38歳の私は、完璧な母親の仮面を被って生きていた。
娘のキャプテン姿を誇らしげに見つめながら、他の保護者と笑顔を交わし、バスケットボールの音が響く体育館の片隅で、自分の女としての感情に蓋をしていた。
だけど――それは、本当に“私”だっただろうか?
遼――21歳の大学生コーチ。
娘の視線を引きつける、若く真っ直ぐなまなざし。
そのまなざしが、ふいに私へと向けられたとき、私は息を呑んだ。
それは“見られている”という感覚ではなかった。
“欲されている”と、直感した。
その夜から私は、自分の中にもう一人の「真帆」が存在していることに気づいた。
母親ではない、誰かの“女”として抱かれたい私。
誰にも触れられない場所を、見つけてほしいと願ってしまう私。
「資料のお礼に、ジュースでも飲みに行きませんか?」
軽い誘い文句だった。けれど、私はすぐ頷いていた。
娘が眠る頃――彼とふたり、人気のない夜の会議室にいた。
「…真帆さんって、本当に綺麗です」
たったそれだけの言葉が、38年分の理性を揺らす。
「やめて…そんなこと言わないで」
声はそう言ったのに、膝は震え、心は答えていた。
“抱いてほしい”と。
彼が手を伸ばし、頬に触れたとき、私はもう目を逸らせなかった。
「私なんか、ただの母親よ…」
そう言った瞬間、涙が出そうになった。
“母親”という言葉に縛られて、私はどれだけの女を殺してきたのか。
キスは、あまりにもやさしくて、狂おしかった。
初めて名前を呼ばれて唇を重ねたとき、私は心ごと唇を捧げていた。
「真帆さん…もう、止まれないですよ」
彼の囁きが、下腹の奥で疼きを引き起こす。
私の胸が露わにされ、レースの下で尖る乳首に触れられたとき、
自分の身体がまだこれほどまでに“求めていた”ことに、私は驚いた。
「恥ずかしい…もうこんな歳なのに…」
私は、震える声で言った。
彼は黙って私の腰を抱き上げ、脚を絡めさせるようにして、私を迎え入れた。
挿入された瞬間、
「女」としての私が蘇った。
痛みはなかった。
むしろ、溶けるような、どこまでも深く絡み合う感覚。
彼の熱が、私の奥の奥へ入り、何度も打ちつけられるたびに、
娘のために抑え込んでいたすべての感情が剥がれていった。
「ああっ…ああ、お願い、もっと…奥まで…っ」
自分がこんな声を出すことに、羞恥と快楽が交互に押し寄せた。
でも、それでも止まらない。
腰が勝手に揺れ、脚が彼の腰を求めて締めつける。
「真帆さん…気持ちよすぎて、僕…」
彼がそう漏らしたとき、私は歓喜に震えた。
ああ、“求められている”
この私が、母親ではなく、女として。
その実感が、涙となって頬を伝った。
絶頂の瞬間――私は、あまりにも無防備だった。
意識が遠のくほどの波が身体を貫き、喉の奥で短く叫びを噛み殺した。
娘の名前が、ほんの一瞬、頭をよぎった。
けれどその直後に、私は完全に“真帆”という女に戻っていた。
事後、彼の胸のなかで震える私に、彼は言った。
「…なんで泣いてるんですか?」
私は答えられなかった。
罪悪感なのか、安堵なのか、快楽の余韻なのか――
ただ、わからなかった。
でも、こう思った。
誰かの母である前に、私は一人の人間で、
愛されたい、触れられたい、
“女”として、求められたいと願ってもいいのだと。
たとえ、それがどんなに許されないことであっても。
その夜を境に、私はもう、元の自分には戻れなかった。
遼の指先が、唇が、声が、
私のなかに残した熱は、
どれだけ時間が経っても消えない。
娘の練習を見守るふりをして、
私はいまも、あの夜の続きを夢見ている。
罪深く、どうしようもなく、
それでも――女として、美しく、狂おしく。



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