春の気配が、ようやく部屋の隅々にまで入り込むようになったある夕暮れ。
私は、ひとり台所に立っていた。
夫はまだ帰らない。
その代わりに、背後にはもう一人の“男”がいた。
達也さん。
夫の父。
この家に住むようになってから、もう半年が経っていた。
義母が身体を崩し、介護施設に入ることになり、ひとりになった義父は、自然な流れで私たち夫婦のもとに越してきた。
とはいえ、彼の存在は“自然”というにはあまりにも静かで重く、そして……色気を帯びていた。
五十五歳。
だがその背筋は若者よりもまっすぐで、口数は少ないのに、一言一言が妙に耳に残る。
顔立ちは夫とよく似ているはずなのに、まるで別の生き物のようだった。
達也さんが家に来てから、私は自分の“女としての感覚”を、少しずつ思い出すようになった。
誰にも言えない。
でも、毎朝のすれ違いざま、彼が浴室から出てくるときの濡れた髪の香りや、シャツの下の厚い胸板のラインを見てしまったとき——
下腹の奥で、何かが微かに蠢いた。
それを認めるのが、怖かった。
でも、もう止められないほど、私は渇いていた。
夫との関係は、もうとっくに淡くなっていた。
会話は日用品のように機能的で、夜もほとんど触れ合わない。
抱かれても、心も体も満たされることはなかった。
そんなある日——
私は、ほんの小さな反逆として、香水を変えた。
柑橘と白檀が混じる、大人の女性の香り。
夫が気づいてくれたら、少しは何かが変わるかもしれない。
そんな期待も、虚しく過ぎ去った朝のことだった。
夕食後、食器を洗っていると、背後から声がした。
「……香水、変えたんだな」
ピタリと手が止まる。
振り向かなくてもわかる、あの低く響くような声。
達也さんだった。
「あ、はい……気分転換に」
声が震えた。
彼の気配が、私の背中をじわりと包むように広がっていく。
見られている、と思った。
ただの義父の目線ではなく、“男の眼”で。
私はその晩、鏡に映る自分の裸を見つめた。
夫にはもう見せていない身体。
けれど、誰かに見られているという意識だけで、乳首がふっくらと立ち、奥がじんと熱を帯びていた。
このままではいけない。
そう思えば思うほど、身体は達也さんを探してしまう。
それから数日後——
彼が仕事の視察に行くというので、私は「よければ、お手伝いしましょうか」と軽い気持ちで申し出た。
本当に軽い気持ちだったのかは、自分でもよくわからなかった。
夫は何も疑わず、あっさりと許してくれた。
それが、私をもっと空虚にした。
夕方、仕事を終えて帰る車内で、達也さんが不意に言った。
「少し寄りたいところがあるんだ」
助手席の私は黙って頷いた。
胸の鼓動が、車のエンジン音よりも強く響いていた。
車が停まったのは、郊外の静かなビジネスホテルだった。
外から見たら、ただの“休憩”だと一目でわかるような場所。
それでも、私はなぜか、逃げなかった。
達也さんがエレベーターでカードキーをかざす手を見つめながら、自分の足音だけが妙に響いて聞こえた。
部屋に入ると、彼は無言で上着を脱ぎ、ベッド脇のランプに灯りを点けた。
私は、まるで眠り姫のように、ベッドの端に腰を下ろす。
「……こんなこと、だめなのに……」
自分の口から出たその言葉に、張り詰めた糸が切れたようだった。
次の瞬間、私の唇に達也さんの手が触れた。
「……だめなことほど、忘れられないんだよ」
その一言で、私はもう戻れなかった。
その夜の部屋には、
妙に柔らかな照明と、他人の匂いが染みついたホテルの空気があった。
私はベッドの端に腰をかけたまま、達也さんの動きをただ見ていた。
彼はゆっくりとソファに座り、私に言った。
「こっちにおいで」
声は低く、しかし、どこか優しい命令だった。
私はゆっくりと立ち上がり、まるで水に足を踏み入れるようにして、彼の膝の上に跨った。
スカートの裾がふわりとめくれ、太ももが彼のズボン越しの硬さに触れる。
その瞬間、私の奥がきゅんと疼いた。
彼は私の髪を耳にかけ、顔を近づけてきた。
唇が触れる寸前、私の呼吸は止まっていた。
そして、静かにキスが落ちた。
柔らかく、深く、そして濡れた舌が差し込まれたとき、
私は自分の意思が、どこにもなくなっていたことに気づいた。
達也さんの手が、胸元に触れる。
ニットの柔らかさ越しに乳房を撫でられ、すぐにその輪郭をなぞるように指が動いた。
「……小さめだが、張りがいい。若いな」
そんな言葉に、体がびくんと反応する。
乳首が彼の指先を求めて硬くなると、彼は迷いなく服の中へ手を潜り込ませた。
ブラのカップをめくり、指先が直接乳首を捉えた瞬間、
私は声を飲み込めなかった。
「や……っ、そこ……」
舌で転がすように愛撫された乳首は、まるで心臓と繋がっているようだった。
