上下し、首筋をつたう一筋の汗がTシャツの襟へと沈んでいくのを、目で追ってしまう。
彼の手が、私の左手の上に重なった。
それだけで、息が浅くなるのが分かった。
誰にも見られていないのに、まるで体育館全体がこちらを見ているような緊張感の中、私の指先はじっとりと汗ばんでいた。
「手、冷たいですね……」
言葉に出された瞬間、私の身体が**“反応してしまっていたこと”**を自覚してしまった。
彼の親指が、私の人差し指の上をそっと撫でた。なぞる、というより、確かめるように──私が、どういう反応をするのかを、試すように。
その瞬間、脚の奥が、じんと疼いた。
下着の内側に汗が滲んでいたのは、ただの気温のせいじゃなかった。
触れられたのは“指先”だけなのに、なぜだろう。
私はいま、脚を閉じることができなかった。
「……帰り、車で送りますよ」
その言葉の意味を、私は分かっていた。
でも、頷いてしまう。
もう、すでに始まっていた。
まだ触れられていないうちから、私は──
“濡れてしまっていた”。
【第2幕】脚を閉じたまま快楽に沈む夜──誰にも気づかれない距離で
あの夜は、蝉の声がまだ鳴いていた。
息子の部活の時間が長引き、私たち親は順番で迎えを分担していたけれど、その日、たまたま他のお母さんの都合が悪くなり、私が最後の見送り役になった。
空には、蒸し暑さを閉じ込めたような鉛色の雲が張りついていた。
コーチの彼が、後片付けの手を止め、私の隣に立った。
「ちょっと、涼みに行きませんか」
何のてらいもなく、彼はそう言った。
けれどその声は、私の肌の奥、鼓膜の裏側に沈み込んで、胸の内側からゆっくり火を灯していった。
車のエアコンが静かにうなり、車内には誰もいなかった。
後部座席に座った私に、彼が運転席から振り向く。
「……となり、いいですか」
うなずいた私の声は、もう自分のものではなかった。
助手席に移動するあいだに、スカートの裾が脚にまとわりつき、汗ばんだ内ももがくっついたまま離れなかった。
彼の左手が、シートの間をすり抜けて、私の手の甲に触れる。
指が、一本ずつ絡んできた。
それだけで、心臓の奥が疼いた。
静かな車内に、ふたりの呼吸だけがある。
近すぎる距離。
でも、まだ触れていない。
それが余計に、身体の奥に火を灯した。
彼の指先が、私の手の甲から手首、そして二の腕へと移動する。
羽のように軽いその感触に、私は思わず息を呑んだ。
「ここ……すごく、柔らかいんですね」
彼がそう言ったのは、肘の内側をそっとなぞったときだった。
私は、脚を閉じたまま、何も言えずにいた。
でも、もう濡れていることを、自分が一番知っていた。
下着が、粘膜に張りつく。
浅くなった呼吸が、身体の奥を圧迫する。
「嫌だったら、言ってくださいね」
その言葉が優しすぎて、逆に、拒めなくなる。
私の顎に触れた彼の指先が、そっと唇をなぞった。
──なにもしていないのに、こんなに震えている。
脚を閉じているはずなのに、脚の奥が疼いている。
彼の唇が、私の耳に触れた。
息だけで囁くように、名を呼ばれる。
「……○○さん」
その声だけで、喉が潤んだ。
私は、自分の太ももが震えているのを感じていた。
脚は閉じたまま、なのに──
まるで、内側から開いてしまったように。
「こんなに反応してくれるなんて……うれしい」
彼の唇が、頬、顎、そしてゆっくりと首筋へ。
呼吸の熱が、肌を伝って粘膜へと落ちていく。
脚の奥が、じわじわと滲んでいた。
下着の内側で、音を立てずに、私の身体は彼を迎える準備をしていた。
彼の指が、スカートの布の上から、私の太ももをなぞる。
触れたわけじゃない。
でも──
そこに“ある”ことを、お互い、確かめてしまった。
