支配と快楽の狭間──パワハラ上司に堕ちた禁断の夜

1. いつも始まりは些細なことで

「佐々木、ちょっといいか?」

昼下がりのオフィスに響く、低くねっとりとした声。その声を聞くたび、私の背筋は氷のように冷え、指先がかすかに震えた。心の中で小さく息を吐き、表情を崩さないように努めながら振り返る。

声の主は田島部長。50代後半、脂ぎった肌に高級なスーツを纏い、権力を誇示するような態度で立っている。彼の視線はまるでナイフのように鋭く、私の内側をえぐるように這っていく。

「はい、なんでしょうか?」

努めて平静を装ったが、心の奥にじわりと嫌悪が滲んでいく。この声が呼ぶたびに、何かを奪われるような感覚があった。

「この資料、俺が言った通りに作ったのか?」

「はい、指示通りにまとめたつもりですが……」

「はぁ? このグラフの色が見づらいだろ。お前、客先のことを何も考えてないのか?」

彼の言葉は、ただの指摘ではなかった。それは私の存在そのものを否定し、価値を引き剥がそうとする冷酷な刃だった。

「申し訳ありません、修正します」

「当たり前だ。こんな基本的なこともできないんじゃ、お前みたいな女はこの会社に必要ないんじゃないか?」

喉の奥に鉄のような苦味が広がり、目の奥がじんと熱を帯びる。悔しさを飲み込みながら、私はデスクの下で拳を握りしめた。

2. 毎日のように続く嫌がらせ

それからというもの、田島部長の矛先はますます鋭くなった。

「女は結婚したら辞めるんだから、会社に貢献しようなんて考えなくていいんじゃない?」 「お前みたいなやつがいると、仕事の効率が悪くなる」 「そんな服着てたら、取引先の男が喜ぶんじゃないか?」

言葉の一つ一つが、私の中に鋭い棘となって突き刺さる。何も言い返せない。ただ、耐えるしかなかった。

少しずつ、少しずつ、私の心は擦り減っていく。朝、会社のビルを見上げるだけで胃が痛むようになり、夜は眠れない日が続いた。

3. ついに堪忍袋の緒が切れる

ある日、会議の準備で部長室に呼ばれた。

「佐々木、こっちに来い」

廊下は静まり返っていた。いつもなら残業する社員の気配があるのに、この日はなぜか、会社全体が夜に飲み込まれたかのようだった。蛍光灯の冷たい光が、フロアにゆらめく影を落とす。

ドアを開けた瞬間、驚いた。そこにはいつもの薄暗く雑然とした部長室ではなく、洗練された静寂が広がっていた。大きな窓からは都会の夜景が輝き、摩天楼の明かりが室内に柔らかな陰影を落としている。厚いカーテンが閉められ、オレンジ色のデスクライトだけが頼りなく光っている。その小さな明かりが、革張りのソファに座る田島部長の輪郭をぼんやりと照らし出していた。

彼はグラスを傾け、琥珀色の液体を喉に流し込む。その仕草はいつもの威圧的なものではなく、妙に洗練されていた。オフィスに響くジャズの旋律が、場の雰囲気をさらに優雅なものへと変えているようだった。まるでこれから繰り広げられる出来事が、すでに彼の手の内にあると言わんばかりの余裕が。

「お前、最近生意気だな。少しは可愛げを見せたらどうだ?」

低く、湿った声が空気を切り裂いた。

次の瞬間、強引に肩を引き寄せられた。

喉が詰まりそうになる。彼の指先が、私の肩にじわじわと沈んでいく。熱い。身体の中に入り込もうとするような悪意が、その手のひらから伝わる。全身が硬直し、心臓が悲鳴を上げた。

デスクの上には、未開封のワインが置かれている。その横にはグラスが二つ。何かを「準備」していたことが明白だった。

田島部長はグラスを手に取り、赤い液体をゆっくりと注いだ。深く濃い色がガラスの内側に広がり、室内の薄明かりに妖しく揺れる。

私はお酒が弱い。でも、彼の前で怯えた様子を見せるのは許せなかった。

私は、そのグラスを手に取り、一瞬迷った。

そして、何かを振り払うようにワインを一気に飲み干して見せた。喉を焼く熱が広がり、視界がかすかに歪む。それでも、私は平然を装い、静かにグラスを置いた。喉を焼くような熱が広がる。田島部長が驚いたように目を見開く。

