「満月の下、私はゆっくりと“女”になっていった」
それは、風のやさしさが少しだけ、残酷に感じられる夜だった。
誰にも必要とされていない気がした。
夫の「行ってくるよ」の声にも、息子の「ただいま」にも、私はただ「うん」と頷くだけの存在になっていた。
35歳、主婦、母親。
誰の中にも“私”はいても、本当の“私”は、どこにもいなかった。
だけど——
鏡の中の自分をふと見つめると、まだ諦めていない目をしていた。
胸の膨らみも、腰の曲線も、ヒールを履いたときの足首の細さも、
——まだ、女として見られたい。
その想いが、くすぶるように私の奥底に眠っていた。
その夜、公園に向かう理由はなかった。
ただ、満月があまりに綺麗だったから。
家から少し離れた、車で30分ほどの広大な運動公園。
夜になると人影はなく、丘、東屋、遊歩道、池、誰の気配もしない静かな場所。
ふと浮かんだ妄想に、私は負けた。
「裸になったら、気持ちいいかもしれない」
恥ずかしい。けれど、試してみたい。
理性が制止する前に、身体が勝手に動いていた。
私は、黒のロングワンピースの下に、何も身につけなかった。
化粧は控えめに。でも、ほんの少しだけ艶っぽく。
髪を整え、香水を胸元にひと吹き。
——まるで、儀式のようだった。
誰にも見られないつもりで、それでも「誰かに見られるかもしれない」と思いながら準備している自分が、滑稽で、でもどこか愛おしかった。
ワンピースの裾から覗く太もも。
ヒールに包まれた脚。
私はまだ、女として呼吸している。
そう思えただけで、少しだけ救われた。
公園に着くと、すでに日付は変わっていた。
満月は雲ひとつない夜空にぽっかりと浮かび、
草木を銀色に染めていた。
私はゆっくりと歩き、丘の上の東屋にたどり着いた。
誰もいない。
夜の音だけが静かに流れている。
私はゆっくりと、ワンピースのファスナーを下ろした。
肩から胸へ、そして腰へと布が滑り落ちていく。
満月の光が肌を照らし、夜風が乳首を撫で、太ももの内側をなぞっていく。
裸になった瞬間、背徳感と解放感が同時に押し寄せた。
「誰かに見られたらどうしよう」
——そう思いながらも、心の奥では、
「誰かに見てほしい」と、どこかで願っていた。
私は東屋の柱に手をつき、全裸のまま自分の脚を開いた。
風が、そこに吹き抜ける。
少しずつ、身体の奥が熱くなっていくのがわかる。
指先で胸の先を転がすと、小さな電流のように快感が走り、
そのまま右手が、ゆっくりと下腹部へと滑っていく。
誰にも見られない——でも、
「今、ここで誰かに見つかったら…」
その想像が、私をさらに濡らしていった。
——その時だった。
「すみません、誰かいますか?」
声がした。
私はビクッと体を強ばらせ、反射的にワンピースを抱えて身体を隠した。
そこにいたのは、20代前半くらいの若い男性。
タンクトップに短パン、ランニングの帰りなのだろう。
月明かりの下で、その顔がはっきり見えた。
肌が焼けていて、健康的で、どこか真面目そうな印象。
「驚かせてしまって……僕、走ってて。まさか誰かいるなんて思わなくて……」
彼の視線が、私の肌に絡みついていた。
私は、逃げようとは思わなかった。むしろ、息が詰まるほどの静寂の中で、なぜか「赦された」気がした。
「あなた……見てたの?」
「はい。でも……綺麗で、動けなくて……」
その言葉で、胸の奥がとろけた。
「触れてみたい?」
彼は一瞬、戸惑った。けれど、瞳は真っ直ぐに私を見ていた。
私は、頷いた。
彼の手が、そっと私の頬に触れる。
体温が伝わるその瞬間、涙がこぼれそうになった。
優しかった。
男の子ではなく、一人の“男”として、私に触れようとしていた。
指先が肩から胸元へ、乳房を包むと、そこに熱が集まる。
彼はしばらくの間、何も言わず、ただ私の身体をゆっくりと撫でていた。
そして、ワンピースを完全に脱いだ私が、彼の手を取り、
自分の秘部へと導いた。
「あたたかい……濡れてる……」
彼の声に、私は頷くだけだった。
私が彼の短パンの上から、熱く脈打つものを手で握る。
ズボンを下ろすと、そこには若々しく張りつめた硬さがあった。
私は、ゆっくりと手のひらで包み、根元から指先でなぞるように擦っていく。
彼が目を細め、喉を鳴らす。
私はその姿に、全身が疼くのを感じた。
そして、唇を寄せ、
その先端に舌先を当てる。
ぬるりと熱が溢れ、私はそれをゆっくりと咥えた。
彼のすべてを、口いっぱいに受け止める。
喉の奥まで、何度も繰り返し、深く、浅く、舌を絡ませながら奉仕するたび、
自分が“女”である実感が湧き上がってきた。
やがて、彼を仰向けに寝かせ、
私は彼の腰にまたがった。
手で導き、ゆっくりと中へ——
入った瞬間、息が詰まった。
「……熱い……すごい……」
彼の言葉に、私は微笑んだ。
自分から男を受け入れ、身体を重ねる悦び。
