こりこりと 乳首いぢりで 堕ちた妻 渚みつき
【第1部】無料マッサージの文字から始まった──京都の主婦が踏み出した一歩
「無料でマッサージします」
その一行を見たとき、
私は思わずスマホを持つ指を止めた。
京都郊外に住む39歳の主婦、彩。
結婚して15年、子どもはいない。
夫は仕事に追われ、家にいてもどこか上の空で、
触れ合いは「もう少し落ち着いたらな」と未来にだけ預けられたままだった。
昼間の主婦仲間との会話は、
子どもや義両親の話で盛り上がる。
笑ってはいるけれど、
話題の輪からふと外れる瞬間、
自分だけ別の季節に取り残されているような寂しさがあった。
そんな、とくに何もない平日の午後。
いつものようにコーヒーを片手にブログサイトを眺めていたとき、
その一行の文字が、まるで指先で頬をなぞられたみたいに、
私の中の「触れられたい場所」に直撃した。
無料でマッサージします。
心身ともにお疲れの女性の力になれればうれしいです。
怪しい。
わかっている。
けれど、完全に嘘とも言い切れないその文面に、
私はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。
「…メールくらいなら」
そう自分に言い訳をして、送信ボタンを押した。
心臓が、少し痛いくらいに強く打っていた。
返事はすぐに返ってきた。
柔らかく、丁寧な言葉遣い。
年齢は50代前半、
趣味でオイルマッサージをしてきたという“おじ様”。
画面越しのやり取りなのに、
どこか落ち着いた声色まで想像できてしまう文体だった。
「ご自宅でも、近くのホテルでも大丈夫ですよ。
彩さんが安心できる場所で」
その一文を見たとき、
私は少しだけ目を閉じた。
自宅なら、後ろめたさは減る。
でも、生活の匂いが染みついた部屋に、
見知らぬ男性を招き入れる自分を思い浮かべた瞬間、
妙な違和感が胸の奥でひっかかった。
「……ホテルでお願いできますか?」
打ち込んだその文字を見つめる。
送信ボタンを押す指先が、わずかに震えた。
その瞬間、
私は「いつもの日常」から少しだけ脱線した。
二度と完全には元に戻れない予感が、
静かに背中を撫でていた。
【第2部】初対面なのに“前から知っていた人”みたい──車内とホテルでほどけていく心と身体
待ち合わせ場所に現れたおじ様は、
想像していた「いかにも」な男性とは違っていた。
落ち着いた紺色のシャツ、
きちんと磨かれた靴。
声は思ったよりも低く、
しかしどこか柔らかい。
「彩さん、ですよね。
メッセージ通り、写真そのままの雰囲気で安心しました」
冗談めかしたその一言に、
張りつめていた肩の力が少し抜けた。
車に乗り込むと、
京都の街並みが窓の外をゆっくりと流れていく。
信号待ちのたびに、
静かなBGMと、シート越しに伝わる車の振動が
身体の奥にまで染み込んでくる。
「普段から、肩こりひどいんですか?」
「はい…家にいると、ずっと同じ姿勢で…。
それに、つい一人でいろいろ考えちゃうので」
「真面目な人ほど、体も心も固まりやすいんですよね」
「真面目…ですかね?」
「文章から伝わってきましたよ。
きちんとしてて、でもちょっと無理してる感じが」
その言葉に、
どきりとした。
文章だけのやり取りなのに、
私の“中身”を言い当てられたようで、
むずがゆいような、くすぐられたような感覚が胸に広がる。
ホテルへ向かう道のりは、
不思議なほど自然だった。
趣味の話、仕事の話、
私が結婚するまで勤めていた会社のこと。
どの話題にも、
「否定」ではなく「理解」から入ってくれる感覚があった。
笑っているのに、
お腹の奥のほうだけじんわり熱い。
車内の暖房のせいだと自分に言い聞かせながら、
私は何度も窓の外に視線を逃がした。
ホテルの一室に入ると、
現実感が一瞬遠のいた。
整えられたシーツの上に、
透明な防水シートが広がっている。
浴室からは湯気が立ち、
アロマオイルらしき、甘さを抑えた香りが
部屋全体を薄く包んでいた。
「安心してくださいね。
マッサージ中、イヤなことははっきり“嫌だ”って言ってください。
それが一番大事ですから」
そう言って、
おじ様はタオルとバスローブをベッドに置いた。
「シャワーを軽く浴びてきてもらえますか?
