「先輩、終電、なくなっちゃいましたね」
そう笑った彼の声が、夜の街にやけに甘く響いた。
酔いが少し残る頭で、その言葉の意味をじわじわと理解していく。
カプセルホテルの入り口で、受付の女性が「おふたりでひとつのカプセルしか空いていませんが…」と申し訳なさそうに言ったとき、私の鼓動が一拍ずれた。
「どうします?」
彼の瞳は、ほんの少しだけ試すように揺れていた。
「……寝るだけなら」
そう返した声がかすれていたのを、私はきっと自分だけが知っていた。
カプセルの扉を閉めた瞬間、世界が変わった。
白く光るパネルの下、ふたり分の熱気がこもる。肩が触れそうで触れない距離に、彼が横たわっている。
そのくせ、視線だけが何度も絡まった。
「……狭いですね」
「そうね。息苦しいくらい」
「じゃあ、もっと…近づいても、いいですか?」
冗談のような言葉に、私は笑って返す余裕を失っていた。
彼の手がそっと伸びて、私の手首に触れたとき、背筋を電流が走った。
若い掌の熱が、火傷のように伝わってくる。
そのまま彼は、静かに私の顔を見つめて――唇を、重ねてきた。
最初は、確かめるように。
けれどすぐに、私の唇を食むように舌が滑り込んできた。
「あ……っ」
私は抗えなかった。
唇の奥をなぞる舌の感触に、意識がぼやけていく。
制服のボタンが、一つずつ外されていく。
彼の手元は震えていたけれど、その不器用さが、なぜかいっそう私を溶かしていった。
ブラウスを脱がされると、肌に彼の視線が突き刺さった。
肩から胸元へと降りてくる目線。まるで舌で撫でられているような錯覚に、背中が震えた。
「……きれいだ、先輩」
「やめて、そんなの……」
言葉とは裏腹に、身体は嘘をつかなかった。
彼の指がブラをずらし、乳房に触れた瞬間、私は腰を引き寄せるように揺らしていた。
先端に吸いつかれたとき、小さく喘ぎが漏れた。
「声、出していいんですよ。……もっと、聞かせてください」
吸い上げるような口づけ。歯で優しく噛まれ、舌で弄ばれる。
指先で円を描くように弄られながら、私は下腹がじんわりと熱くなっていくのを感じていた。
彼の手が、太腿をなぞる。
スカートの中、下着の上からそっと撫でられたとき、濡れているのがわかって恥ずかしかった。
「……もう、こんなに」
下着をずらされ、指が直接触れたとき、私は無意識に腰を逃がそうとした。
けれど、彼のもう一方の手が私の腰をしっかりと押さえていた。
中指が、ゆっくりと奥へ。
熱く濡れた場所に侵入してきた異物感に、私は思わず声を飲んだ。
「もっと……指、動かして……」
自分でそんなことを口にするなんて思ってもみなかった。
けれど、欲望はもう、理性の輪郭を溶かしていた。
指がゆっくりと奥を探るように動き、また浅く抜けては深く沈んでいく。
擦れるたびに、花弁の内側が敏感に震えた。
「はぁっ、ん……だめ、そこ……」
彼は私の声に応えるように、リズムを速めた。
すぐに、身体の芯が爆ぜる感覚に包まれ、私は彼の肩にしがみついていた。
指が抜かれると同時に、彼のものが硬く膨らんでいたことに気づいた。
ズボンをずらし、そこにある熱を手で包んだとき、その大きさと鼓動に喉が鳴った。
「……入れても、いいですか?」
私は、静かに頷いた。
それは、私からの赦しであり、すべてを明け渡す合図でもあった。
彼がゆっくりと腰を沈めたとき、身体が裂けるような感覚と同時に、奥まで満たされる安堵に包まれた。
動き始めた腰。
浅く、深く、突き上げるたびに、快楽が波となって押し寄せてくる。
「先輩……きつい、気持ちいい……」
「あなたが、気持ちよくしてるのよ……全部……あ、ん……!」
呼吸が絡まり、汗が肌を伝って落ちていく。
彼の腰が私の奥へと打ち付けられるたび、背中が反り返り、ベッドの壁に頭をぶつけた。
狭い空間が、ふたりの吐息と音だけで満たされていく。
私は彼の首に腕を回し、彼は私の名を呼びながら絶え間なく動き続けた。
何度も、何度も、絶頂が連なってきた。
まるで、終わりのない夢のなかに閉じ込められたように。
果てたあとは、ただ静かだった。
汗ばんだ肌を重ねたまま、彼が私の髪に唇を押し当てる。
「……好きです」
その言葉が、遠くで木霊するように響いた。
好き、なんて言葉が、今夜のすべてを赦してくれるような気がして、私は何も言えなかった。
朝になっても、彼はまだ眠っていた。
私はそっとカプセルを出て、フロアの洗面所で顔を洗った。
鏡の中、私の頬はまだ赤く、唇は腫れていた。
そして、下着の奥にはまだ、彼の余韻が残っていた。
罪悪感はある。でも、それ以上に身体が覚えてしまっている。
あの触れられた感覚、息づかい、体温。
すべてが、私の中で生きている。
それが、真実。
密室の中で交わされた吐息と熱は、もう誰にも奪えない。
私たちだけの、静かな夜の記憶。



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