「ほう……意外と強いんだな」

田島部長が薄く笑い、再びワインを注ぐ。私が大嫌いで、生理的に受け付けない彼なのに、今夜の彼はどこか違った。いつもの尊大さが影を潜め、洗練された物腰がそこにあった。まるで、別人のようにさえ思えるほどに。言葉の端々にいつもの横柄さはなく、どこか穏やかな雰囲気を纏っていた。

「意外と、強いんだな」

その声は、いつものように嘲るような響きではなく、むしろ驚きが混じっていた。

グラスの縁が私の指先に冷たく触れた。

私は彼をまっすぐに見つめた。目の奥に宿る冷たい光を隠さずに。

しかし、その光は揺らぎ始めていた。いつもの彼とは違う。話を遮ることもなく、淡々とワインを傾けながら私の言葉を待つ様子は、これまで見たことのない姿だった。

だが、次第に視界が揺れた。喉の奥が熱を帯び、心臓の鼓動が耳元で響く。私は酔っていた。酔いに任せて、今まで押し殺してきた思いのたけを、彼にぶつけたくなった。

「部長……あなたって、いつも偉そうだけど、本当は何を考えているの?」

酔いが回る。言葉が自然とこぼれた。これまで私が彼に抱いていた嫌悪とは別の何かが胸の奥でざわめいている。

言葉が次々と溢れる。抑えていた感情が、ワインの力で決壊していく。

「女性を軽視して、都合よく扱おうとして、それで満足してるんですか? そんなやり方、もう誰も通用しないってわかってないんですね」

「何を……!」

田島部長が微かに目を伏せ、ワインのグラスを指でなぞる。

「そう思われているんだな。」

彼の声には、かすかな疲れが滲んでいた。私は戸惑いながらも、その言葉を聞き逃すことができなかった。

「部長……こんな夜に呼び出して、結局何がしたいんですか?」

彼は静かに息をつき、ワインを飲み干した。

「お前が、どう思っているのか知りたかった。」

その言葉が、意外にも私の心に引っかかった。

私はこれまで彼を嫌悪し、避け続けてきた。でも、今夜の彼はいつものように見下すことも、嘲ることもなく、ただ静かに私の言葉を待っている。

私は戸惑った。

私は驚きとともに、それまでの印象と微妙に異なる部長の姿に、さらに混乱する。

「飲めよ。話を聞いてやるからさ」

「いえ、結構です」

かすれた声で拒否する。でも、田島部長は笑いながら私の腕を引く。

「まぁまぁ、せっかくの機会だし、俺と腹を割って話そうぜ」

不快感が全身を駆け巡る……はずだった。けれど、酔いがまわるにつれ、その感覚は次第に薄れていった。

ワインの熱が体の奥に広がり、田島部長の低い声が妙に心地よく響く。

話しているうちに、私は少しずつ肩の力が抜けていくのを感じた。

不思議だった。彼の声が心地よく響き、ワインの酔いが身体を緩ませる。警戒していたはずなのに、もっと話したいと思うようになっていた。

もっと彼に聞いてもらいたい。私の中に渦巻く感情を、すべて吐き出してしまいたい。

それと同時に、もっとお酒に飲まれたいという衝動が、ゆっくりと心の奥から湧き上がってくる。

彼がこうして私の話をしっかり聞いてくれることが、なぜか不思議で、そして心のどこかで嬉しく感じている自分がいた。いつもの冷たい嫌悪感は、どこか遠くへ押しやられたようだった。

 

4. 部長室の夜

 

都会の夜景が窓の外に広がり、部長室の空気はまるで別世界のようだった。ガラス窓に映る光の粒が揺れ、静寂の中にただワインのグラスがかすかな音を立てる。高層ビルの灯りがゆらめき、静かな夜がふたりだけを包み込んでいるように感じた。

