第一章:陽炎の午後、ふたりきりの岩場へ
「ねえ、今年も海、行こうよ。あんた、去年みたいに急に来れなくなるのやめてよね」
夏のはじめ、大学時代の友人・佳織から届いたメッセージには、三浦海岸の写真が添えられていた。青くて、まぶしくて、あの頃より少しだけ遠く感じる風景。
私は33歳。夫とは別居中で、子どももいない。
佳織は38歳。シングルマザーとして高校3年生の息子を育てながら、フリーのヘアメイクとして働いている。
「受験生なのに、涼真も一緒に来るって。たまには海くらい行かせてやらないとさ。高校生活の最後の夏なんだし」
その言葉に、私はほんの少しの違和感を覚えた。
けれど、会えばわかるだろうと軽く考えていた。
──そして、三浦海岸。7月下旬の午後。
焼けるような白い砂浜と、強い日差しに肌をさらしながら、私はリクライニングチェアに身を預けていた。
海辺には、佳織と私、そして彼女の息子──涼真くん。
まだ18歳。高校3年生。
「……久しぶりですね、〇〇さん」
淡く日焼けした肩。制服姿とはまるで違う、Tシャツと水着だけの姿。
少し照れたように笑った彼は、去年見たときよりずっと背が伸びていて、腹筋の割れた細い胴には無駄な脂肪がなかった。
それでも、どこかまだあどけなさを残していて。
そのアンバランスさが、逆に私の胸をざわつかせた。
「……ちゃんと覚えててくれたんだ」
「……はい。忘れるわけないですから」
目を逸らそうとしたのに、その視線がしつこいくらい真っ直ぐで、まるで心の奥を覗き込まれているようだった。
第二章:水着の隙間に、ひと雫の鼓動が落ちて
午後3時を回った頃、佳織が「ちょっと車で昼寝してくる」と言い出し、タオルケットを抱えて駐車場に向かった。
気がつけば、砂浜には私と涼真くんだけ。
「暑いですね……あっち、岩場のほう行ってみません? 人もいないし、涼しいかも」
無邪気に言ったつもりなのか、それとも……
私の心の奥に、何かを落とすような声だった。
岩場の陰は静かで、波の音だけが一定のリズムで鼓膜を打っていた。
腰まで届く海水を抜けて、私たちは奥まった小さな入り江にたどり着いた。
「ここ、誰も来ないですね……すごい」
言いながら、彼は背後から私に近づいてきた。
すぐ背中に、ぴたりと熱を感じる距離。
「……水着、ずれてますよ。ここ……」
そう言って、涼真くんの指先が、私の背中の紐にふれた。
一瞬、細い指が私のうなじを撫で、タオルの下に滑り込む。
「っ……」
背骨を這い降りるようなその感触に、私は息を飲んだ。
逃げようとした足を、ふいに寄せ波がさらい、バランスを崩した拍子に、彼の胸に倒れ込むようなかたちになった。
「……大丈夫ですか?」
その声の近さ。肌の温度。
そして、水着越しに触れ合う、男の身体の輪郭。
「ねえ……なんでさっきから、そんな目で見るの」
「俺……ずっと、見てました。去年も。もっと前から……ずっと」
耳元に囁かれたその声が、胸の奥でゆっくり溶けていく。
気づけば私は、岩に背を押しつけられ、タオルが肩から滑り落ちていた。
胸の膨らみに触れる涼真くんの手は、緊張で震えながらも、確実に欲望をなぞってきた。
「……あ……そんな、触り方……」
唇が、鎖骨のくぼみに触れた。
舌先が、濡れて火照った皮膚を舐め取るように這う。
そのたび、私の脚の奥が、ひくひくと疼くのがわかる。
水着の布の隙間から、彼の指が、ぬるりと中へ。
「や……ダメよ、こんな……高校生なのに……っ」
「……俺、もう止まれません。〇〇さんのこと、ずっと……抱きたかった」
脈打つ音が耳のすぐ横で重なり合い、
波の飛沫と汗と、愛液と──あらゆる熱がひとつに混ざって、私はすべてを明け渡した。
岩場の陰、夏の午後。
誰にも見られない場所で、私たちはすでに戻れないところにいた。
第三章:陽が傾くころ、身体に残る罪と熱
陽が西に傾き、空が朱に染まりはじめた頃、私は砂浜に戻っていた。
佳織はまだ車の中で眠っているらしく、タオルをかけられたまま、微かに寝息を立てていた。
隣に座った涼真くんは、さっきまで私の中にいたとは思えないほど静かで、真面目な顔をしていた。
「……ごめんなさい。俺、すごく……間違ったことをしたのはわかってます」
「……私も。大人なのに、止められなかった」
なのに、後悔という言葉は、どちらの胸にも宿っていなかった。
ただ、罪と熱と、名もなき快楽の余韻だけが、ふたりの身体にこびりついていた。
水着の奥、まだ少し震える身体。
唇に残る柔らかな感触。
そして、彼の瞳が、私の奥に今も棲みついているような錯覚。
「このこと……誰にも言わないでね」
「もちろんです。俺の中だけの、……秘密です」
もう二度と会わないかもしれない。
けれど、この夏の一瞬だけ、私は33歳であることも、社会の枠も、母親の友人という立場も捨てて、ひとりの“女”として、彼に溺れていた。
──背徳とは、こんなにも甘く、身体に残るものなのか。
潮の香りと夕焼けの中で、私は自分の輪郭が少し変わってしまったことに気づいていた。



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