秘密の映画館｜大人の純愛が交差する、運命の夜　その3

禁断の映画館｜夜に蕩ける純愛——静寂の闇に溺れるふたり

7. 交錯する運命

初めて指を絡めた夜のことを、私は今でも鮮明に覚えている。

夫の寝息が響く隣で、スマホの画面には彼からの短いメッセージ。

「会いたい——今すぐに。」

その言葉に、抗えなかった。

闇に溶け込むように忍び出し、彼の待つ場所へと駆けた夜。

彼の腕が私を包み込んだ瞬間、世界は罪と快楽の境界を失った。

幾度となく繰り返された秘密の逢瀬。

理性の奥で分かっていた——これは許されるべき関係ではないと。

それでも、私は彼を求めた。

しかし、そんな甘美な時間にも終わりが訪れる。

ある日、彼の口から信じられない言葉が零れ落ちた。

「……結婚するんだ。」

「え？」

「相手は……美由子先生。」

思考が止まる。

美由子——私の部下。

彼が選んだのは、私ではなく、彼女だった。

8. 祝いの夜

「お祝いをしてあげるわ。」

静かに微笑みながら、私は彼と美由子を自宅へ招いた。

「今日は、あなたの好きな日本酒を用意したの。」

テーブルの上に並ぶ瓶——どれも彼の好みを熟知した選択。

獺祭 磨き二割三分——フルーティーで甘美な誘惑。
黒龍 石田屋——熟成された恋の余韻。
十四代 本丸——舌に絡みつくような官能的な甘さ。

「せっかくだから、たくさん飲んでね。」

美由子は楽しげに杯を重ね、頬を紅潮させていく。

やがて、彼女は深く息をつき、そのままソファに沈み込んだ。

穏やかな寝息。

——今、この空間にいるのは私と彼だけ。

私は彼を見つめた。

「……おめでとう。結婚生活は、幸せ？」

彼の瞳が揺れる。

「……美佐子先生……。」

私はそっと指を絡めた。

「ねぇ……どうして、私じゃダメだったの？」

微かな震えを帯びた囁き。

彼の瞳が苦しげに歪む。

それでも、私は手を離さない。

「今夜だけ……夢を見させて？」

絡めた指の熱が、私の全身を支配する。

膝の上に身を沈めると、彼の手が私の背をなぞった。

「……こうしていると、すべてがあの日に戻るみたい……。」

静寂の中、互いの鼓動が重なり合う。

私は彼の肩にそっと手を添え、ゆっくりと腰を動かす。

まるで波に身を委ねるように、彼の熱が私の内側へと広がる。

彼の指が私の背中をなぞり、私の動きに合わせて深く沈み込んでいく。

「……もっと……深く……。」

私の囁きが、彼の熱を煽る。

闇に溶けていくような心地よさの中、私は彼の息遣いを感じながら、自らの鼓動を彼に預けた。

やがて、二人の熱が一つに溶け合い、最も甘美な瞬間が訪れる。

指先が、肌が、絡み合うたびに高まる快楽。

彼の手が私の腰を包み込み、支えるように引き寄せる。

背後では美由子の寝息が静かに響いていた。

罪の意識が心の隅で警鐘を鳴らす。

それでも、私の体は彼を求める。

「……こんなに狂おしく、焦がれるのに……。」

理性の最後の糸が切れ、私は彼に溶けていく。

彼の瞳に映るのは、情欲に呑まれた私。

背徳の波が押し寄せ、理性の残骸が私を飲み込む。

唇を噛み締める。息が熱を帯び、押し殺した声が喉の奥で震えた。

「……あ……っ……。」

彼の指が私の背をなぞるたび、甘い衝撃が波紋のように広がる。

その時——

ふと視線を上げると、美由子がわずかに身じろぎ、かすかに瞼が動いた。

息が詰まる。

寝息のリズムは変わらない。それでも、まるで見られているような錯覚に陥る。

——もし、目が合ったら？

もし、この瞬間を見られてしまったら？

それでも、私は止まれなかった。

彼の腕が、肌が、私を引き戻す。逃げ場はない。

「……もう、戻れない……。」

囁く声が震える。

美由子の静かな寝息の向こうで、私たちは取り返しのつかない夜へと沈んでいく。

夜の静寂が、私たちの罪を優しく包み込んでいく。

——夜の闇に沈みながら、私は甘美な背徳に満たされた。