グラスにワインが注がれる。深紅の液体がゆっくりと波打ち、微かな芳香が立ち昇る。田島部長は無言のまま、それを私の前に差し出した。

「飲めよ」

私は一瞬ためらったが、すでに何杯か飲んでいたせいか、抵抗する気持ちが薄れていた。ゆっくりとグラスを取り、ワインを口に運ぶ。

「酔ってないか?」

「……大丈夫です」

田島部長は微笑み、ソファーの横を指差した。

「こっちに座れよ」

「……ここでいいです」

「いいから、こっちに来い。落ち着くだろ?」

一度は断ったものの、私はため息をつき、グラスを片手に彼の隣へと腰を下ろした。

大嫌いな部長の横に。

ワインの香りが鼻をくすぐる。彼の隣に座るという行為が、これまでの自分を裏切るようで、胸の奥に小さな抵抗があった。

けれど、それと同時に、奇妙な静けさが心に広がる。まるで今まで感じていた嫌悪が、夜景の向こうへと溶けていくようだった。

「お前は俺のことが嫌いなんだろ?」

彼の声は、これまでのような圧力を持たない。単なる事実の確認のように淡々としていたが、その響きの奥に、どこか違う感情の余韻が残っていた。

グラスの中のワインが揺れる。その揺れがまるで私の心そのもののように思えた。嫌悪感は確かにあった。でも、それは今も変わらないのか……?

田島部長の声は静かだった。これまでの威圧的な態度はどこにもない。

「……はい、正直に言えば」

私は目を逸らしながら答えた。彼はそれを聞いても、怒るでもなく、ただ静かにワインを揺らしていた。

「そうか。でも、お前はずっと耐えてきたな」

彼の言葉が意外だった。今まで一度も私を認めるようなことを言ったことがないのに。

「耐えて……?」

「お前、頑張ってたじゃないか。俺はそれを見てたよ」

私の中にある嫌悪と拒絶の壁に、ひびが入るような感覚がした。

「信じられません。部長がそんなことを言うなんて……」

酔いが回るにつれ、思考の境界が曖昧になっていく。視界がぼんやりと滲み、ワインの甘さと微かな酸味が喉を滑り落ちていく感覚がやけに心地よかった。

ふと、部長の指先が私の手の甲にかすかに触れた。ゆっくりと、迷うように、その熱が私の肌に広がる。指先がわずかに動き、まるでためらいながらも確かめるような仕草。

その瞬間、心臓が跳ねるように鼓動する。皮膚の上をかすめる熱が、ワインの酔いよりも強く私をぼやけさせた。

これまでの彼とは違う。この手には、いつもの冷たさも支配的な力もなかった。代わりに、わずかに指が動き、かすかに握り返すような、確かめるような仕草があった。

いつもなら拒絶反応を示していたはずなのに、今は違った。彼の言葉にどこか心を揺さぶられている自分がいた。

「お前はずっと、俺に反発してきたな」

田島部長の声は低く、静かだった。

「……そうですね」

「でも、お前は逃げなかった。強かったよ」

その言葉が、なぜか胸に響いた。

その言葉が、なぜか胸に響いた。

部屋の空気が静寂に包まれる。都会の光がワインの表面に反射し、揺れる赤い輝きが私の指先に影を落とす。

ふと、彼の視線を感じた。強くもなく、押しつけがましくもない。ただ、私の言葉を待っているような瞳だった。

ワインのグラスの表面が、都会の光を歪ませて揺らいでいる。酔いのせいか、心の輪郭までぼやけていくような感覚に囚われた。

これまで嫌悪しか感じなかった彼が、今はどこか遠い存在のように思える。

彼の手は、思ったよりも温かかった。冬の夜の冷たさの中で、そのぬくもりは異質だった。それなのに、なぜか私の肌に溶け込んでいくような感覚があった。

呼吸がふと浅くなる。意識していなかったはずなのに、心の奥で何かがざわめく。

なぜか、嫌悪感はもうなかった。

「お前は……何を考えている?」

視線が絡み合う。彼の瞳は、私の答えを待っていた。

「……自分でも、よくわからないです」

声が小さく震えた。言葉を紡ぐたびに、自分がどこへ向かっているのかわからなくなる。

低く、深い声が静寂を切り裂いた。その問いが、まるで私の心の奥底を覗き込むように響く。

その問いが、まるで私の奥底に眠る感情を引きずり出そうとしているように感じた。

私はグラスをゆっくりと回しながら、視線をそらした。

「わかりません……」

それは本音だった。

言葉にしてしまえば、何かが崩れてしまう気がした。だけど、私の中にある小さな違和感が、今はもう抵抗の色を薄めていく。

自分の心がどこへ向かっているのか、今はわからない。

ただ、指先に残る温もりと、静寂の中に響く彼の呼吸が、私の理性をゆっくりとほどいていく気がした。頭の中では警戒すべきだと囁く声があるのに、胸の奥では別の何かが微かにうずく。