そのほうが、体も心も、切り替えやすいですから」
浴室の鏡に映る自分の姿を、
私はまじまじと見つめる。
濡れた髪を後ろでまとめ、
バスローブの紐を結ぶ指先。
いつもは家事の途中でくるくる動く手が、
今日は自分の身体の輪郭を、
そっとなぞるためだけに存在している気がした。
「うつ伏せで、楽に横になってください」
ベッドに腹ばいになると、
バスローブの背中がふわりとめくられ、
肌の上にひやりとしたオイルが垂れた。
次の瞬間、
大きな手のひらが、
ゆっくりと腰のあたりを包み込んだ。
ぐっと押し込む強さと、
指先だけでなぞるような弱さが、
絶妙なリズムで行き来する。
「…力、強すぎませんか?」
「だいじょうぶ…です」
かすれた声しか出てこない。
痛みはない。
むしろ、背中にこびりついていた“何か”が
少しずつ剥がされていくような感覚があった。
肩甲骨のあたりに指が入るたび、
息がゆっくり深くなっていく。
首筋に沿って親指がすべり落ちると、
視界の端で照明が少し霞んだ。
「力抜いてもらって大丈夫ですよ。
全部、ここに預けるつもりで」
耳元に落ちたその声が、
背中のどこよりも敏感に反応した場所だった。
触れられているのは、たしかに背中や腰のはずなのに、
なぜか、胸の奥まで温かい波が押し寄せてくる。
ベッドの上で、
どこにも掴まらずにその波に揺られているような心もとなさと、
それを望んでしまう自分の危うさ。
「彩さん、呼吸、すごくきれいですよ」
「きれい…?」
「ちゃんと感じてる人の呼吸です。
我慢しなくていいですよ。
気持ちいいなら、気持ちいいままでいてください」
その言葉に、
胸の奥で何かが外れる音がした。
【第3部】“またお願いします”と言ってしまった夜──何度も思い出してしまう手の記憶
どれくらい時間が経ったのか、
壁の時計を見ても、感覚が追いつかなかった。
うつ伏せから仰向けになり、
足の先から腕、首筋にいたるまで
オイルのぬくもりと指の記憶が絡みついている。
「ここまでで、一度起き上がりましょうか」
おじ様の声に促されて、
上体を起こそうとする。
けれど、身体の芯がふやけたように力が入らない。
「…なんだか、ふわふわします」
「うん、それで正解です」
バスローブの前を軽くかき合わせるとき、
自分の手の震えに気づく。
寒さではない。
さっきまでベッドに押しつけていた感情が、
一気に行き場を失って宙に浮いたような感覚だった。
「彩さん」
名前を呼ばれる。
顔を上げると、
おじ様の視線は、
決して乱暴に踏み込んではこないのに、
どこか核心を捉えて離さない柔らかさを帯びていた。
「まだ、心に残ってる疲れがありそうですね」
「心に…?」
「体の疲れだけなら、
さっきのでだいぶ流せてると思います。
でも“自分のことを後回しにしてきた疲れ”は、
一度だけじゃ抜けないんです」
図星だった。
家族、周りの目、
「いい奥さんでいなきゃ」という無言の圧力。
それらを言葉にしたことはなかったけれど、
誰かに見抜かれてしまうのが、
こんなにも心地よくて、こんなにも怖いとは思わなかった。
「…私、またお願いしてもいいですか?」
気づけば、
そんな言葉が口からこぼれていた。
「もちろん。
彩さんが“また来たい”って思ったなら、
それが一番うれしいです」
帰りの車の中、
窓の外には同じ京都の街が流れているはずなのに、
さっきとは違う景色に見えた。
赤信号で止まるたび、
シートベルト越しに感じる自分の鼓動がやけにうるさい。