ひと舐めされるごとに、股間の奥が疼く。
「……触ってもいいか?」
彼が言うよりも早く、私は自分でショーツをずらしていた。
もう、どこかが壊れていたのだと思う。
羞恥心も、抗いも、全部。
達也さんの指が、私の内腿をなぞり、
そしてゆっくりと、濡れた裂け目をなぞった。
「すごいな……ぐっしょりだ」
その言葉に、思わず腰を浮かせてしまった。
彼は膝の上にいた私を抱き上げ、ベッドに静かに横たえた。
そして自分のズボンを下ろす。
——目を疑った。
達也さんのそれは、夫のものと比べて異様に大きく、
しかも、脈打っていた。
「……入らない、絶対に無理……っ」
「大丈夫だ。少しずつ慣らしてやるから」
彼は膝を開かせ、ゆっくりと自分の先端を、私の入り口にあてがった。
ぬるりと濡れたそこが、唇のように迎え入れた。
「ふっ……ぅ……あっ……!」
裂けるような圧迫感に、全身が反射する。
けれど、止めたいとは思えなかった。
少しずつ、奥へ。
ひと押しされるたび、膣壁が広げられていく感覚。
私の身体が、彼の形に合わせて作り変えられていくようだった。
「まだだぞ……全部は……入ってない」
息も絶え絶えの私に、彼は深く腰を沈めた。
奥の奥まで突き上げられた瞬間、視界が白く飛んだ。
「ぅ……いく……っ、やだ、そんな……っ、あああっ……!」
脈打つ肉の熱が私の中を満たし、
そのまま私は、全身を痙攣させながら絶頂へ堕ちた。
ベッドの軋みと私の啜り泣きが、部屋中に満ちていた。
彼は奥でひときわ強く脈打ったあと、熱いものを吐き出した。
「……全部、出したぞ。お前の中に」
私は言葉を返せず、ただ静かに、達也さんの腕にしがみついた。
その腕の中には、男と女の罪と熱と、なにより静かな幸福があった。
──もう戻れない。
けれど私は、確かに“女”として生きていた。
あの夜から。
誰にも知られずに、身体を知ったあの夜から——。
義母がソファでうたた寝している。
リビングにはテレビの音だけが低く響き、
夫は二階の書斎でパソコンに向かっている。
私は、その合間を縫うようにして、
音も匂いも、気配すら漏れないように、
静かに階段を下りていった。
廊下の突き当たり、
義父の部屋の前で一度深く呼吸を整えたあと、
私は、ノックもせずに扉を押し開けた。
中にはもう、私を待っていた男の影があった。
白シャツを脱いだ逞しい胸。
薄暗いスタンドの灯りが、輪郭を浮かび上がらせている。
「……よく来たな」
その低い声に、私の足首から腰の奥まで、じわりと熱が這い上がる。
「お義母さん、まだリビングにいます」
そう言いながらも、私の手は自分のワンピースの裾をめくっていた。
「いいんだ。声、殺せるだろ?」
達也さんの手が、私の腰を引き寄せた。
唇が重なると同時に、背中をなぞる指先がファスナーを探す。
シュッというわずかな音と共に、ワンピースが滑り落ちた。
義父は私の身体に触れるのが、誰よりも巧かった。
胸の柔らかさを確かめるように撫で、
乳首を舌で転がすたびに、私の内ももはじんわりと濡れていく。
「また……こんなに……音、立てないで……」
息をひそめる私に、彼はわざと耳元で囁く。
「だったら、濡らすなよ……もう、ぐちゃぐちゃだ」
ショーツをずらされた瞬間、
くちゅり、と粘膜の音が空気を震わせた。
「……やめ……っ、義母が……起きたら……」
そう言いながらも、私の身体はもう、求めていた。
義父の巨根を——。
彼は私を後ろ向きにして膝立ちにさせ、
そっと後ろから腰をあてがう。
「ほら、声出すなよ……口、塞いでてやる」
私の口に彼の手が添えられ、
次の瞬間、下半身に異物がゆっくりと押し込まれてくる。
「……っ、ふぐぅ……んんっ……!」
圧迫と疼き。
奥がかき回されるような快感に、
私は身体をよじらせながら、無言で快楽を受け入れた。
彼の腰がゆっくりとリズムを刻む。
ベッドの軋む音ひとつすら許されない空間で、
私たちは音のない交わりを重ねていく。
耳を澄ませば、上の階でドアが閉まる音がした。
夫が階段を降りてくるかもしれない。
なのに、それが——たまらなく、興奮した。
「こんなに締めて……やっぱり、バレそうなのが好きなんだな」
彼が腰を深く押し込んだとき、
私は全身が硬直し、奥で熱いものが噴き上がった。
絶頂と同時に、涙がこぼれた。
快感ではなく、どうしようもない罪と悦びに打ちのめされて。
義父はそのまま私を抱きしめながら、
静かにベッドに倒れ込んだ。
──その頃、リビングでは義母が目を覚まし、
コーヒーを飲んでいたという。
誰も私たちのことを知らない。
けれど、私は知っている。
この家の中で、私はいちばん女になっていた。



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