【第一章:火照りと視線のあいだで】
私は金子美沙、38歳。
都内・杉並のスーパーで週4日、レジ打ちと品出しのパートをしている。娘はもう中学二年生。夫とは会話も肌も遠くなって久しい。
そんな私の平凡な日常に、静かに火を点けたのが——店長の佐々木祐介、27歳。
祐介くんは、去年の春に本社から異動してきた。清潔感のある黒髪と、タイトなスーツの裾から覗く引き締まった腰回り。その年齢にしては、異様に落ち着いた所作。だけど、目だけが若くて——ときどき、私を「女」として射抜くように見てくる。
「美沙さん、今日また日経めちゃ下がってましたよね。日銀、そろそろ限界なんじゃ…」
「そうね……あんまり生活に余裕ないし、怖いわよね」
「でも、そんなことより……今日のそのシャツ、すごく似合ってます」
——不意打ちのように、会話の流れを逸らしてくる。
制服の上に着た白いカーディガン、その襟元をじっと見ながら、声のトーンを落とす祐介くん。
ドキリとした心臓の音が、自分の耳にまで届いた。
レジ待ちで背後に立たれたとき、すれ違いざまの指先がかすかに私の手の甲をなぞったとき、私はいつも、熱を帯びたまま帰宅する。
まるで生理前みたいに、感覚だけが敏感に疼くのだ。
金曜日の午後2時半。
パート終わりのタイムカードを押す前、祐介くんが私に小さく言った。
「少し、話せますか? 休憩室で」
この店の裏手、冷蔵室の隣にある小さな休憩室。普段は誰の目にも触れない空間。
でもそのとき、私には扉の向こうが“女”としての境界線に見えた。
祐介くんの手が、扉の鍵を回す。
「カチッ」というロックの音が、空気を変えた。
「……美沙さん」
私の名前を呼ぶその声が、耳の奥で溶けていく。
頬に触れた彼の手の甲は熱く、静かに、でも確かな意志をもっていた。
制服のカーディガンの前を指先でほどかれながら、私はただ、静かに震えていた。
「ずっと、触れたかったんです」
「……ダメよ、こんなの……」
「でも、美沙さん、ずっと俺を見てたでしょう? あの目、忘れられないんです」
彼の指がシャツのボタンを一つひとつ外していく。
下着の上から感じる視線に、全身の血が奥へ奥へと集まっていくのが分かる。
彼の唇が、鎖骨をなぞる。
次の瞬間、私は背筋をそらし、小さく息を吸った。
舌がゆっくりと、谷間から胸の縁へ。レースの上に湿った感触が残り、震えるような痺れが広がる。
「ここ……感じるんですね」
「……そんなこと……言わないで……」
でも、もう抗えなかった。
彼が跪くと、スカートの裾が指先でめくられていく。
ふくらはぎ、膝、太腿、そして——
下着越しの奥を、彼の息が撫でる。
「やだ……そんなところ……」
「綺麗です、美沙さん……全部」
舌が触れた瞬間、私は頭を跳ね上げ、ソファの背に指を突き立てた。
布越しに舌が押し当てられ、やがて下着をそっとずらして、彼は私の“ひらき”に顔を埋めた。
唇と舌が、奥の奥まで探るように動く。
湿った音と、私の呼吸が重なっていく。
舌先でなぞられるたび、喉から声が零れ、指先と足先がかすかに痙攣する。
「そんなに……奥、舐めないで……お願い……っ」
けれど祐介くんは止まらなかった。
左右、円を描くように、そして細く縦に。
まるで私の「疼き」の場所を正確に知っているような、熱のこもった動き。
クンニの快楽に溺れる自分が、信じられなかった。
でもその感覚は、もう引き返せない領域に達していた。
「俺のも……味わってほしい」
彼が私の前に立ち、シャツの裾をまくった。
私は膝をついた。
自分でも驚くほど素直に、顔を寄せ、彼の張り詰めた先端に唇を添えた。
「……美沙さん、気持ちいい……」
一つの儀式のように、私は丁寧に、じっくりと吸い上げる。
口の中で熱が脈打ち、彼の腰が震えながら前へ出る。
唾液が溢れ、音が漏れる。
指で根元を支えながら、舌先でくるくると撫で、喉の奥へ導いていくと、彼の指が私の髪をそっと掴んだ。
「そんなの、もう我慢できません……」
彼に抱き上げられるようにして、ソファへ戻される。
脚を開かされ、彼のものがゆっくりと、でも深く私の内に押し込まれていった。
最初は正常位。
密着したまま、肌がぶつかり、汗が重なる。
