夜の11時すぎ。
まだ身体の中にアルコールが残っているような、ふわりとした感覚とともに、私はゆっくりと目を開けた。
視界は暗く、天井にぼんやりとにじむオレンジの光。
見知らぬ部屋。
少しだけ開いたカーテンの隙間から、街灯の光が差し込んでいる。
頭が重い。
でもそれ以上に、胸の奥がざわめいていた。
――ここは、どこ?
私は33歳。
結婚してもうすぐ10年。
夫は穏やかで、仕事熱心で、誠実な人。
でもその日々の中で、私はいつしか“女”ではなく、“妻”でしかなくなっていた。
そんな私が、教育係として任されたのが、22歳の新人・早瀬くんだった。
185センチのすらりとした体つきに、少年のような無邪気な笑顔。
けれどその瞳だけは、年齢にそぐわないほど、深く濡れていた。
「人妻って、なんか……えろいですよね、美妃さん」
配属初日、そんなふうに笑って私に言った彼。
その言葉は、冗談として笑い飛ばせたはずなのに、心のどこかに棘のように残ったままだった。
そして、今。
私はその彼のベッドで、目を覚ましたのだった。
ゆっくりと手を動かす。
肌に直接触れるシーツの感触。
柔らかく、あたたかく、そして――何も身につけていない裸の胸が、シーツの中で浮かび上がった。
「……え?」
自分の声が、少し掠れていた。
思考が追いつかないまま、シーツを胸元に引き寄せようとしたとき、何かが、脚の間を滑った。
舌……?
ぬるり、と、そこをなぞるような柔らかな感触。
一気に、背筋を痺れが這い上がった。
「……っ!」
びくりと身体を起こそうとした私の脚を、しっかりと押さえる両手。
そして――
「やっと起きましたか、美妃さん」
その声。
その目。
ソファに座っていたはずの彼が、今は私の脚の間で、笑っていた。
「……なに、してるの……?」
うまく言葉が出てこない。
けれど、彼はまるでそれを楽しむかのように、すっと舌を差し込んでくる。
「あ……っ……や、やめて……っ」
「やめるわけないでしょ? だって、美妃さん、もうびしょびしょじゃないですか」
そんなはず――
と、否定しようとしたけれど、すでに身体は、彼の舌に反応してしまっていた。
アルコールのせい?
それとも――
彼の舌先が、奥を探るように、濡れた花びらをかき混ぜる。
脚の付け根が焼けるように熱く、指先に力が入らない。
理性が引き留めようとするのに、身体が勝手に受け入れてしまう。
「ほら、ちゃんと感じてるくせに」
彼の囁きが、耳の奥に落ちてくる。
羞恥。
屈辱。
なのに、その奥から、じわりと湧き上がってくるのは――快楽。
「あっ……いや……あぁ……」
声が、漏れる。
そんな自分が、たまらなく情けなくて、でも、どうしようもなく……気持ちいい。
彼の舌が、一度奥を掬うように強く吸い上げた瞬間――
意識の奥で、何かが切れた。
「や……だめ、イ……っ」
涙が滲むほどの快感に、全身が痙攣した。
夫の前ではもう、味わえなくなっていた絶頂が、彼の舌によって暴かれた。
シーツを握りしめたまま、荒く息を吐いている私の額に、彼がキスを落とす。
「やっと“女の顔”になりましたね、美妃さん」
その言葉が、どこか誇らしげで。
それを否定できない私がいた。
私は、彼の“教育”に溺れていく。
拒むふりをして、すでに求めてしまっている――
そんな自分に気づいてしまったから。
彼の舌が離れたあと、私はぼんやりと、虚ろな瞳で天井を見つめていた。
達したあとの身体は、まるで内側の芯まで蕩けてしまったかのようで、手足の感覚すらあいまいだった。
けれど、そんな私の乱れた呼吸の隙間を縫うように、彼の声が落ちてきた。
「まだ終わりじゃないですよ。今夜は……“一から仕込む”って決めてたんで」
仕込む――
その言葉に、ぞくりと背筋が粟立つ。
「……もう、やめて……」
掠れた声で懇願する私に、彼は柔らかな笑みを浮かべていた。
まるで、幼い子どもをあやすような口調で囁いてくる。
「ダメですよ、美妃さん。まだ全然、僕の命令を覚えてない」
言い終えると同時に、彼の指が、私の顎をとらえた。
強くもない、でも逃げられない力加減で、私の顔を上に向かせる。
「“ご主人様”って、呼んでみてください」
「……っ、そんなの……冗談でしょ」
「冗談に聞こえます? ……ねぇ、美妃さん。あんなにイかされたあとに、まだ抵抗できるんですか?」
指先が、唇の端をなぞる。
その感触だけで、さっきまで忘れていた身体の疼きが、また目を覚ます。
酔いも羞恥も快感も、全部混ざり合って、私はもう自分がどこにいるのかさえわからなかった。
「……ご、しゅじんさま……」
喉の奥から漏れたその言葉に、彼の目が細くなる。
「そう、それでいいんです。もう、ちゃんと“言葉”から、躾けないと」
彼はそう言うと、ベッドサイドにあった黒い袋のようなものを取り出した。
その中から、艶やかなレザーの首輪が出てきたのを見た瞬間、心臓が跳ねる。
「これ、前から美妃さんにつけたくて……。似合うと思うんですよね、“ちゃんとしつけられた人妻”って感じで」
「そんなの……やめて……私、夫が……」
「夫? ああ、いるんでしたね。じゃあ、その旦那さんの前じゃ、こんな声……出せないですよね?」
そう言って、彼はまた私の脚を開かせる。
もう何度目かになるその動作なのに、羞恥は薄れるどころか、むしろ深く、濃く、私の中に沈んでいった。
首に巻かれる冷たい感触。
バックルの金属音が、部屋の中でやけに鮮明に響く。
締められていく首筋。その圧迫感に、身体がじんわりと熱を帯びてくる。
「似合う……やっぱり、僕の目に狂いはなかった」
彼の指が、首輪の金具を軽く引いた。
そのわずかな動作に、私はびくんと震える。
「ほら、声を出して。どうして欲しいのか、ちゃんと、ご主人様に言ってごらん」
「……や、だ……そんな……」
「じゃあ、また舌でお仕置き、しますね?」
彼が再び脚の奥に顔を沈めた瞬間、私はもう――言葉を飲み込めなかった。
「あっ……や……っ、お願い……ご主人様……また……イかせて……ください……っ」
吐き出した瞬間、全身がびりびりと震えた。
快感ではなく、屈辱。
だけどその屈辱の奥に、確かに――快楽があった。
夫の前では、もう長らく得られなかった熱。
理性では抗えないほどの、“女”としての悦び。
何度も舌に突かれ、吸われ、舐め上げられ、私は崩れていく。
目元には涙。腰は止まらず、背中は反り返る。
自分が、自分でなくなっていく感覚。
「美妃さん、やっぱり調教しがいがありますね。
――今夜は、まだ、終わらせませんよ」



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