彼の手の温もりが、静かに私の肌に滲んでいる。指先が触れた場所がまだ熱を持ったまま、そこだけが時間に取り残されたようだった。

部長の声が低く響く。その問いかけに、私はどう答えればいいのか分からなかった。こんな形で向き合うことになるとは。

彼に抱いていた確固たる嫌悪が、まるで砂の城のようにゆっくりと崩れていく。気づけば、その隙間から零れ落ちる感情があった。

でも、私はどうしたいのだろう。

彼の手がそっと離れる。私はその温もりが消えていく感覚に、思わず指をわずかに動かしてしまった。

「俺は……お前のことを大事にしたいと思っている。」

その言葉が、心の奥深くに落ちていく。単なる慰めや、気まぐれの戯れとは違う、静かな誠実さがそこにはあった。

その言葉に、胸が締めつけられる。

「今まで……ずっと?」

「ずっとじゃない。お前を知るほどに、そう思うようになった。」

彼の声には、これまでとは違う柔らかさがあった。私を試すような威圧も、いつもの皮肉な響きもない。ただ、真っ直ぐな言葉だけがそこにあった。

私は何かを答えようとしたが、喉の奥で言葉が引っかかる。気づけば、彼を見つめる自分がいた。

「私……」

声にならない言葉を、彼はただ黙って待っていた。

そして、夜景の光が揺れる中、私はそっと目を閉じた。

その瞬間、彼の指先が再び私の手に触れた。今度は、ためらうように、優しく。

「無理はしなくていい」

低く響くその声に、私の胸の奥が温かくなる。強引に迫るのではなく、私の気持ちを待つような、そんな静かな優しさ。

私はゆっくりと目を開けた。都会の光が彼の横顔を縁取る。

窓の外に広がる夜景は、まるで時間を閉じ込めたように静かだった。光と影が交錯し、ワインの赤が淡く揺れる。彼の眼差しは、私を試すものではなく、ただそのままの私を見ているようだった。これまでの部長の印象とは違う、穏やかで、どこか寂しげな表情。

「私は……」

言葉が喉の奥で詰まる。けれど、彼の視線はただ私を見つめていて、急かすことはなかった。

静寂の中で、心臓の鼓動だけが響いている気がした。

そっと、私は自分から彼の手を握った。その温もりが、私の迷いを少しずつ溶かしていく。

「……もう少しだけ、このままでいさせてください」

私の言葉に、彼は微笑んだ。

それは安堵にも似た、どこか儚げな微笑みだった。夜の静寂の中で、私たちの呼吸だけが小さく響く。部長の手の温もりは、もう拒絶する理由が見つからないほどに、私の心に馴染んでいた。