奥まで来るたび、下腹がぎゅっと締まるような震えに包まれた。
次に、私が彼の上にまたがる形に。
騎乗位の動きは、羞恥と快楽のはざまに私を揺らした。
「……こんな姿、誰にも見せたことないのに……」
「もっと、見せて……美沙さんの全部……」
最後は後ろから。
制服のスカートだけが残されたまま、私は前傾し、後ろから彼に貫かれる。
奥まで突き上げられるたび、息が乱れ、言葉にならない声がこぼれる。
指が腰を掴み、さらに深く、深く。
「……イく……っ、イッ……ちゃう……っ」
「俺も……一緒に……っ」
絶頂は、まるで雷鳴のように、身体の奥を突き破った。
膣内が収縮し、波のように彼を抱き締める。
私たちは静かに重なったまま、しばらく動けなかった。
天井の蛍光灯が揺れ、薄く汗ばむ彼の胸の匂いに、私は目を閉じた。
—
ドアの向こうに、いつもの午後のざわめきが戻る。
でも私の中では、何かがほどけたまま、まだ戻らない。
次に会ったとき、祐介くんはいつものように私に言った。
「お疲れさまでした、美沙さん」
でもその声の奥には——
確かに、私だけが知る熱があった。
【第三章:ほどかれたままの女】
祐介くんと交わったその午後、私は駅前のカフェでアイスコーヒーを買い、何食わぬ顔で帰宅した。
けれど身体は、きちんとした姿勢を取ろうとするたび、奥の方がズキンと疼いていた。
まだ、彼の形を思い出してしまう。
触れられた舌、注がれた熱、喉奥まで咥えたときの自分の唾液の重みまで。
「今日、早かったね」
玄関で夫が言った。
けれど私の耳には、どこか遠くの声のように響いた。
風呂あがりの彼の背中を見ながら、私は無意識に自分の太腿を擦り合わせていた。
何もされていないのに、奥がジンと脈を打つ。
——祐介くんにされたことは、すべて「感じる」側だった。
私は、女として喰われたのだ。
そして、心のどこかがそれを望んでいた。
数日後。
週明けの月曜、シフトはまた祐介くんと重なっていた。
でも私たちは、何事もなかったように振る舞った。
いや、振る舞う“ふり”をしていた。
お昼のピークを越えた13時すぎ。
彼が通路の端で私を呼んだ。
「……あの時間、夢じゃなかったですよね」
「夢だったら、どんなに楽かしら」
私が答えると、祐介くんは小さく笑った。
笑顔の奥の瞳だけが、露骨に熱を宿していた。
「今日は、奥の倉庫で在庫チェックしててください。俺、鍵開けておきますから」
その言葉の意味を、私の身体はすぐに理解していた。
そして、心よりも先に、脚が動いていた。
倉庫の奥。
照明が一部しかつかない半端な薄明かりの中、彼は私の後ろから抱きしめてきた。
私の肩に顔を埋めながら、耳元で囁く。
「……また、触れてもいいですか」
「だめ、って言ったら?」
「それでも止められませんよ。だって、美沙さん、もう濡れてる」
スカート越しに伝わる祐介くんの指先は、正確にそこを撫でた。
私は耐えきれず、腰を引いた。
でも彼は私の腰を掴んだまま、私の背中に自分のものを押し当ててきた。
「ここで……?」
「誰にも見られません。見られても、止めないけど」
私の下着が下げられ、足元で柔らかく揺れた。
背後から熱いものが滑り込んでくる感覚。
それは前よりも太く、深く感じられた。
「……っ、奥……っ」
彼の指が口を塞ぎ、私は声を飲み込んだ。
祐介くんの腰が前後に揺れ、私のなかに響く水音が静かな倉庫に反響する。
棚の段差に両手をつきながら、私はただ受け止めていた。
何度も奥を突かれ、何度も快楽が襲ってくる。
やがて、彼の動きが荒くなり、私の中を押し広げるように突き上げられたとき——
私は声を殺したまま、ひとつ、深くイッた。
息を整えながら、祐介くんが私の背にそっと額を当てる。
「……もう、戻れないですね」
「戻るつもり、あった?」
そんな風に笑って答えながら、私は心の中で震えていた。
夫にも、娘にも、見せたことのない顔。
この身体が、誰かを受け入れるたびにほどけていく“女”の顔を、私はこの若い店長にだけ、見せている。
もしかすると——
私が本当に戻りたいのは、「妻」という名前ではなく、「女」という生の感覚だったのかもしれない。
コメント