第一章:見つめられて、ほどける予感
――東京都杉並区・閑静な住宅街に暮らす、37歳専業主婦のわたしが、彼にほどかれた日。
梅雨入り前の空は、どこか頼りなく曇っていた。
東京都杉並区、駅から少し歩いたところにある、白い外壁の二階建て。リビングの窓から見えるのは、手入れの行き届いた庭と、隣家の紫陽花。
私は麻衣子。37歳、専業主婦。
建築士の夫と、小学生の子どもが二人。大きな不満があるわけではない。夫は真面目で、家族思い。だけど、どこか淡白で、“女”としての私は日常から抜け落ちたままだった。
週に一度の楽しみが、高校からの親友・理恵とのランチ会。
気心の知れた彼女と他愛ない話をする時間が、私にとっては数少ない“私自身”に戻れる時間だった。
理恵は華やかで、朗らかで、愛され上手な女性だ。
彼女の夫――翔太さんは、広告代理店に勤める40歳。理知的で柔らかな雰囲気を纏い、どこか“男らしさ”よりも“少年らしさ”を残したまま、大人になったような人だった。
理恵と並ぶ姿を見ながら、「似合いの夫婦だな」と、他人事のように思っていた。
けれど、あの日。
「今日は翔太が早く帰ってくるみたいでさ。一緒にご飯どう?」
理恵の明るい声に、私はなんとなく頷いていた。特別な予定があったわけでもなく、ただの惰性。それだけのはずだった。
日が傾き始めた午後5時。理恵がキッチンで支度を始め、私がソファでグラスを手にしたとき。
翔太さんが、リビングに入ってきた。
「麻衣子さん、こんばんは」
「こんばんは。お邪魔してます」
――その目が、私をまっすぐに見た。
瞬間、まるで静電気が走ったように、背筋がざわついた。
「今日のワンピース、…すごくお似合いです」
何気ない一言。けれど、その目に宿っていたものは、褒め言葉以上の温度を帯びていた。
口元は微笑んでいるのに、目だけが、まるで剥き出しの本能のように、私を射抜いていた。
胸の奥が、ひとつ、脈を打った。
私は笑ってごまかした。けれど、その夜、帰宅して夫と顔を合わせたとき。
あの視線が、頭の片隅に焼きついて離れなかった。
その日からだ。
自分でも気づかないうちに、“見られている”ことを意識するようになったのは――
第二章:舌先の熱で、わたしがほどけていく
――「ここじゃないどこか」に連れていかれるような、舌の記憶。
雨が降り始めたのは、午後2時を少し過ぎた頃だった。
空気は湿り、窓の外の紫陽花が、静かに揺れていた。
その日、理恵は体調を崩し、ランチの予定はキャンセルに。
「玄関に資料だけ置いてってもらえれば助かるんだけど…」
スマホの画面に表示された理恵のメッセージに、「了解」とだけ返して、私は傘を手にした。
気がつけば、ワンピースの色をいつもより深いグレーに選んでいた。
鏡の前で軽く髪を巻いている自分に、ふと違和感を覚えながらも、「たまたまよ」と心の中で呟いた。
玄関を開けたのは、翔太さんだった。
「わざわざ、ありがとう。理恵、今は寝てて」
「お大事にって、伝えてください」
それだけ言って帰るつもりだった。
けれど、リビングに入るよう促されたとき、私は頷いていた。
テーブルの上には、赤ワインが二脚。
「…飲む?」
「少しだけなら」
そう言いながら、心のどこかではもう抗う気持ちを置いていたのかもしれない。
「やっぱり、麻衣子さんって、綺麗ですよね」
ワインを口に運ぶタイミングで、不意に差し込まれたその言葉。
「もう、そんな歳でもないですよ」
「いや…そんなことない。むしろ、今のほうが、ずっと…」
彼の目が、私の鎖骨をなぞるように動いた。
ふと、鼓膜の奥がきゅっと締まる。体の奥で、何かが目覚めるような感覚。
ワイングラスが置かれた音の直後、ソファに座る私の隣に、翔太さんの体温が近づいた。
吐息の温度。肩がふれる。香水ではない、彼の肌の香り。男の匂い。
「…麻衣子さん」
その声の直後だった。
私の首筋に、彼の唇が触れた。
ほんの、柔らかな一滴の雨のように。
「だめ…っ」
形だけの言葉を吐いた瞬間には、すでに彼の手が、私の太ももに添えられていた。
ワンピースの裾が持ち上がり、彼の視線がそこに落ちる。
下着越しに感じる熱。自分でも信じられないほど、そこはすでに濡れていた。
「麻衣子さん…感じてるんですね」
耳元で囁かれた瞬間、羞恥が波紋のように全身に広がる。
でも、その羞恥の奥に――確かな快楽の予感が混じっていた。
次の瞬間、彼の顔がすっと沈んで、太ももに頬が触れた。
それだけで息が漏れる。スカートの奥に、彼の舌が滑り込む。
「ん…や…あっ…」
舌先が、まるで花びらをめくるように、ゆっくりと内側をなぞってくる。