彼は小さく微笑んで、ただ頷いた。

窓の外では、夜の光が優しく瞬いていた。

5. 燃え上がる部長室の夜

沈黙が優しく包み込む。夜景の輝きが、部屋の中に淡い影を落とし、ワインのグラスに映り込んで静かに揺れていた。

「こんな時間まで、付き合わせてしまったな。」

彼の声は、いつもより穏やかで、低く響く。

「いえ……私も、帰る気になれなくて。」

自分でも驚くほど、素直な言葉がこぼれる。部長の視線が私を捕らえた。そこに、これまでの支配的な力はない。ただ、静かに私を見つめる目。

指先がそっと動く。彼の手が、私の手に重なる。今までのように強引なものではない。拒絶する時間はあったのに、私は動けなかった。

「……君は、どうしたい?」

心が揺れる。これまでの関係が壊れてしまうかもしれない。それでも、今は。

「……このまま、もう少しだけ。」

私の答えに、彼は何も言わず、ただ静かに頷いた。

室内の静けさの中で、ワインの香りが甘く滲む。夜の深さに溶けるように、私たちはただ、そこにいた。

彼の指がそっと私の手を包み込む。触れ合う温度がじわりと広がり、胸の奥で何かが溶けていくようだった。

「……俺は、ずっと君を見ていた。」

不意に囁かれた言葉に、心臓が跳ねる。

「怖がらなくていい。ただ、お前がここにいてくれるなら、それでいい。」

彼の瞳が私をとらえた。強さではなく、静かな想いがそこにあった。

私の中で張り詰めていたものが、ほどけていく。ずっと拒絶していたはずなのに、今は。

そっと、私は彼の手を握り返した。

夜景の光が静かに瞬く中、時間がゆっくりと流れていった。

部長の指がわずかに動き、私の手を優しく包む。そのぬくもりは、夜の冷たい空気の中で、驚くほど心地よかった。

「……お前は、本当に強いな。」

彼の声が、どこか寂しげに響く。

「強くなんて、ありません。」

思わず首を振る。彼に反発していた日々、理不尽な言葉に耐えながらも、絶対に折れないように自分を支えていた。でも、今。

「俺には、そう見えた。」

部長の視線が絡む。いつものような厳しさはない。ただ、深く私を見つめている。

彼の手のひらが、そっと私の頬に触れる。

驚くほど優しい手つきだった。

心臓が跳ねる。

「……帰るべきですか?」

自分でも、なぜそんな言葉を口にしたのか分からない。

「それは……お前が決めることだ。」

窓の向こうで、夜景が静かに揺れる。

迷いながらも、私は目を閉じた。

夜の静寂の中、鼓動の音だけが響いていた。

帰らなきゃ——その言葉が頭の中にあるのに、体は動かない。

彼の手の温もりが頬に残る。そこにあるのは、これまでの彼とは違う、まるで誰かを大切に扱うような指先の柔らかさだった。

「……行かなくていいのか?」

彼の声が低く、けれどどこか苦しげに揺れる。

「分かりません……」

本当にそうだった。今までの私なら、すぐに振り払って席を立っていただろう。でも、今は。

心の奥底で揺れる何かが、私をここに留めている。

窓の外の夜景が、グラスの中のワインに反射して揺れる。私たちの関係と同じように、不安定で、でもどこか美しかった。

彼の手がわずかに動いた。私の手に重ねられた指が、かすかに力を込める。その微かな動きが、私の理性を溶かしていく。

私は、帰らなきゃいけないはずなのに。

なのに、どうして——。

ただ、私は目を閉じた。

彼の指がそっと頬をなぞる。震えるように慎重な動き。それが私の中に残っていた最後の迷いをゆっくりとほどいていく。

「お前は……俺をどう思ってる?」

彼の声は低く、少しかすれていた。躊躇いがちに私を探るようなその響きに、今までの彼とは違う何かを感じた。

彼の声がかすかに掠れる。いつもの冷たさはなく、ただ私の答えを待っている。

「わかりません……でも、もう、嫌いとは言えません。」

言葉を発した瞬間、心が跳ねる。まるで、自分の本心が形を持ってしまったかのような感覚だった。

自分の言葉に驚いた。こんなにも素直に、本心を口にするなんて。

沈黙が落ちる。窓の外の夜景は、まるで水面に映る光のように揺らめき、私たちを別の世界に連れ去ろうとしているかのようだった。

次の瞬間、彼の腕が私の背に回る。ゆっくりと、確かめるように。抗おうとする思考とは裏腹に、その温もりが私の中の迷いをゆっくりと溶かしていく。

