【第1部】バツ印の夜、沈黙に濡れた指先──それは始まりじゃなく、すでに堕ちていた証
パートの制服を脱いで、エプロンをたたむとき──私の中には、もう“ある決意”が生まれていたのかもしれません。
それは理性ではなかった。家庭の重さでも、倫理の線引きでもない。
女として、忘れていた“予感の疼き”。
ふとした視線の交差、深夜のレジ締め後、無言で差し出される缶コーヒー。その手に、どれだけ私は密かに触れてほしいと願っていたか。
53歳のKさん。
妻子がいると知りながらも、その落ち着きと、私を“女”として見てくれるまなざしに、何度心をゆらされたかわからない。
この夜、車の中で彼に「旦那とは……もうしてないんだろ?」と尋ねられた瞬間。
私は首を縦にも横にも振れず、唇だけがわずかに濡れていた。
言葉にならない期待と、体が知ってしまっていた飢え。
「Kさんなら、こうはしない……」と両手で作ったバツ印。
その指先にさえ、私は無意識に、抱かれる“予行練習”を重ねていたのかもしれません。
──唇がふれた瞬間、すべての音が遠のきました。
シートの静電気。夜風の湿気。
Kさんの指が私の胸に触れたとき、私は「まだ明るいから」と自分に言い訳をしながら、心ではもう、次の日の昼のことを考えていたのです。
約束の水曜日。
家に戻り、子どもがいないことを確かめるようにシャワーを浴び、鏡の前で下着を選んだとき──
私は「浮気」ではなく、「初めての男に抱かれる日の女」になっていました。
【第2部】ナマで貫かれた午後、布団の下で目覚めた“本能”
ホテルの部屋は、どこか懐かしい匂いがしました。
カーテンの隙間から漏れる午後の光。
そのやわらかさに、私は一瞬「現実じゃない」と思いたくなった。
「明かりは……少し、だけ……」
布団にくるまった私に、Kさんの声が低く沈み、すぐに肌の温度に変わっていきました。
最初に唇がふれたのは、喉のくぼみでした。
舌が滑るように胸へ、ゆっくりと、まるで“ここが女の部分だよ”と記憶をなぞるように触れてくる。
私の体は、触れられるたびに「忘れていた疼き」を思い出し、そのたびに呼吸が浅くなっていきました。
脚を開かされたとき──羞恥心と濡れの感覚が、まったく同じ熱で重なっていたのです。
彼の舌が秘部に沈んでいくたび、息が漏れると同時に、心がなにかに許されていく。
「恥ずかしい……のに……」
心の中でそう呟くたび、体の奥がきゅっと締まってしまうのが、悔しいほどわかりました。
そして──挿れられた瞬間。
Kさんのものが、生のままで、私の奥にずぶずぶと沈んできた瞬間。
それは“初体験”に近かった。
骨盤の奥が電気のようにしびれ、過去に誰にも触れられたことのない場所にまで、濡れたまま包み込まれていく。
私は声も出せず、ただ目を見開いたまま、彼の一突きごとに快楽を染み込ませられていきました。
──気づけば私は、何度も、何度も、絶頂を迎えていました。
イッた感覚すらも曖昧になるほどに。
「もう、中に出して……いい……」と、どこか甘えた声でそう告げたのは、私自身でした。
Kさんが中に溢れさせたとき、私は“女としての全部”を差し出したような気がして、涙が出そうでした。
【第3部】もう一度、私から跨った──女として渇いていた場所に、生の悦びを
静かな余韻のなかで、私は布団をかぶったまま、しばらく動けませんでした。
汗と吐息、そして心の底から満たされた快楽。
Kさんの腕の中でぬくもりを感じながら、それでもどこか“もっと欲しい”と、喉の奥が疼いていた。
そのときでした。
「もう一度……」と呟いた自分の声が、まるで他人のもののように震えていたのは。
私は静かに彼のシーツをめくり、まだ柔らかさの残る彼のものに唇を添えました。
ゆっくり、何も言わずに。
舌で確かめるように咥えていくと、ぴくりと反応し、じわじわと硬さを取り戻していく。
その変化に、私は自分が“今、与えている”と実感し、ゾクゾクとした快感に包まれていきました。
勃起を完全に取り戻したその瞬間、私は迷わず、自分から跨がりました。
「入れて、私から……」
恥ずかしさも羞恥もすでに超えていた。
それは媚びでもなく、奉仕でもない。
ただ「女」として、自分の中に彼をもう一度刻みたい。
その想いだけで動いていました。
突き上げに合わせて腰を揺らすたび、胸が震え、汗が滴り、肌と肌が擦れるたびに、愛しさが増していく。
「Kさん……好きになりそう……」
そう囁いた時、Kさんは一瞬目を閉じ、私の腰を強く引き寄せました。
──それが最後の絶頂。
私は嗚咽のような啼き声をあげながら、もう一度すべてを受け入れ、溶けていきました。
ホテルを出る頃、まだ夕方の光は残っていて。
それでも、世界は違って見えました。
淫乱と思われたかもしれない──
けれど私は、確かに“女”として愛されたのです。
それを初めて知ってしまった心と体は、もう戻れないことを、知っていました。


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