静かな車内に、さっきまでの自分の息遣いが
まだこだましているような気がして、
何度も深呼吸をした。
「ご自宅でもマッサージできますから、
次はよかったら、そちらも考えてみてください」
「家…ですか」
頭の中に、
見慣れたリビングが浮かぶ。
ソファ、テーブル、キッチン。
そこにおじ様の姿を重ねた瞬間、
「非日常」だと思っていたはずの今日の出来事が、
急に自分の生活の延長線上に引き寄せられてきた。
ドアの前で別れ際、
おじ様はふっと微笑んだ。
「今日のこと、
都合よく“マッサージ”だけだと思っていてくれて大丈夫ですよ」
「都合よく…?」
「ええ。
人が癒やされるときって、
いつも少しだけ、理由に嘘が混じるんです」
その言葉の意味を、
私は家に戻ってから何度も反芻した。
シャワーを浴び、
ベッドに横になって目を閉じる。
背中や腰に残るぬくもりが、
ゆっくりと一日の出来事をなぞりなおす。
触れられた場所だけじゃない。
触れられる前にほどけていった心の感覚。
名前を呼ばれたときの、
胸の奥の静かな痛み。
「また…お願いしたいな」
暗い天井を見つめながら呟いたその言葉は、
誰にも聞かれていないのに、
妙に生々しく部屋に響いた。
スマホの画面を開く。
メッセージアプリを起動して、
おじ様とのトーク画面を呼び出す。
「今日はありがとうございました。
もしよろしければ、次は自宅でも…」
そこまで打ち込んで、指を止める。
数秒、呼吸を整えてから送信ボタンを押した。
送信済みの文字列を見つめているうちに、
胸の真ん中からじんわりと熱が広がっていく。
“次”を約束してしまった自分を、
誰よりもよくわかっているのは、ほかならぬ私自身だ。
秘密のマッサージ体験が教えてくれたこと──「触れられたい」の正体は、私が私を許すこと
あの日、“無料マッサージ”という言葉に惹かれた自分を、
今なら少しだけ、優しく理解できる。
たしかに、
そこには好奇心も、寂しさも、
自分では持て余していた欲望も混ざっていた。
でも一番の核は、
「誰かにちゃんと触れてほしい」ではなく、
「誰かにちゃんと見てほしい」という願いだったのだと思う。
年齢、肩書き、
「主婦」「妻」というラベルの奥で、
まだ一人の“女”として息をしている自分。
その存在を、
触れる手と、見つめるまなざしと、
呼吸のリズムごと受けとめられたとき、
私は初めて、
自分で自分に許可を出した気がした。
「またお願いします」と言えたこと。
「次は自宅で」と自分から提案できたこと。
それは、誰かに依存するための一歩ではなく、
自分の渇きや欲望から目をそらさないための一歩だったのかもしれない。
この体験を“エッチな体験談”と呼ぶなら、
それはたしかにそうなのだと思う。
けれど同時に、
「私が私を取り戻すための、ぎりぎりの儀式」でもあった。
ホテルの白いシーツの感触も、
オイルの香りも、
おじ様の落ち着いた声も、
きっと時間とともに薄れていく。
それでも、
あのとき確かにほどけて、
そしてもう一度結び直した自分の心の形だけは、
簡単には消えない。
“無料”という言葉に手を伸ばした私は、
知らないうちに、
とても高価なものを受け取っていたのかもしれない。
──「もう一度、自分の身体と心を信じていい」という、
たったひとつの許可証を。



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