鼓動が速くなる。彼の息遣いが近づくのを感じる。

「お前がいてくれるなら、それでいい。」

静かな囁きが耳元に響く。

このまま時間が止まればいいのに。

けれど、時間は残酷に流れ続ける。

6. 夜の向こうに

彼の指が触れた頬が熱を持つ。心臓の鼓動が静寂の中に響き、私の思考は絡まり合う。

「……俺は、お前を困らせたいわけじゃない。」

彼の声は低く、どこか遠慮がちだった。それが、かえって私の胸の奥を締めつける。

「でも……」

私は言葉を探す。何を伝えたいのか、何を伝えられるのか、自分でも分からない。

「でも?」

彼が促すように問いかける。夜景の光が彼の瞳に映り込み、淡く揺れている。

「……今は、帰りたくない。」

自分の言葉に驚く。でも、それは間違いなく本音だった。

彼の表情がかすかに緩む。いつもの冷たさや支配的な態度ではない、優しさと迷いが同居した顔。

「それなら……もう少しだけ、このままで。」

彼の手がゆっくりと私の髪に触れた。その動きは慎重で、まるで大切なものを扱うようだった。

私は目を閉じる。呼吸がゆっくりと重なり、心の距離が静かに縮まっていく。

この夜の向こうには、何が待っているのだろう。

それは、もう分かっていたのかもしれない。

7. 交わる鼓動

彼の手がゆっくりと私の頬をなぞる。その指先が震えるのを感じる。ためらいと、抑えきれない熱が、彼の仕草の端々に滲んでいた。

「……もう、迷っていないのか?」

彼の声はかすかに掠れている。夜の静寂の中で、その低い響きだけが私の耳に残る。

「分からない。でも……」

私はそっと目を開ける。彼の瞳が近い。迷いの色が混じっていたはずなのに、今は静かに、まるで何かを確かめるように私を見つめている。

心臓の鼓動が強くなる。拒む理由が、もう見つからなかった。

彼の腕がそっと私を引き寄せる。呼吸が重なり、吐息が熱を帯びる。

指先がそっと私の背をなぞる。その軌跡に意識を奪われる。

彼の瞳が夜の灯に揺れた。

「……怖くないか?」

私の唇が震える。

「怖い。でも、それ以上に……」

言葉が続かない。彼は何も言わず、ただ静かに私を見つめている。

私はそっと、彼の胸に手を添えた。鼓動が伝わる。私と同じくらい、彼もまた揺れているのだと思った。

夜の帳が、私たちをそっと包み込んでいった。

8. 崩れゆく理性

彼の呼吸が近づく。熱を帯びた吐息が頬をかすめ、全身の感覚が研ぎ澄まされる。

「……お前がこうして俺のそばにいるなんて、思ってもいなかった。」

彼の声が低く、かすかに震えている。強さだけで覆い隠されていたはずの彼の中に、今は戸惑いと抑えきれない感情がにじんでいた。

「私も……こんなふうになるなんて、思っていませんでした。」

言葉を発するたび、心が跳ねる。指先が彼のシャツの生地をわずかに握る。ほんの些細な動きなのに、それだけで全身の熱が高まるのが分かる。

「俺に……抗わなくていいのか?」

彼の瞳が深く揺れる。

「抗えない……もう。」

心の奥に残っていた最後の理性が、微かに音を立てて崩れた。

彼の手が私の背をゆっくりと包み込む。そのぬくもりが、夜の冷たい空気を溶かしていく。重なる視線の先に、もう言葉は必要なかった。

ゆっくりと、彼の腕が私を引き寄せる。

迷いも、恐れも、すべてが夜の闇に溶けていく。

抗おうとしていたはずの感情が、いまはただ、溺れていくようだった。

「……あぁ……っ……! だめ……!」

全身が震える。まるで嵐のように心がかき乱され、呼吸すら浅くなる。理性の残響が遠のき、ただ熱だけが支配する。

全身が震える。まるで嵐のように心がかき乱され、呼吸すら浅くなる。

不意に漏れた自分の声に、胸が震える。

「……お前が……こんなにも……っ……! こんな……耐えられない……っ……!」

彼の声がかすれ、喉の奥から漏れる。彼の肌が触れるたびに、私の中で何かが崩れていく。

彼の声がかすれ、喉の奥から漏れる。私の肌をなぞる指先に、理性の残響がかすかに宿る。

彼の声もまた、かすかに揺れていた。指先が肌の上をなぞり、呼吸が互いに重なるたび、言葉にならない熱が絡み合っていく。

「……もう、離れられない……」

彼の囁きが耳元をかすめる。私の全身が、それに応えるように震えた。

「……お願い……! もう……だめ……っ……!」

