私は恵子、38歳の主婦です。夫と子どもに囲まれ、表面上は何不自由ない生活を送っています。近所でも”優しい奥さん”や”しっかりしたお母さん”と評されることが多く、特に問題なく平穏な毎日を過ごしていると思われているでしょう。しかし、誰にも言えない秘密が私にはあります。それは、SMに興味があるということです。
この興味がいつから芽生えたのか、正確には覚えていません。ただ、学生時代に読んだ文学作品や映画の中で描かれた支配と服従の関係が、妙に心に引っかかっていたことを覚えています。それは、単に好奇心をそそるだけでなく、どこか自分の奥底に眠る欲望を呼び覚ますような感覚でした。しかし、その感情を抱えたまま年月が経ち、結婚し、母親となった今、私のその側面は完全に封じ込められていました。
ところが、日常生活の中でふとした瞬間にその抑え込んだ欲望が顔を出します。例えば、夫が些細なことで私を叱ったとき、心の奥でわずかな興奮を覚えている自分に気付いてしまったとき。そんな自分を責めつつも、その感覚を完全に消すことができず、ただ静かに心の中で向き合い続ける日々でした。
ある日、そんな私に転機が訪れました。子どもたちが学校の宿泊行事で家を空け、夫も出張で家を空けていた日のことです。珍しく完全な一人の時間が手に入った私は、抑え込んでいた欲望に向き合おうと決心しました。スマートフォンを手に取り、検索窓に”SM”と入力しました。そこにはさまざまな情報が溢れていました。知識として知るだけなら大丈夫、と自分に言い聞かせながら、いくつかのサイトを閲覧しました。
その中で、一つのコミュニティサイトに目が留まりました。”初心者歓迎”や”安全な体験をサポート”といった言葉が並んでおり、思わず登録してしまいました。掲示板には、同じような興味を持つ人々が体験談を語ったり、質問に答えたりしている投稿が並んでいました。私と同じような主婦の投稿もいくつかあり、彼女たちが自分の中の欲望とどう向き合い、どのような形で実現させたのかを知るにつれ、私の胸の高鳴りは止まりませんでした。
その掲示板の中で、一人の男性の投稿が私の目に留まりました。彼は”紳士的にリードします”と書き、初心者向けに安心して楽しめる環境を提供すると書いていました。年齢は45歳、既婚者であり、プライバシーを守ることを重視しているとのこと。その言葉に私は引き込まれるようにして、メッセージを送りました。
メッセージのやり取りは丁寧で、どこか落ち着きを感じさせるものでした。彼は私の不安や疑問に真摯に答え、私のペースを尊重することを約束してくれました。そのやり取りを通じて、私は自分の気持ちを少しずつ彼に打ち明けるようになり、自分自身でも気付いていなかった感情が表に出てくるのを感じました。
そしてついに、彼と会う決心をしました。昼間のカフェで待ち合わせをし、どんな人なのか直接会って確かめたいという気持ちが強かったのです。当日、私は少し緊張しながらも清楚なワンピースを選びました。カフェのドアを開けた瞬間、奥の席に座る彼と目が合いました。彼は優しい笑顔で私を迎えてくれました。
彼との会話は思った以上に穏やかで楽しいものでした。普通の家庭の話や趣味の話から始まり、やがて私の興味や不安についても話題が移りました。「無理に何かをする必要はありません。ただ、恵子さんが自分の中にある気持ちを少しずつ受け入れていけるようにお手伝いします」と彼は静かに言いました。その言葉に私は安心し、彼を信頼する気持ちが芽生えました。
その後、彼との時間は少しずつ進展していきました。初めてのセッションでは、彼のリードの下、私は緊張しながらも自分の中にある感覚を解放することができました。それはまるで、自分自身を新たに発見するような体験でした。彼の優しさと細やかな配慮のおかげで、私は安心してその世界に踏み込むことができたのです。
暗い室内にキャンドルの灯りが揺れ、その柔らかな光が部屋全体を包み込んでいました。私が用意された椅子に座ると、彼は優しく声をかけながらリボンのような柔らかなロープを取り出しました。「恵子さん、少し緊張していますね。大丈夫、何も心配しないでください」と微笑みながら言うと、私の手首にそっとロープを巻きつけ始めました。
その触感は驚くほど滑らかで、冷たさや痛みを感じることはありませんでした。彼が丁寧に結び目を作るたびに、私の心は不思議と安らぎを覚え、日常では決して味わえない感覚が広がっていきました。「どうですか?痛くないですか?」と彼が尋ねると、私は小さく首を振り「大丈夫です」と答えました。
次に、彼は私の目を柔らかな布で覆いました。視界を失うことで、他の感覚が一層鋭くなり、彼の声や動作、そして部屋の空気感さえも全身で感じ取ることができました。彼がそっと私の肩に触れると、その温もりが直接心に届くような気がしました。
「これから少しだけ感覚を高めてみましょう」と彼が言い、羽根のように柔らかな道具を私の腕や首筋に滑らせていきました。その微細な刺激に、私は思わず身を震わせましたが、不思議と嫌悪感はなく、むしろその繊細な触れ方に心地よさを感じました。
さらに彼は、ゆっくりとした動きで足首に触れ、ロープを巻き付けていきました。体が拘束されていく感覚に、私はこれまでにない不思議な高揚感を覚えました。その一方で、彼の目線や声から伝わる配慮に、安心感が全身を包み込んでいきます。視界が遮られている分、彼の手の温かさや、ロープが肌に触れる微細な感覚が、私の感情をさらに研ぎ澄ましていきました。
「恵子さん、大丈夫ですか?」と彼が静かに尋ねる声に、私は小さく「はい」と答えました。すると彼は、私の頬にそっと触れ、温かく安心感のある声で「ゆっくり感じてください」と囁きました。その言葉が、私の中に隠れていた感情を優しく解き放つように響き渡りました。
その瞬間、心の奥底から湧き上がる感情が押し寄せました。普段は家族のために抑え込んでいた自分、”良い妻”や”良い母親”として振る舞うために隠してきた欲望が、初めて許されたような気がしました。「私もこんな一面があるんだ」と、心の中で小さく呟いたとき、思わず涙が頬を伝いました。
彼はその涙に気付くと、布越しに優しく私の頬に触れ、「大丈夫ですよ、恵子さん。自分を責めなくてもいいんです」と静かに囁きました。その言葉に私は深く息を吐き、次第に心の緊張がほどけていくのを感じました。
彼の動きは終始穏やかで、私の反応を細やかに観察しながら進められました。視界が遮られていることで、自分が何をされているのか正確には分からない状況が、逆に私の感覚を研ぎ澄ませました。その一瞬一瞬が、私自身の新たな一面を発見するきっかけとなったのです。
それ以来、私は自分の中にある欲望とどう向き合うか、そしてそれをどうコントロールするかを学んでいきました。それはただの快楽の追求ではなく、自分自身をより深く理解し、受け入れるための旅路だったのです。
今でも私は、日常生活の中で”真面目で清楚な主婦”として振る舞っています。しかし、心の中では自分の中の新たな側面を受け入れ、楽しむことができるようになりました。私にとってこの体験は、自分を縛っていた見えない枷を解き放つきっかけとなり、新たな自分と出会う旅だったのです。
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