息子の親友と交わる禁断の旋律—淡雪に咲く密愛

1. 出会いの記憶

夕暮れの空が淡い茜色に染まり、冷たい空気が頬を撫でる。私はキッチンで静かにコーヒーを淹れていた。窓の外には雪が降り始め、柔らかな静寂が家の中に広がっていく。

そのとき、玄関の扉が開く音がした。

「ただいま……」

その声を聞いた瞬間、胸がわずかに高鳴る。

唯人くん——息子の幼馴染であり、私がずっと見守ってきた少年。しかし、彼はもう少年ではなく、大人の男性へと成長していた。

私はそっと微笑み、彼を迎えた。

「唯人くん、おかえりなさい。寒かったでしょう？」

彼は頷きながら玄関でコートを脱ぐ。その仕草すら、どこか大人びて見えた。

その直後、リビングの奥から慌ただしい声が響いた。

「悪い、唯人！ バイト、忘れてた！」

和成がリュックを掴み、慌てて玄関を飛び出していく。扉が閉まり、静けさが戻る。

——二人きり。

私はそっと視線を彼に戻した。

「……唯人くん、少しお茶でも飲んでいく？」

彼は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに微笑み、頷いた。

2. 旋律の記憶

リビングに入ると、彼の視線がふとピアノへと向かった。

「菜摘さん、ピアノ……弾くんですか？」

私は懐かしさに微笑みながら頷いた。けれど、その奥底では小さな期待と不安が交錯していた。唯人くんの視線がどこに向いているのか、無意識に意識してしまう自分がいることに気づく。

「昔はね。最近はあまり弾いていないけれど。」

彼がピアノの前に立ち、そっと指で鍵盤をなぞる。その仕草があまりに自然で、まるで時間が巻き戻ったようだった。

「弾いてみてくれませんか？」

彼の言葉に、私は一瞬ためらった。しかし、懐かしい旋律が心の奥で鳴り始め、そっと鍵盤に指を落とした。

「この曲、知ってる？」

ふと、私はさりげなくカーディガンを直しながら、わずかに襟元を崩した。彼の視線がふと私の仕草に止まるのを感じる。

音が空気を震わせ、部屋の中に広がる。

「……どこかで聞いたことがあるような……」

「私が高校生の頃、一番好きだった曲なの。弾くと、あの頃のことを思い出すわ。」

旋律のひとつひとつが、心の奥深くに響く。彼の目が、一瞬だけ私の胸元に向かい、すぐに逸らされる。その一瞬の躊躇いに、言葉にできない快感が背筋を駆け抜ける。私は何を期待しているのだろうか。唯人くんはじっと私を見つめていた。

背中に感じる彼の視線が、なぜかいつもより熱を帯びているように思えた。

3. 静寂の中の揺らぎ

指先から生まれる音が、胸の奥を揺らす。どこか切なく、どこか温かい旋律。

気づけば、彼の視線が私を追っていた。その視線は、ただの幼馴染の母を見るものではなく、もっと深い感情を秘めているように思えた。

「菜摘さん……」

振り向いた瞬間、彼の瞳の奥に宿る熱を感じた。

「唯人くん……？」

言葉が続かない。

静寂の中、彼の手がそっと私の頬に触れた。指先が熱を帯び、心臓が大きく跳ねる。

「ずっと……あなたのことを、特別に思っていました。」

彼の声が震えていた。けれど、それは迷いのない、本物の気持ち。

私は息をのんだ。胸の奥で揺れていた感情が、一気に溢れ出しそうになる。

「私も……気づかないふりをしていただけかもしれない。でも……こんなふうに言われたら……どうしたらいいの？」

自分の声が、旋律の余韻のように微かに震えていた。

4. 交わる旋律

彼がそっと近づいてくる。その瞳には、かすかな迷いと、理性を揺さぶるような熱が宿っていた。私の心は静かに鼓動を早め、無意識のうちに胸元を軽く引き寄せる。

窓から射し込む淡い月光が、ピアノの表面に優しく反射し、私たちを静かに包み込んだ。

「菜摘さん……本当に綺麗です。あなたの指先も、背中のラインも……すべてが美しい。それに……あなたの姿勢の良さや、しなやかな身体の動き、どれも完璧で……まるで音楽そのものみたいです。」

指先が触れると、肌が驚くほど熱を帯びる。

静寂の中で、二人の呼吸がゆっくりと重なっていく。

「唯人くん……」

旋律が最高潮に達し、ピアノの音と共に私たちの影はゆっくりと重なっていく。彼の指先が私の肩に触れた瞬間、意識がゆらぎ、胸元をよぎる彼の視線が熱を帯びるのを感じた。

「菜摘さん……こんな気持ち、初めてなの……」

声が震える。

「唯人くん……」

彼の腕が私の背中にそっと回る。距離がゼロになる瞬間、旋律は最も高く響き、やがてゆっくりと静寂に溶け込んでいった。

「唯人くん……あっ……こんな……止まらない……あぁ……唯人くん……！」

夜の静寂に私の声が溶け、星々の瞬きと共鳴するように響く。その甘く震える声は、まるで最後の旋律が消えゆく余韻のように長く残り、私の心の奥深くへと刻み込まれた。

「唯人くん……もっと……あぁ……こんなの……こんな気持ち……！」

鍵盤の上に残された指が微かに動く。その余韻は長く、名残惜しげに鍵盤の上で震え、夜の闇に消えていく。

窓の外では、春を予感させる淡い雪が、静かに降り積もっていた——。