声が震える。何を求めているのか、自分でも分からない。ただ、全てを手放したかった。

声が震える。何を求めているのか、自分でも分からない。ただ、この熱の中に溺れたかった。

それが何を求める言葉だったのか、自分でも分からない。ただ、今この瞬間に囚われていたかった。

彼の腕が強くなる。夜景の光が揺れ、時間が溶けていく。

「……っ、もう……! ダメ……っ……あぁ……!」

彼の名を呼ぼうとして、言葉が途切れる。全てが熱に溶かされ、抗う余地などどこにもない。

抗おうとする理性の最後のかけらが、夜の深い闇に溶けていく。

彼の名前を呼ぼうとして、言葉が途切れた。

世界が、熱に飲み込まれていく。

時間の感覚が曖昧になる。

彼の手が私の背をゆっくりと伝い、その動きがまるで私自身を解きほぐしていくようだった。抑えてきた理性が、波のように押し寄せる感情の中に溶けていく。

「……こんなこと、してはいけないのに……」

自分に言い聞かせるような言葉だった。でも、その声は震えていて、説得力など微塵もなかった。

彼の額がそっと私の額に触れる。静かに、互いの息遣いが混じり合う。

「それなら……止めるか?」

彼の低い囁き。けれど、その手は私を離そうとはしなかった。

私は答えない。ただ、目を閉じる。

答えはもう、出ている。

彼の指が絡む。温もりが私の肌を滑るたび、張り詰めていた理性が一つずつほどけていくのが分かる。

抗っていたはずの自分が、今はただ、彼に引き寄せられる。

夜景の光が揺れる。世界が、遠くなる。

「……もう……戻れない……」

誰の言葉だったのか分からない。

ただ、その瞬間だけは、何もかもが正しかった。

9. 壊れていく私

どうしてこんなことになったのか。

私は彼が嫌いだった。憎んでいた。部屋の片隅で何度も、彼の言葉を噛み砕き、怒りに震えた夜があった。

彼の視線が怖かった。彼の言葉が嫌だった。支配されることが耐えられなかった。

なのに、どうして。

彼の指先が肌をなぞるたび、頭の中が空っぽになっていく。嫌悪を叫ぶはずの声が、どこか遠くへと消えていく。

「こんなふうになるなんて……思ってなかった。」

震える声が、闇の中に滲む。

「俺もだよ。」

彼の声が低く、かすれ、まるで何かを壊すような響きを帯びていた。

壊れていくのは、私の方なのに。

私はもう、彼の視線を避けられなかった。あんなに嫌だった瞳なのに、今は、逃れられない。

どうして?

私の中の何が、こんなにも簡単に崩れてしまったの?

彼が指先で私の頬をなぞる。もう私は、それを振り払うことすらできない。

「俺を……まだ嫌いか?」

彼の声は、支配ではなかった。ただ、静かに、確かめるような問いだった。

私は答えられない。

「……分からない。」

本当は分かっていた。

あんなに嫌っていたのに、今、どうして彼の温もりに安堵しているのか。

ずっと私は拒絶してきたはずだった。彼の視線が絡むたびに背筋が凍るようで、彼の言葉が耳に触れるたびに心の奥底で鋭く拒絶していたはずだった。

なのに、いま彼の手が私を包み込むたび、心の奥深くに眠っていた何かが疼き出す。

怖い。

このまま流されてしまったら、私は何を失うのだろう。

自分を守るために張ってきた仮面が、いま静かに剥がれていく。

私は、そんな自分を許してしまうのか。

「……どうして、こんなに……」

声がかすれる。震えているのは私の方だった。

「お前は、ずっと俺のことを嫌ってたな。」

彼の声は静かだった。責めるわけでもなく、ただ事実を確認するように。

「そう……でした。」

クライマックスの感嘆詞をもっと情熱的にそう答えながら、言葉の響きに違和感を覚えた。「でした」──過去形。

いつから、こんなふうに変わってしまったのか。

彼の指がそっと頬をなぞる。その動きが、私の心の奥底に触れたような気がした。

「あんなに、お前に嫌われるようなことをしてきたのに、どうして……今は、こうしているんだろうな。」

彼の囁きが胸の奥に落ちる。

私は答えられない。

理屈ではない感情が、私を支配していた。

「分からない……でも、もう……」

もう、彼を嫌いだとは言えない。

その事実が、怖かった。

私は嘘をついた。

 

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