第一章|静寂という名の密室に、私は閉じ込められた
七月、梅雨明け直前の金曜日。
東京・五反田――。濁った空を映すガラス張りのビルの8階に、その広告制作会社はあった。
朝から断続的に降る雨は、気温を下げるどころか、湿度だけを高め、服の内側をじっとりと濡らしていく。
エアコンの冷気と、肌のうっすらとした汗が交差するこの季節。
私はいつも以上に、自分の身体を意識してしまう。
「じゃあ、お疲れさまでーす!」
午後3時半、若手の女性社員たちが早上がりで次々に退勤していった。
その背中を見送りながら、私は手元のレイアウトを整え、デスクにひとり腰を下ろす。
社内には、私を含めてわずか四人。全員が男だった。
三浦くん、小林くん、そして田代さん――
どこか少年の面影を残した20代の若手ふたりと、余裕のある物腰で女性社員から密かに人気のある営業主任。
彼らの視線を、私はこれまであえて避けてきた。
けれど今日は、その熱が、私の皮膚にじかに絡みついてくるようだった。
照明を落としたオフィス。PCの光だけがぼんやりと顔を照らしている。
シャツの胸元は蒸れて肌に張り付き、インナーににじんだ汗が冷えていく。
椅子を引くたび、太ももに張りついたスカートの裏地が、ぬめるように音を立てた。
「佐伯さん、まだ残ってたんですね」
後ろから、三浦くんの声がした。
振り返ると、彼は自販機から買ってきた缶コーヒーを差し出していた。
「…ありがとうございます」
受け取った指先が、彼の手に一瞬、触れる。
その一瞬に、火が走った。
私は彼の視線を追った。
彼の目は、まっすぐだった。どこか確信のような光を宿していた。
そして小林くんが、コピー用紙を手に編集室から顔を覗かせたとき、気づいてしまった――
彼の視線もまた、私の胸元から、脚のラインへと、静かになぞっていた。
「このビル…もう、僕たちしかいないんですよ」
田代さんのその言葉が、背後から低く落ちてきた瞬間、
私は、女であることを強制的に思い出された。
体温が、不自然に上がっていく。
なのに心は、凍りついたように静かだった。
机の下、脚を組み替えるふりをして太ももをこすり合わせた。
湿った布地がわずかに動き、そこにまとわりつく空気までもが、私の欲を煽っていく。
もう、逃げられない。
逃げたいのかどうかさえ、もう分からなかった。
私は、すでに密室に囚われていた。
欲望という名の、静寂の中で――。
第二章|沈黙のまま、私たちは服を脱いだ
編集室の扉が、ぴたりと閉じられる音がした。
カチャ、と鍵がかけられる音。
その瞬間、世界から切り離された密室が完成した。
湿った空気の中に、男たちの吐息と、私自身の呼吸の熱が、静かに充満していく。
私は椅子に腰をかけたまま、何も言えずにいた。
彼らの視線が、私の身体のあらゆる線をなぞるように這っている。
それを感じるだけで、下腹部が、じん、と疼いた。
「ずっと…触れたかったんです」
三浦くんの声が、耳もとで囁かれた。
次の瞬間、彼の指先が、私の首筋にそっと触れた。
その指はとても細くて、でも確かな熱を宿していて――
私はその一触れで、全身の力が抜け落ちていくのを感じた。
彼の手が、ブラウスのボタンをひとつ、またひとつと、ほどいていく。
決して乱暴ではなく、むしろ慈しむように、敬意すら孕んでいるような動作だった。
それが逆に、私を興奮させた。
小林くんは、いつのまにか私の脚の前に跪いていた。
視線が、膝から、太もも、そしてスカートの奥へと、じわりと登ってくる。
彼の手が、ストッキング越しに私のふくらはぎを撫で、太ももに触れると――
思わず、私は足を閉じてしまった。
「こわがらなくていいんです」
田代さんの声が、すぐ後ろからかかった。
その声に安堵する自分がいた。
まるで、大人の男性に「赦されている」ような気がして――
私は、脚を開いた。
三浦くんが、指先で私の下着のレースをなぞった。
その感触に、私は小さく声を漏らしてしまった。
「……っ」
