和彦くんと初めて会ったのは、去年の春。 私が通い始めたジムで、最初にマシンの使い方を教えてくれたのが彼だった。
「沙耶さん、肩の力、抜いてくださいね」 そう言いながら、彼が背中にふわりと触れたとき、その手のひらの温度が、私の理性をすっと溶かした。
――久しぶりに、異性から触れられた気がした。
35歳、結婚して8年。夫との生活は静かで、穏やかで、でも何もない。会話も少なく、夜の営みなど、いつが最後だったか思い出せない。
それでも、私は“いい妻”を演じてきた。 “いい母”として振る舞い、乾いた欲望には蓋をして。
でも、和彦くんの指先に、私はあっけなく疼いてしまったのだ。
年末、夫が子どもを連れて実家に帰ることになった。 その話をジムで和彦くんにしたとき、彼の目がほんの少し、艶っぽく笑ったのを私は見逃さなかった。
「じゃあ…今度、よかったらご飯でも行きませんか?」
その言葉に、私は頷いた。
本当は、誰かに誘われたくて仕方なかったのだ。女として、まだ誰かの瞳に映るなら、それだけでいいと思っていた。
居酒屋のカウンター席。お酒が進むほどに、距離は自然と近づいていく。 彼の香りが鼻先をかすめるたび、呼吸が浅くなる。
「なんか、思ってたより…飲みますね、沙耶さん」 「ふふ、ちょっとだけ。…酔ってないよ、ほんとは」
私は彼の腕にそっと体を預けた。 肩に寄せた顔から、彼の心臓の鼓動が聞こえるような気がした。
「部屋、見てみたいな」
タクシーの中、ぽつりとこぼれたその一言は、もはや“女”としての私が口にしたのだった。
「…いいですよ。でも、ほんと見るだけですよ?」
そんな冗談を交わしながらも、部屋のドアが閉まったとき、空気が明確に変わった。
私の理性は、すでにシャツのボタンと一緒に外れていた。
「泊まってっていい?」
その言葉に、和彦くんは驚いた顔を見せたあと、すぐに私を抱きしめた。
「俺も、ずっと…沙耶さんのこと、綺麗だなって思ってて」
彼の唇が私の首筋に触れた瞬間、もう全身が震えた。
熱い手が胸を撫で、指先が乳首を探り当てる。下着越しに優しく弄ばれるたび、じんじんとした感覚が下腹部へと伝わっていった。
「濡れてる…ここ、触られたかった?」
ショーツの奥に忍び込んできた指が、そこをそっと撫でた瞬間、腰が跳ねた。
「そんなとこ、だめ…あっ…!」
唇が太ももに這い、熱い舌が秘部に触れる。 吸われ、舐められ、突起を転がされると、喉の奥から甘い声が漏れた。
「イッていい?…イッて…」
ひとつ、痙攣するように身体が反応した。
「沙耶さんの、口でもしてほしい…」
促されるままに彼のズボンを下ろすと、目の前に現れた熱に、思わず唾を飲んだ。
舌先でゆっくりと先端をなぞり、唇で包み込む。上下に動くたび、彼の息が荒くなる。
「やばい…そんなに、気持ちいい…っ」
口内で感じる彼の熱さに、私の中もさらに濡れていった。
そのあと、私は彼の上に跨った。
「私、自分で動くの…好きなの」
ぬるりと中へ挿し込まれる感覚に、腰が震えた。 彼の手が私の胸を揉み、舌が乳首を舐める。 上下に動くたび、奥が擦れて快感が深まっていく。
「奥、当たって…だめ…っ」
背を向けて、後背位。 膝をついて腰を上げ、彼が後ろから突き上げてくる。
「濡れすぎ…音が、やば…」
打ちつけられるたび、快楽の波が押し寄せる。
「中、きつい…締めつけすぎ…イキそう」 「いっしょに、いこう…和彦くん…!」
何度も、果てた。
それから夫が帰るまでの数日、私は夜ごと和彦くんの部屋に通った。 昼間は主婦、夜は愛人。
快楽と罪の狭間で、私は完全に堕ちていた。
これは恋じゃない。でも、確かに私は、生き返っていた。
今夜も夫の寝息を聞きながら、私は思い出している。 熱い彼の舌。突き上げる腰。呼ばれる名前。
そしてまた、夢の中で彼を迎え入れる。
私はもう、女としての自分を手放せない。


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