私は何度も腰を回し、自ら高みへと登っていった。
胸を揉まれ、乳首を吸われ、
快感は波のように広がっていく。
何度も、何度も、
私は彼の上で揺れていた。
そして——
絶頂が訪れたとき、私は声を押し殺しながら、身体を仰け反らせた。
彼も同時に果てて、私の中に温かなものを流し込んできた。
満月が、私たちの背を静かに照らしていた。
帰り道、私は何も言わなかった。
彼も、ただ私を見送るだけだった。
でも、その夜、
私は確かに“誰かの女”になっていた。
そして——
「女である自分を、もう一度信じていい」と、月が囁いてくれているような気がした。
「闇に誘われ、私はふたたび“そのとき”を生きた」
一夜だけのはずだった。
あれほど満ちていた月も、心も、時間と共に静かに欠けていったはずだった。
けれど——私の身体のどこかが、彼をまだ覚えていた。
あれから三日後。
いつもなら買い物の帰りに寄ることなどない、郊外の図書館の裏道を、私は無意識に歩いていた。
その先にあるのは、誰もが忘れているような古い木造の休憩所。
公園というより、かつて広場だった名残のような、時の止まった場所。
木々が音もなく葉を揺らす、午後9時過ぎ。
月はまだ昇りきっていない。でも私は、なぜかそこに立っていた。
「また、あの感覚に触れたい」
自分でも理由はわからなかった。
けれど、あのときの彼——あの若くて素直で、真っ直ぐに私を“女”として見つめてくれた彼を、もう一度だけ、感じたかった。
そんな都合よく会えるわけがない。
そう思っていたのに——
「……こんばんは」
その声は、風よりも静かに、背中から私を震わせた。
振り返ると、そこに、彼がいた。
Tシャツにジーンズ。髪は少し汗で湿っていて、目元には前より少しだけ大人びた陰があった。
「また、走っていたんですか?」
私が尋ねると、彼は笑った。
「いいえ。……あなたに会いに来ました」
その一言で、心が熱くなった。
ふたりとも何も言わず、木のベンチに並んで座った。
「……あの夜、私、おかしかったでしょう?」
「違います。すごく、綺麗でした。……忘れられなかったんです」
しばらく沈黙が続いた後、私は彼の手に自分の手を重ねた。
指先が、わずかに震えていた。
「……もう一度だけ、触れてくれる?」
その囁きに、彼の手がそっと私の太ももに滑っていった。
軽く、優しく撫でられただけで、私は身体の奥が熱くなるのを感じた。
ワンピースの裾を持ち上げると、夜風が生肌を撫で、ヒールを履いた脚が露になった。
「今日は……何も、つけてないんです」
彼が息を飲む音が、耳元でくすぐったい。
私の指が彼のベルトに触れ、
ジッパーをゆっくりと下ろした。
熱を持った彼が、パンツの布越しに脈打っていた。
布をずらすと、瞬間、若く張りつめた欲望が私の手に収まった。
私はその硬さと熱に、思わず喉を鳴らす。
指で優しく包み込み、
根元から先端へ、ゆっくりと、焦らすように撫でると——
彼の吐息が熱を帯びて近づいてきた。
私はそのまま、ベンチに膝をついて顔を寄せ、
先端に舌を這わせる。
ぬるりと滴る熱に、舌が自然と動いた。
「ん……」
彼が押し殺したように呻いたその声に、
私の身体も濡れていくのがわかった。
そのままゆっくりと咥え込む。
深く、奥まで——何度も、吐息を重ねるように愛していく。
彼の指が私の髪を優しくすきながら、
「気持ちよすぎて、もう……」と小さく震えた。
私は唇を外し、見上げて言った。
「まだ、終わらせないで」
そして、ゆっくりと彼の膝にまたがった。
手で導きながら、自らの奥へと、彼を迎え入れる。
「……あぁ……入ってくる……」
その熱さと太さが、ひと突きごとに私を内側から満たしていく。
私はゆっくりと腰を揺らしながら、
自分の快感の波を確かめるように、深く、深く沈んでいく。
彼の手が私の胸に触れ、乳首を摘まむ。
すると、身体が勝手に震え、声が漏れそうになる。
私は手を口に当てながら、何度も上下に腰を振った。
「あなたの中、気持ちよすぎて……」
彼が私の耳元で囁く。
それが、胸の奥まで染み込んで、快感とともに心を揺さぶった。
絶頂は、じわじわと、でも確実に近づいていた。
「……一緒に……いって……」
その言葉を合図に、彼は私の腰を抱きしめ、
深く突き上げるように体を合わせた。
私は小さく叫びながら、身体を反らせて——
全身が震えるほどの絶頂に呑まれていった。
同時に、彼も私の中で、熱を溢れさせていた。
そのまま私は、彼の胸に顔を埋め、しばらく動けなかった。
汗ばんだ肌に頬を寄せながら、静かな風が吹いていた。
「もう一度、会える?」
私が囁くと、彼は私の髪を撫でながら、言った。
「……何度でも、あなたが望むなら」
月が昇り始めていた。
夜はまだ、ふたりを見守るように続いていた——。



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