柔らかく濡れはじめていた布地を、指が押し上げるたびに、身体が震える。
ブラウスはすでに脱がされていた。
レースの下着のなかに指が差し入れられ、私はゆっくりと、自分の女の部分が花のように開いていくのを感じていた。
誰の手かもわからない指が、舌が、内ももを伝い、胸を吸い上げ、喉の奥から甘い声が漏れた。
「麻里子さん、綺麗だよ…」
誰かが言った。誰かはもう、分からない。
快楽が、記憶の輪郭をぼかしていく。
三人の男たちの唇、舌、指先が、交互に、同時に、私を貪ってくる。
喉元を舐められながら、背中に腕を回され、スカートが腰までまくり上げられていく。
私は、自分の喘ぎ声が、この静かな社内に響いていることさえ、恥ずかしいとは思わなかった。
むしろ、それを聞かせていることに、どこか背徳の悦びを感じていた。
秘部に押し当てられた彼らの熱、ゆっくりと侵入してくるその圧。
私は、全身が溶けてしまいそうな熱の奔流に、ただ身を任せていた。
全員の熱を、舌を、奥深くまで受け入れて。
心の声が叫ぶ――
「どうしてこんなことを…」
でも、その問いはすぐに、別の快楽の波に飲まれて、消えていった。
私は、抗えない女になっていた。
第三章|朝焼けのなかで、女の顔を取り戻した
気がつけば、カーテンの隙間から、白みはじめた空の色が差し込んでいた。
朝の光は、無慈悲なまでにすべてを照らし出す――はずだった。
けれどその柔らかな光は、なぜか私の肌を、そっと抱くように包んでいた。
編集室の床に、私はまだ脚を投げ出したまま座っていた。
シャツは脱ぎかけで、片肩からずれ落ち、レースのブラはすでにずらされていた。
スカートは腰までめくれ、太ももには、彼らの爪痕がうっすらと残っていた。
触れられ、吸われ、突き上げられ、解けてはまた重なり――
何度、絶頂に達したのか覚えていない。
あまりに深く、濃く、そして多層的に、私の身体は開かれ、溺れ、溶かされていった。
仰向けのまま、田代さんの手が私の髪を撫でる。
「大丈夫か?」と小さく問われ、私は微かにうなずいた。
その時、三浦くんが私の脚のあいだに残った、まだ熱を帯びた水音を、そっと指先でなぞった。
「すごい…濡れてる」
恥ずかしいのに、私はそれを止めなかった。
彼の指が、すでに何度も開かれた奥に触れ、また濡らしていく。
小林くんの唇が、肩から首筋、鎖骨へと降りていく。
そのまま胸を吸い上げるように舌を這わせ、私の奥から、ふたたび声が漏れた。
――もう、終わったはずなのに。
なのに、私の身体はまだ終わっていなかった。
手首を掴まれ、再び仰向けにされる。
田代さんが、その大きな手で私の腰を抱え上げ、脚を左右に開くと、
薄く開かれたそこに、朝の光が落ちていた。
私は、まるで生まれたてのような、無防備で濡れた生き物だった。
「……もっと奥まで、来て……」
気がつけば、そんな言葉が唇から漏れていた。
もう、誰が私の中にいるのかもわからない。
ただ確かなのは、私の奥が、もう一度欲しがっていること。
快楽の名残がまだ、そこに棲みついていて、もっと深く、もっと強く、突き上げられることを望んでいた。
ふたたび打ち込まれた瞬間、私は喉の奥から低く呻いた。
「……あぁっ……そこ……ダメ……でも……いい……」
脳の奥までしびれるような感覚が、背骨を伝って駆け上がる。
三人の男に抱かれながら、私はようやく「女」という存在の核に触れた。
妻でもなく、同僚でもなく、母でもない、
ただの――ひとりの、濡れて、開かれ、悦ぶ、女。
何もかもが終わったあと、
私は全身を緩く抱きしめられながら、ゆっくりと目を閉じた。
汗と吐息と、精の余韻が交じる空間のなかで、
私はようやく、ひとりで泣いた。
泣いて、笑って、そして――目を開けた。
朝焼けが、すべてを赦すように、私の頬に光を落としていた。
ガラス窓に映った私の顔は、どこか清々しく、
そして、はじめて見る「女の顔」をしていた。
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