【第1幕】テニスコートの白い軌道に誘われて
私が彼と出会ったのは、梅雨が明けたばかりの、陽炎がコートを揺らす夏の日だった。
札幌の短い夏は、どこか切なげに輝いていて、私の暮らしにとっても特別な季節だ。34歳、既婚。息子は小学2年生。夫は仕事に忙しく、家の中では会話も空気のように希薄になっていた。
「お子さん、よく走りますね。僕、小学生の頃より速いかも」
彼は笑った。彼──健太くんは19歳、大学1年生。テニスサークルの後輩で、私が地域ボランティアとして参加している小学生向けの初心者教室に、たまたま補助に来たのだった。
素朴で、目が真っ直ぐで、まだ何も知らないくせに、何かを知りたくてたまらないような…そんな視線。
「このグリップね、ちゃんと手のひらの中心で包むように」
私は、彼の手に自分の手を添えて教えた。そのとき初めて気づいた。私の手が、彼の体温に反応していることに。
その日を境に、彼はよくコートの片隅に現れるようになった。子どもたちが帰ったあとの誰もいない時間帯に、サーブ練習を口実に。
私も、最初は断る理由が見つからなかった。むしろ、見つけたくなかった。
「ねえ、健太くん。好きな子とか、いないの?」
「…今まで、付き合ったことないんです。女の人の身体って、なんか怖くて」
一瞬、空気が止まった。コートを撫でる風音だけが残った。
私は笑った。でもその胸の奥では、何かがざわめいていた。
教えてあげたい──。
それは、優しさ?それとも…私自身が、抱かれたかったの?
【第2幕】夏服の裾からこぼれた秘密
ある日曜、夫は出張で不在だった。息子は実家へ預けていた。私は健太くんにメッセージを送った。
「一緒にラケットのガット張り直さない?家に張り機あるの」
本当はそんなもの、数年前に壊れていた。でも、会いたかった。
彼は、やや緊張した面持ちで玄関に現れた。白いTシャツに、学生らしいリュック。風が少し強くて、私のワンピースの裾がふわりと揺れたとき、彼の目が一瞬止まった。
リビングで向かい合いながら、私はお茶を差し出した。緊張を解すために少しだけ白ワインを開け、グラスを並べた。
「ねえ、キスってしたことある?」
唐突だった。でも、聞かずにはいられなかった。
「…ないです」
「じゃあ…練習してみる?」
私は彼の顎をそっと指で持ち上げた。彼の唇は、まだ何も知らない柔らかさで、触れた瞬間、私の中の何かが溶けていくのを感じた。
ソファに沈んだ私の肩に、彼の手が触れたとき、全身の細胞が一気に息を吹き返すようだった。
「怖くないよ。大丈夫…私が教えてあげる」
服の上から胸をなぞる手つきが、あまりにぎこちなくて愛おしかった。私はそっとブラのホックを外し、自分の肌を彼の指に委ねた。
「ゆっくりね、感じるところ、探して」
彼の手が胸を包む。乳首に触れた瞬間、呼吸が浅くなり、脚が自然と開いていくのが自分でも分かった。
膝の間に入った彼の身体が、不安と興奮の間で震えていた。私は手を取り、彼の熱を確かめた。
「ほら、ここが、あなたの答えよ」
私は自ら、下着を脱いで彼の上に跨がった。すべてを包むように。痛みはなく、むしろ満たされた感覚。心と身体がゆっくりと融け合っていく。
ぎこちない動きが、少しずつリズムを掴みはじめる。彼の腰が何度も私の中で迷い、そしてぶつかる。奥へ、奥へと──私は声を殺して啼いた。
「もっと、感じていいのよ…あなたも、私も」
彼の絶頂と同時に、私はしがみつくように彼を抱きしめた。ひとつの身体になったような錯覚。見上げると、彼は泣きそうな目で私を見ていた。
【第3幕】もう戻れない場所で微笑む朝
朝の光がカーテン越しに差し込み、私はシーツの上で静かに目を覚ました。隣には、健太くんが眠っていた。まだ幼さを残した寝顔。でも昨夜、確かに彼は私を抱いた。
私は台所でコーヒーを淹れながら、自分の内側に起きた変化に戸惑っていた。
罪悪感?それとも、充足感?
「…昨日のこと、後悔してません」
彼が静かに言ったとき、私は自分の頬が緩むのを止められなかった。
「でも、これからどうする?」
「また…教えてください。もっと、あなたのこと、知りたい」
私の中で何かがほどけた。母でも妻でもない、ひとりの女としての私が、息を吹き返した気がした。
これは始まりなのか、終わりなのか──その答えは、まだ分からない。
ただ、あの夜、私は彼に教えた。
そして、自分の中の渇きをも、知ってしまったのだった。



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