湿った音が微かに響く。彼の吐息が、下腹部に直接伝わってくる。
腰が、自然と逃げようとするのに、彼の両手が太ももを抱え込み、離さない。
「こんなに…柔らかいんだ」
「しょ…たさん…やめ…て…」
けれど、言葉は熱に溶けて崩れていく。
舌がクリトリスを優しく吸い上げた瞬間、私は小さく跳ねるように震えた。
「は…あっ、んっ…だめ…、そこ…っ」
彼の舌が、深く、そして浅く。濡れた愛撫を繰り返すたび、私の奥の奥がきゅっと締まる。
視界が滲む。自分の声が、まるで他人のもののように耳に届く。
喘ぎと恥じらいが混ざった声が、リビングに漂う。
彼が顔を上げたとき、私の目は濡れ、頬は紅く染まっていた。
「見たことない…こんな麻衣子さん」
そう言って、唇を私のものに重ねてきた。
さっきまで私を舐めていた口で、キスをされる――
その倒錯的な感覚に、頭の奥が痺れる。
「…続けても、いい?」
その言葉に、私はもう頷くしかなかった。
脚が、腕が、唇が、もう彼を求めていたから――
第三章:堕ちるわたしと、快楽の彼方へ
――「この人の中で、女になりたい」と、初めて素直に願ってしまった。
彼の身体が、覆いかぶさるように私の上に重なったとき、
“終わってしまったらどうしよう”という恐怖と、
“終わらなくてももう戻れない”という予感が、同時に押し寄せていた。
リビングのソファ。
脚を左右に開かされ、ワンピースの裾は腰のあたりでくしゃくしゃになっている。
下着は脱がされたまま、片脚だけ足首に引っかかった状態で。
そのまま、彼はそっと私の中へ入ってきた。
先端が触れた瞬間、身体がびくんと反応する。
そして、ゆっくりと奥へ――
「ん…っ、ぁあ……っ」
声が、漏れた。
異物感と満たされる感覚が重なり合い、膣壁がひくひくと彼を受け入れていく。
彼の目は、じっと私の顔を見つめたまま。
「奥まで…入っていくね…麻衣子さん…すごく…」
彼の声が震えているのがわかった。
それほどまでに、私の中が“女”として熱を帯びていたのだと思うと、たまらなく恥ずかしくて、でも、誇らしくもあった。
彼が浅く、ゆっくりと突き上げてくる。
擦れる音。濡れた感触。
ソファの軋む音と、わたしの浅い呼吸が、重なり合う。
「…こんな顔、旦那さんには見せないよね?」
その言葉が、心の奥を突いた。
夫には見せたことがない。
こんなにも感じて、涙がにじむような顔を。
こんなにも欲しがって、脚を絡めるような声を。
「見て…見ないで…」
「見たい。もっと、奥まで俺のこと感じてる麻衣子さんを…」
正常位から、彼がそっと姿勢を変える。
私の腰を持ち上げて、ソファの背に手をつかせる。
後背位。
突き上げられた瞬間、喉から短く悲鳴のような声が漏れた。
「んんっ……!あ…あぁっ…」
奥の奥まで、突かれている。
彼の腰の動きは一定で、緩急をつけながら、的確に私のいちばん感じる場所を叩いてくる。
濡れた音が部屋に響く。
私の身体が、翔太さんのものになっていくのが、はっきりとわかる。
「もう…っ、だめ…っ、出ちゃう…っ」
快感の波が何度目かの頂を迎えようとした瞬間、彼は私を引き寄せ、
今度は彼の膝に跨がせた――騎乗位。
「自分で動いて、麻衣子さん」
言葉の意味が身体より先に届く。
彼の上で揺れる自分が、信じられなかった。
でも、動いた。
自分の手で、彼の肩を支え、
ゆっくりと、そして激しく、彼の上で腰を振る。
乳房が揺れ、汗が額を伝う。
「こんなに綺麗に、揺れてる…」
「見ないで…でも…感じて…っ」
わたしは、泣きそうだった。
快楽のあまりじゃない。
今まで、誰にもこんな自分を見せたことがなかったから。
誰にも見せたことがない“女”の顔を、
親友の夫が、いま――その目に焼きつけていた。
そして、彼が私の腰を強く掴み、最後のひと突きを迎えたとき。
全身が痙攣し、視界が白く染まった。
「…翔太さん……っ」
その名前を、声にならない声で叫んだ。
終章:雨の止む音と、わたしの沈黙
シャワーの音がしない家に帰るのは、いつぶりだろう。
体の奥に、まだ彼の熱が残っている。
なのに、外はもう夏の気配で、雨はすっかり止んでいた。
玄関の鏡に映る自分の顔は、少し赤らんでいて、
何も知らない夫の顔が、ふと脳裏に浮かぶ。
あのとき見せた顔は、
夫には決して見せたことのない、もうひとりの「私」。
それは罪か、快楽か、あるいは――目覚めなのか。
わからないまま、私はリビングに立ち尽くし、
遠くで乾きかけた雨音を、じっと聞いていた。
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