疲れきった夜だった。
満員電車に押し込められた心も体も、もう自分のものじゃないような感覚で、私は駅前のビルに吸い込まれるように足を踏み入れた。
──『清水整体院』。
白い暖簾がゆるやかに揺れていた。
「ご予約の○○様ですね」
出迎えたのは、白い施術着に身を包んだ男。
三十代後半から四十手前くらいだろうか。
整っているわけじゃないのに、どこか色気のある顔。
低く湿った声が、私の耳の奥に残る。
目が合った瞬間、息が詰まりそうになった。
空調の音とアロマの香りが漂う施術室。
淡い照明。落ち着いたクラシック。
なのに、心はざわついていた。
理由のわからない不安と期待──。
私の中でふたつの感情がせめぎ合っていた。
施術着に着替え、ベッドにうつ伏せになる。
タオルがかけられ、視界がゆっくりと閉じていく。
「失礼します」
彼の指が、背中に触れた。
その瞬間、全身の神経が泡立つ。
ただ置かれただけの手。なのに……どうして、こんなに熱い?
ゆっくり、慎重に、でも確かに、彼の指は私の肌を泳いでいく。
肩から肩甲骨へ。
背骨に沿って、骨の内側まで届くような、深いタッチ。
「かなり、溜め込んでますね」
耳元に落ちる囁きに、心がざわめく。
私は答えず、ただ、呼吸を整える。
腰のあたりを押されたとき、吐息が漏れた。
「ここ……反応出てますね」
彼の声が低く濡れていた。
私の中に入り込むように、深く、静かに。
太ももを撫でる指が、内ももへと滑ってくる。
その動きが、マッサージではないことを、私の身体はすでに理解していた。
「脚、少し開きますね」
その声のあと、ベッドの上で私はわずかに震える。
脚の間をゆっくりと滑ってくる手。
布越しに感じる圧と熱。
そこには、マッサージとは呼べない、ある種の“意思”があった。
私の身体が応える。
指が中心に近づくたび、布の奥がぬるりと潤んでいくのが、わかる。
「仰向けになれますか?」
その声に抗えなかった。
私は静かに、体を返す。
タオルが目元にかかり、視界が閉じられる。
その代わりに、他の感覚が研ぎ澄まされていく。
鎖骨を撫でる指。
胸の輪郭を描くような動き。
布越しにかすめる親指の腹が、確かに、乳首を……。
「ん……っ」
声が漏れる。
逃げたくて、でも逃げたくなくて。
そんな矛盾を抱えたまま、私はただ、感じるしかなかった。
「ここのコリ、すごいですね……」
悪戯に笑う声が、耳元で震える。
乳首を布越しに押し上げるように、ゆっくりと揉まれる。
そのたびに、下腹部がきゅう、と疼く。
脚の間に手が滑り込み、布の奥へ。
わずかに触れただけなのに、身体が跳ねた。
「すごい。……感じてるんですね」
耳元にささやかれる言葉。
それだけで、奥が痺れてくる。
私はもう、拒めない。
されるがまま、ただ、官能の海に沈んでいく。
指が、つっと撫でる。
秘めた場所の輪郭をなぞるように。
絶妙なタッチで、中心を避けながら焦らしてくる。
身体が浮き上がる。
舌先が、乳首に触れる。
ぞくり、と背中が波打つ。
「こんなに、濡れてる……」
その言葉に、恥ずかしさと快感が同時に押し寄せて、私は思わず足を震わせた。
呼吸が合わない。
心音がうるさい。
でも、それすらも官能のリズムになっていく。
指が、濡れた場所に触れた。
その瞬間、全身が跳ねる。
中心を優しく、でも逃がさないように円を描かれる。
「イきそう……?」
囁かれ、頷いてしまう私がいた。
乳首を吸われながら、敏感な突起をゆっくり撫でられる。
もう限界だった。
「あっ……ンッ……!」
絶頂の波が、腹の底から突き上げてくる。
全身が震え、声が押し出される。
私は、ひとつの波に溺れて、果てた。
静けさの中で、まだ身体が微かに震えていた。
彼はタオルで私の額の汗を拭き、静かに耳元で言った。
「……よく頑張りましたね」
まるで褒められる子供のように、私は小さく頷いた。
その夜、帰り道。
電車の窓に映る自分の頬が、ほんのり赤いのがわかった。
“もう一度、あの手に触れられたい。”
その思いが、身体の奥から、静かに湧き上がっていた──。




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