禁断の白衣──夜勤の静寂に交わる医師と青年の秘密

禁断のケア──看護師とサッカー部エースの秘密の関係

私は病院の整形外科医、北川沙織。38歳。日々、患者のケアに追われる忙しい毎日を送っていた。厳しくも充実した仕事の中で、自分の感情を押し殺すことには慣れていた。

そんなある日、彼が現れた。

「すみません、北川先生、診察室に呼ばれました」

病院のスタッフに案内され、私は診察室へ向かった。そこには、青山大のサッカー部エース、橘蓮がいた。試合中に負った膝の靭帯損傷の診察で、術後の経過観察とリハビリ指導が必要だった。

「よろしくお願いします」

低く響く声。引き締まった体躯、汗を含んだ髪の匂い。彼の瞳が真っ直ぐ私を捉えた瞬間、なぜか胸の奥がざわめいた。

触れ合うたびに深まる関係

彼の治療が始まってから、私は定期的に彼の診察を行い、リハビリの進捗を見守ることになった。診察室で経過を確認し、処方を見直すたびに、彼の視線を強く感じるようになっていった。

「先生、手が優しいですね」

「職業柄よ」

そう言いながらも、心臓の鼓動が速くなるのを自覚していた。彼の肌に触れるたび、彼の温もりがじわじわと私の指先に伝わってくる。

ある日、彼の手がふと私の手首を掴んだ。

「北川先生、俺……本当は、ずっとあなたのこと見てました」

「橘くん……」

彼の瞳が、私の奥深くを覗き込むように揺れる。私は戸惑いながらも、逃げることができなかった。

夜勤の寝室──二人だけの時間

彼が診察のたびに私の前に座る時間が増えるほど、私たちの距離は確実に縮まっていった。手が触れる時間が長くなる。指が絡み合う。偶然を装って、互いの距離を近づけてしまう。

「先生……」

「なに……？」

「先生が俺を見てくれるたびに、嬉しくて……苦しくなる」

「……橘くん、それは……」

「先生は、俺のことどう思ってますか？」

「それは……そんなこと……」

「俺はずっと、先生だけを見てた。先生が笑うと嬉しくて、俺が痛がると真剣に心配してくれて、そのたびに好きになって……」

低く掠れた声が静寂の中に溶け込む。私の指先が彼の腕を辿るたび、体温がじんわりと伝わってくる。その温もりが心の奥底に触れ、理性と本能の境界線が曖昧になっていく。

夜勤の見回りを終えた私は、彼のベッドサイドに立った。足の痛みがあるかを確認しながら、冷湿布を貼るためにシーツをそっとめくる。彼の呼吸が、いつもより荒い気がした。シーツ越しに彼の足を支えた瞬間、彼の身体がわずかに震えた。私の手の動きに合わせて彼の呼吸が浅くなり、静かな病室にわずかに熱を孕んだ空気が漂う。

「……もう、止められません」

私は無意識に唇を噛んだ。心の奥底で抑えていた感情が波紋のように広がり、理性の壁を静かに崩していく。心の奥底で何かが疼く。これ以上近づいてはいけないと分かっているのに、彼の視線が私の内側を暴くように射抜いてくる。その瞳に囚われ、心が静かに崩れ落ちていくのを感じた。胸の奥でざわめくものを抑え込もうとするが、彼の視線が私の内側を暴くように射抜いてくる。その瞳に囚われ、心が静かに崩れ落ちていくのを感じた。

「ダメよ……！ こんなの……！」

「嘘だ……！ 先生の手が……こんなに……！」

「……違うわ」

「違わない……！ 俺、もう先生のこと……止められないんです……！」

そう言いながらも、彼を拒めない自分がいた。

夜勤の静けさが病院全体を包んでいた。大部屋にいた他の患者たちは一時的に帰宅し、その夜は橘くんだけが残っていた。

「先生、今夜は静かですね」

「……そうね。でも、だからといって油断してはだめよ」

「先生も緊張してるんですか？」

「そ、そんなこと……」

「顔が赤い……先生、意識してますね？」

ベッドの上で上半身を起こしながら、彼が微笑む。その視線が私の奥深くを貫くようで、思わず目をそらした。

「そうね……」

部屋の灯りは落とされ、ほのかに漏れる廊下の明かりだけが私たちを照らしていた。近づいてはいけないと分かっているのに、私は彼のもとへ歩み寄った。

「ここに座ってください」

彼がそっとベッドの端を叩く。心臓が高鳴るのを抑えながら、私は静かに腰を下ろした。

「先生、今日は……触れないんですか？」

「……橘くん」

彼の言葉に戸惑いながらも、私は無意識に彼の膝を支える。術後の回復状態を確認するためだったが、その瞬間、彼の指が私の手に触れ、絡めるように優しく握った。熱を持った肌が私の手に馴染むように沿い、心臓が痛いほどに高鳴る。その瞬間、彼の手が私の手を包み込み、指を絡めるように優しく握った。

「先生……」

息をのむほどに近い距離。彼の声が肌をかすめるように響くたび、胸の奥に火が灯る。

「先生……」

彼の声が低く掠れ、熱を帯びていた。彼の視線が私の唇をなぞり、その瞬間、時間がゆっくりと引き延ばされたような感覚に包まれる。病室という場所が、私たちの距離をより濃密にする。

