「ねえ、もしあなたが電車で私を見かけたとしたら……そのときの私、何をしていたと思う?」
そんな問いを、誰かに投げかけてみたくなる。
もちろん、本当には言えない。
けれど、あの日の私は、それに近い“視線”を、誰かに向けて欲しかったのかもしれない。
誰にも言えない。
だけど消せない。
あの午後、電車の中で私がしたこと――
それが、私の中にある何かを目覚めさせてしまったのだ。
その日、私は下着をつけずに家を出た。
鏡の前で、いつものようにスカートをはいた瞬間。
ふと「今日は……穿かないでみようかな」と、心の奥から声がした。
理由なんてなかった。
でも、それを“気まぐれ”だと思い込みたかったのは、たぶん防衛本能だったのだと思う。
風が吹き抜ける道を歩きながら、私は自分の内腿を伝う冷気に、なぜか息を詰めた。
電車に乗るときにはすでに、肌は外気とつながり、鼓動は落ち着かないほどに波打っていた。
田舎の昼下がり。
車内はがらがらで、私以外に2人しか乗っていなかった。
そして、そのうちのひとり――斜め前の席に座った男性の存在が、私の中の何かに火をつけた。
スーツに細縁の眼鏡。
視線は手元の書類に落ちたまま。
それでもなぜか、私は彼の存在を無視できなかった。
「もし、彼がこっちを見たら……?」
そんな想像をした瞬間、スカートの奥でじわりと、熱が滲んだ。
なにを考えてるの、私。
おかしいよ。
でも、止まらなかった。
私は、ゆっくりと足を開いていく。
ほんの少し。誰にも気づかれない程度に。
だけど、私にはその“わずか”が、体全体を電流のように駆け巡るほどの刺激だった。
斜め前の彼は、変わらず微動だにしない。
その沈黙が、なぜか私の欲望に拍車をかけた。
「見られたい」
「でも、見られたら終わる」
「お願い、振り向かないで。……でも、もし振り向いたら」
そんな矛盾を抱えたまま、私はそっとスカートの中へ手を伸ばした。
指先が触れる肌は冷たく、でも奥には火照りが確かに存在している。
私はそっと、確かめるように撫でた。
すでにそこは、しっとりと濡れていた。
「まさか……こんなことで」
驚きと、羞恥と、そして拭えない快感。
身体を伝う鼓動が、じんじんと音を立てている。
視線はまっすぐ前。
身体はじっと、微動だにせず、ただ内側だけが沸騰していく。
誰にも気づかれない――
そう思い込みながら、私は次第に大胆になっていった。
スカートの布越しに足を開き、指先をさらに奥へ。
電車の揺れがその動きを促すように、身体をゆっくりと波に乗せていく。
彼は、気づいてる?
気づいてない?
その“曖昧”な境界線の上で、私は揺れていた。
そして、その揺れこそが私の欲望の正体だった。
スカートの裾がふわりと持ち上がる。
空調の風か、それとも私の指先の動きか。
もはや制御などできなかった。
一瞬だけ、私は彼の方へ視線を向けた。
動かない彼。
伏せられた目元。
……でも、なぜか私は「見られている」と感じていた。
心が、剥き出しだったから。
私という存在のもっとも秘められた部分が、
今この車両の空気に、しっかりと溶け込んでいたから。
やがて電車は、私の最寄り駅に差し掛かった。
スカートを整え、私はゆっくりと立ち上がる。
振り向かない。
けれど、背中に残るあの“視線の予感”だけは、まだ消えていなかった。
部屋に戻った私は、コートを脱ぎ捨てるようにベッドへ向かった。
呼吸が浅く、喉が渇いていた。
なにをしてきたの、私。
最低……かもしれない。
でも、こんなにも身体が求めている。
私は、ベッドの上でスカートをまくり上げ、脚を大きく開いた。
指先が触れた瞬間、ぬめるほどの濡れが広がっていた。
「こんなに……」
鏡に映る自分の顔は、もう理性の仮面を脱ぎ捨てていた。
目を閉じると、すぐにあの車両が蘇る。
風の感触。彼の背中。
そして、自分がスカートの中でなにをしていたか。
想像と記憶と、いま目の前にある現実が重なり、私はただ指を止められなくなっていった。
ひとさし指が、奥へ。
中指が、円を描きながら外縁をなぞる。
「見られてる……私、見られてたの……」
そう囁く声は、自分のものとは思えないほど甘く、震えていた。
息が漏れる。
腰が揺れる。
頭が真っ白になる。
身体の奥から、ひとつの波が、抑えようのない衝動となって込み上げてくる。
私は、自分の名を呼びそうになった。
叫びを、枕に押し当てながら、身体は大きく痙攣する。
果てたあとも、しばらく私は動けなかった。
まるで、すべてを脱ぎ捨ててしまったかのように。
天井を見つめながら、私は心の奥で呟く。
「私……もっと、知らない自分に出会いたい」
「まだ、この身体の奥に眠っている私に」
そしてまた、どこかで、誰かの視線を探してしまうのかもしれない。
その視線が、私という存在の輪郭を浮かび上がらせるように――
私は、誰かに見られることで“女”になっていくのかもしれない。
いま、あなたがこの文章を読んでいるのなら――
その視線もまた、私の欲望を“本物”にしているのだと思う。
だからきっと、私はもう、やめられない。


コメント