私は、声を上げる代わりに、彼の肩にそっと手を置いた。
拒絶ではないことを、彼はすぐに悟った。
「……奥まで、届きそうですね」
その囁きに、息が漏れた。
ただ脚を閉じたまま、彼の指に沈んでいく。
内ももに触れられただけで、私は、もう奥で震えていた。
耳の奥が熱い。
喉の奥がうずく。
汗と湿りが、下着を越えて、彼の指先に伝わりそうで、怖くて、でも、それ以上に待ち遠しかった。
「濡れてる……?」
囁きの問いかけに、私は、ただ目を閉じて、うなずいた。
脚は閉じたまま。
でも私の中は、もう……開かれてしまっていた。
【第3幕】声を殺して奥で濡れる──脚の内側で彼を孕んだ夜
シートを倒す音が、小さく軋んだ。
街灯の届かない、公園の奥の駐車スペース。外はまだ暑いのに、車内の温度はそれ以上に上がっていた。
彼の手が、私のスカートを捲り上げるとき──私はもう、何の抵抗もなかった。
「ほんとうに……いいの?」
問いかけられたとき、私はうなずくだけで、もう答えになっていた。
身体が、嘘をつけないくらい濡れていた。
喉元で熱が揺れ、下着を伝って、彼の指が私の“奥”へ届くのを待っていた。
「ん……あ……」
声が、こぼれそうになる。
でも、息を止めた。
子どもが寝ている家に帰るまで、私は“母”に戻らなければならない。
なのにいま、私は──
誰かの指の中で、悦びのかたちを孕んでいた。
「……奥、もうやばいくらい、濡れてるよ」
彼の声が、震えていた。
私の膣が、彼の指を吸い込むたび、音を立てないように意識すればするほど、腰が浮いてしまう。
脚を閉じたまま、快楽に耐えるその姿勢が、
逆に彼の欲情を煽ってしまうのが分かった。
「ねえ、もう……入れたい」
彼が熱を帯びた声でそう囁く。
私のなかに触れたまま、彼の指が濡れた音を奏で、
私は脚をすこしだけ緩めた。
その合図で、彼は自らのものを取り出し──
太く、脈打つ硬さをもって、私の入口にあてがった。
「いい……入れて」
私は、自分の声が誰のものかわからなかった。
言ってしまったとたん、彼の先端が、奥の粘膜に触れるように、ゆっくり沈んでくる。
「アッ……だめ、きつ……っ」
その一声で、彼がもっと深く押し込んでくる。
私の膣が、自動的に彼を締めてしまう。
快感が波のように背骨を駆けあがり、声にならない喘ぎが喉を焼く。
「締まる……すごい……っ」
彼が腰を打ちつけながら、私の名を呼ぶ。
ただ、それだけで。
私は、自分の身体が完全に彼の形を記憶してしまったのを悟った。
ぐっ、と奥まで貫かれた瞬間、
膣の奥がびくんと痙攣し、子宮の手前で彼を受け止めてしまう。
「どこに……出す?」
彼が問うと同時に、
私は彼の背中に腕をまわして、耳元で囁いた。
「……奥にちょうだい」
彼の動きが、荒くなる。
腰が打ちつけられるたび、音を立てないように、唇を噛む。
けれど、彼のものが奥で脈打ち始めた瞬間──
「うっ……イクッ……っ」
彼が呻きながら、深く、深く沈んでくる。
私は、自分の内側で──精が注がれていく温度を、確かに感じていた。
じゅわ……と広がる熱に、
私の奥が、自然に痙攣を始める。
「イ……くっ……ア……ア……っ」
声を殺して逝く。
脚の内側で、彼を孕んでいくような錯覚。
私の粘膜が、彼の形に沿って蠢きながら、
一滴残さず、彼のすべてを、許してしまった。
ふたりの汗と吐息が混じる車内。
窓の曇りが、私たちの罪をやさしく隠してくれる。
その夜、私は“女”として、完全に彼を迎え入れた。
そして、
自分が母でも妻でもなく、彼だけの“肉の器”であることに、悦びを感じてしまった。


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