「……こんなこと、もう……」

拒まなければいけないはずだった。でも、彼の指が私の背を優しく撫でた瞬間、全身が痺れるような感覚に包まれた。彼の体温が私の皮膚を通して心にまで染み渡る。

「……先生、逃げないで」

「でも……こんなこと……っ」

「先生、俺を拒んでるなら、今すぐ手を離してください」

「それは……できない……」

「じゃあ、もう答えは決まってる」

彼の囁きが鼓膜をくすぐる。逃げる？いいえ、私はもうとっくに彼に囚われていた。

彼の手が私の背中に回り、そっと引き寄せられる。肌と肌の距離が縮まり、彼の鼓動が私に伝わる。熱を孕んだ吐息が頬を撫で、静寂の中で私たちの世界だけがゆっくりと形を変えていく。彼の呼吸が私の耳元で揺れ、熱を帯びた吐息が頬を撫でた。彼の指がゆっくりと私の肩を滑り落ち、白衣の襟元に触れる。その指先は迷うように動きながらも、確かに私を求めている。わずかに力を込めると、ボタンがひとつ外れ、冷たい空気が肌に触れる。その瞬間、私は思わず息を呑んだ。彼の視線がゆっくりと私をなぞるように動き、身体の奥で何かが静かに目覚めるのを感じた。

「……先生、綺麗です」

彼の囁きが耳に絡みつき、抗うつもりだった理性が霞んでいく。

「先生……俺、本当はずっと……」

言葉の続きは聞こえなかった。ただ、彼の腕の中に囚われるように身を委ねる瞬間、心臓が跳ねた。静寂の中、彼の息遣いが近づくたびに、私の中で熱が生まれ、それが波のように全身へと広がっていく。

「……こんなの、ダメよ……でも……」

言葉が喉の奥で絡まり、震えながら漏れ出す。抗おうとする意志はどこか遠くへ消え、彼の熱に包まれるたび、身体が正直に反応してしまう。

でも、彼の腕の中に囚われたまま、私は動けなくなっていた。拒むべきなのに、私の指は彼の胸にそっと触れてしまう。彼の体温が私の皮膚に溶け込んでいく。

言葉とは裏腹に、私は彼の腕の中で動けなくなっていた。彼の指先が首筋をなぞり、ゆっくりと背中へと降りていくたびに、身体の奥が熱を帯びていくのを感じる。

彼の吐息が私の唇のすぐそばで震えた。抗うはずの理性が揺らぎ、身体が彼の熱へと引き寄せられていく。

声は震えていた。でも、その震えが、彼の唇の近くで止まった私自身の意志を表していた。

「……先生」

彼の指が私の頬をかすめ、指先が震えているのを感じる。私もまた、抗えない感情に支配されそうになっていた。

「あぁ……！ ダメ……！ でも……っ！」

彼の声が、私の鼓膜を優しく震わせる。その瞬間、唇に触れるものがあった。

「こんなこと……！ いけないのに……っ！ でも……っ！」

「いけないことじゃない。俺にとっては、ずっと夢見てたことなんです」

「……そんな風に言われたら、もう……」

心とは裏腹に、彼の熱が私を飲み込んでいく。柔らかく、熱を帯びた感触。浅く、迷うように触れたあと、彼の手がそっと私の顎を支え、もう一度、今度は深く重なった。

唇の隙間から彼の息遣いが混ざり合い、静寂の病室が二人だけの世界に変わっていく。時間の流れがゆっくりと引き伸ばされ、すべての音が遠のいていく。ただ、彼の鼓動と私の鼓動が重なり、まるでひとつの旋律を奏でるように響く。

彼の腕が私の腰を包み込むように引き寄せる。その動きに、私は膝を揺らしながら彼の足元へと沈み込んでいった。互いの体温が交錯する中で、彼の呼吸がさらに熱を帯び、私の指が彼の肩にしがみつくように伸びる。彼の腕の中で、私はそっと目を閉じた。彼の手が私の腰を支え、導かれるままに身を預ける。指先が肌をなぞるたびに、心の奥に眠っていた熱が溶け出し、波のように押し寄せる。

彼の息が、額にかかる髪を揺らす。肌と肌が触れ合うたび、静寂の中で響く微かな吐息が、甘美な余韻を引き連れて私を包む。意識が遠のくほどに高まり、熱と感情が渦巻く中で、彼の名前を呼ぶ声が震えた。そして、すべてが溶け合う瞬間——静寂の中に、確かな絆が生まれていた。

「もう……！ 戻れない……っ！ どうしよう……っ！」

「戻る必要なんてない。俺は先生とここにいたい」

「バカね……っ！ そんなこと……言わないで……！」

「本気です。先生が俺を待っててくれるなら……」

「待つわ……！ 待つ……っ！ だから……お願い……っ！」

彼の名を震える声で呼びながら、私は全てを彼に委ねた。

彼の名前を、私は小さく震える声で呼んでいた。

別れと約束

季節が巡り、桜が散るころ、彼の治療も終わりを迎えようとしていた。

「先生、今日で最後の診察になります。もう、リハビリも終わりで……」

その言葉が胸を締め付けた。彼が病院を訪れるたびに募っていった想いが、今ここで途切れてしまうのか。

「……おめでとう、もうすぐ復帰ね」

言葉を絞り出したものの、喉の奥が痛かった。

「先生、俺……これで終わりにしたくない」

彼の瞳は揺らぐことなく、真っ直ぐに私を見ていた。

「橘くん……」

「待っててもいいですか？いつか、また先生に会える日を」

私の指が、彼の手をそっと握り返す。

「……待ってるわ」

そう言った瞬間、私の心はすべて彼に預けられてしまった。

こうして、私たちの関係は一度幕を閉じた。だが、余韻の中で彼の温もりを思い出すたび、私は静かに目を閉じる。忘れることのできない感情が、まだ心の中に残っていた。でも、彼が去った後の診察室に残る彼の残り香を感じるたび、私は自分に問いかける。

これは終わりなのか、それとも、まだ続いていくのか——。