不倫旅行 50歳主婦の告白:温泉で目覚めた女の本能

第一章:出張という名の旅

「仕事で、急に出張が入ってしまって…」

そう告げたとき、夫は新聞から目も離さず「ああ、気をつけて」と言っただけでした。その無関心な声を背に、私はスーツケースを玄関に置いて、深呼吸しました。息を吸えば、少しだけ心が痛みました。けれどそれ以上に――昂ぶりが、胸の奥を濡らしていたのです。

私、50歳。結婚して20年以上、子どもはすでに手を離れ、今では家庭というよりも“体制”の中で暮らしている気がしていました。夫とはもう、触れ合うことすら年単位でない。だから、私は彼に、元同僚のその人に、ほんの愚痴交じりのメールを送り続けていたのでしょう。既婚の彼、52歳。かつて同じ部署だったけれど、今は遠い場所に勤める彼とのやりとりは、どこか心の拠り所でした。

そして、ある秋の始まり。

「紅葉を見に行きませんか?」

彼から届いたその一文に、私は数日間、指先が震えるほど悩みました。家庭がある。私も、彼も。それなのに、心のどこかが「行きたい」と叫んでいたのです。

旅行前夜、鏡の前で何度も下着を選び直しました。まるで20代のように、肌の露出やレースの配置に意味を持たせながら。久しぶりに塗った口紅が、やけに赤く感じられて怖かった。けれど、止められませんでした。


第二章:温泉と嘘と、火照った心と身体

待ち合わせ場所に立つ彼を見た瞬間、心臓が跳ねました。黒のジャケットに、控えめな笑顔。彼も少し緊張しているように見えたのが、嬉しかった。

紅葉が始まったばかりの渓谷を、車で抜けてゆく。見慣れた道がまるで映画のように美しく見えたのは、彼の隣にいたからでしょう。観光地での会話は穏やかで、でもときどき指先が触れそうになるたびに、胸の奥が熱くなっていく。

旅館に着いたとき、彼が「夫婦で」と当たり前のように言ってチェックインしたのが、妙に現実味を帯びていました。

温泉で体を温めたあと、館内のレストランで夕食。和やかな時間。けれど心の奥では、「このあと」がすでに動き始めていました。

部屋に戻ると、二組の布団が隣り合って敷かれている。私の鼓動は耳の奥でうるさいほどに鳴っていて、彼がバスルームへ消えた瞬間、私は急いで明かりを落とし、布団に潜り込みました。

「もう寝ちゃったの?」

「…起きてるよ」

その一言で、私の背後に温もりが近づいてきたのがわかりました。彼の手が、背中越しにそっと触れてくる。

「横、行ってもいい?」

「…うん」

そのときの“うん”には、すべてが込められていました。罪も、寂しさも、欲望も。

彼の腕が私を包み、ゆっくりと私の肩越しにキスを落としてきました。心の防波堤は、もう役目を終えていた。肌と肌が触れると、50歳の私の内側に、知らなかった火が灯るのを感じたのです。

「恥ずかしいから…電気はそのままで」

そう言った私の身体は、もうすでに全てを委ねていました。彼の指が、私の奥へと確かめるように入ってくる。硬さと、熱と、やさしさ。

私は、自分がこんなふうにいかされるなんて、思ってもいませんでした。息を詰め、指に絡む快感に身体を震わせながら、知らない私を感じていたのです。

「…挿れるよ、いい?」

「うん、お願い」

彼が私の中に入ってきた瞬間、言葉では表せない何かが全身を駆け巡りました。ずっと求めていた、“女”としての再起動。夫ではない、けれど心に触れる誰かの重みを、私は涙が滲むほど愛おしく感じていたのです。

「どこに出したらいい?」

「…抜かないで、このまま…お願い」

我ながら信じられない言葉を口にしたそのとき、私は彼の腰に足を絡めて、両手で彼を放すまいと抱きしめていました。

「いいの? 本当に…」

「うん…中に、ほしい…」

彼が果てたあとの静けさの中、私はまだ身体を開いたまま、彼の鼓動を背中に感じていました。こんな夜が、あるなんて。夢だとしても、もういいと思った。


第三章:ありがとう、そして、さようなら

朝。窓から差し込む光の中、彼の寝息は穏やかで、私はその横顔を黙って見つめていました。罪悪感は、確かにあった。けれど、それ以上に、満たされていた。

再び観光地を巡り、時間がゆっくりと流れていく。帰りの車中で交わした言葉は少なかったけれど、どちらも分かっていたのでしょう。この旅が「一度きり」であることを。

彼と別れ、帰宅したとき、私の中にはまだ彼の熱が残っていました。

以来、彼とは一度も連絡を取っていません。けれど、後悔はしていません。

あの紅葉のように、一瞬で燃え、そして潔く散った恋。私の人生の中で、確かに存在した“もうひとつの物語”。

「ありがとう」

そう心の中で呟いて、私は今日も台所に立ちます。けれど、もう以前の私ではありません。

私は、女であることを、忘れていなかった――。

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