私は早苗、55歳。この会社では女性部長として多忙な日々を送っている。責任を伴う仕事に対しては厳しく接する一方で、部下たちには頼られる存在でありたいと常に思っている。しかし、時にはその距離感に孤独を感じることもあった。
その夜、私は新入社員の武と二人きりで残業をしていた。武はまだ22歳。取引先への重要な資料を誤って送付してしまうというミスを犯し、そのフォローに追われていたのだ。
「武くん、このミスがどれだけ重大か分かっているわよね?」
私が問いかけると、武は頭を下げて震える声で謝罪した。「本当に申し訳ありません……」
その姿に叱責する気持ちはすぐに薄れた。誰にでも失敗はある。重要なのはその後の対応だと自分にも言い聞かせる。
「責任は私にもあるわ。一緒に取り返しましょう。」
彼の目が驚きと感謝の色を浮かべた。「ありがとうございます。僕、全力で頑張ります!」
こうして、静まり返ったオフィスでの二人きりの夜が始まった。
深夜のオフィスは静寂そのものだった。書類を整理し、データを修正しながら、私は武に必要な指示を与えていった。隣に座る彼の顔には緊張が滲んでいた。
「落ち着いて。ミスを取り戻すには正確さが大事よ。」
彼の手がキーボードを叩く音に耳を澄ませながら、私はその横顔に目を向けた。若々しい顔立ちだが、必死な表情にその真剣さが伺える。
途中、武が操作を誤り、重要なファイルを削除しかけた。「あっ!」という彼の声に、私は反射的に彼の手を掴んだ。
「ちょっと待って、それは……」
私の手が彼の手に重なった瞬間、二人の間に一瞬の沈黙が訪れた。彼が驚いたように顔を上げると、その瞳に戸惑いと動揺が映っていた。
「す、すみません……」
「気にしないで。でも、これ以上のミスは許されないわよ。」
そう言いながらも、自分の手が彼の手に触れていた感触が妙に胸に残った。
作業は夜半を過ぎても続いた。疲れが溜まり始めたのか、武が資料を取りに立ち上がったとき、書類棚の上段に手を伸ばそうとしてバランスを崩した。
「武くん、大丈夫?」
咄嗟に駆け寄った私が、彼の肩を支えようとした瞬間、逆に足を滑らせて二人で倒れ込んでしまった。背中を打った私が顔を上げると、武の手が私の胸に触れているのに気づいた。
「ご、ごめんなさい!」
彼の顔が一瞬で真っ赤になり、慌てて手を引っ込める。その仕草があまりに初々しく、私は思わず苦笑した。「大丈夫よ、気にしないで。」
しかし、自分の胸に触れた彼の手の感触が、熱を伴って全身に広がっていくのを感じた。その感覚を振り払おうと立ち上がり、何事もなかったように作業を再開したが、心の中ではその瞬間が何度も蘇った。
「部長、本当にすみませんでした……」
「だから、もういいのよ。それより、これをチェックしてちょうだい。」
気まずさを隠すように指示を出すと、武は再び真剣な表情で作業に戻った。だが、私たちの間には微妙な空気が漂い始めていた。
作業が終わったのは深夜2時過ぎだった。修正を終えた資料を何度も確認し、ようやく間違いがないことを確認すると、武が安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます、部長。僕、一人では絶対に無理でした。」
「これで終わりじゃないわよ。明日の対応が本番なんだから。」
「はい、頑張ります!」
彼の目に宿る決意に、私は若干の安心感を覚えた。
帰り際、オフィスを出て夜風に触れると、武がぽつりとつぶやいた。
「部長、今日は本当にありがとうございました。」
「どういたしまして。一緒に頑張れてよかったわ。」
その瞬間、彼が小さな声で続けた。「部長と一緒にいると、なんだか安心します……。」
その言葉に胸が高鳴るのを感じながら、私は微笑み返した。「私もよ、武くん。」
その夜、自宅に戻った私は布団に入っても、彼の触れた手の感触とその言葉が頭から離れなかった。
翌週、再び二人で残業する夜が訪れた。その日の業務は予定よりも時間がかかり、またしてもオフィスに残されたのは私と武だけだった。静まり返ったフロアに響くのは、キーボードを叩く音と時計の針の音だけ。私は自分の席で資料を確認していたが、武がどこか落ち着かない様子でいるのに気づいた。
「どうしたの、武くん? 集中できてないようだけど。」
声をかけると、彼は驚いたように顔を上げ、照れくさそうに微笑んだ。「いえ、大丈夫です。少し疲れてしまって……。」
私は彼の机に歩み寄り、隣に腰を下ろした。「無理はしないで。こういうときこそ冷静に進めるのが大事よ。」
武は私の顔をじっと見つめた。その視線には普段の彼にはない何かが宿っていた。真剣で、どこか迷いを含んだ瞳。その瞬間、彼の口から出た言葉が私を驚かせた。
「部長……少し、お話ししてもいいですか?」
「もちろんよ。」私は軽く頷き、彼の言葉を待った。
彼は一度深く息を吸い込み、視線を私から外すことなく続けた。「部長、前にミスをしたとき、一緒に残業してくださったこと、僕にとって本当に大きな意味がありました。そのとき感じたんです……部長は、ただ上司としてだけじゃなくて、僕にとって特別な存在なんだって。」
その言葉に胸がざわついた。「特別な存在って、どういうこと?」
「僕……部長のことが好きです。」
その告白は静まり返ったオフィスに吸い込まれるように響き、私は一瞬言葉を失った。彼の顔は真剣そのもので、彼の若さと純粋さがそのまま表れているようだった。
「武くん……。」
返事をしようとした瞬間、彼が急に立ち上がり、私の両手を取った。「こんなことを言ってはいけないのは分かっています。でも、どうしても伝えたかったんです。この気持ちを隠し続けることなんてできないから……。」
彼の手は温かく、その熱が私の手から全身に伝わってくるようだった。胸が高鳴り、何を言えばいいのか分からないまま、私は彼を見つめた。
「部長、僕の気持ちに応えてくれなくても構いません。ただ、この気持ちを知ってほしかっただけです。」
彼の言葉が終わると、二人の間に再び静寂が訪れた。私は彼の手をそっと離し、立ち上がって彼と向き合った。
「武くん、あなたの気持ちはすごく嬉しい。でも、私は……。」
その言葉を言い終える前に、彼が一歩近づき、そっと私の頬に触れた。その行動があまりにも自然で、私は彼の動きに抵抗することができなかった。そして、彼の顔がゆっくりと近づき、唇が重なった。
その瞬間、私の頭の中は真っ白になり、心臓が早鐘を打つように高鳴った。唇が触れる感触は柔らかく、同時に彼の真剣な想いが伝わってくるようだった。
「ごめんなさい……部長。僕……。」
彼が慌てて言葉をつなぐが、私は彼の手をそっと握り返し、微笑んだ。「今は何も言わなくていいわ。ただ、少し冷静になりましょう。」
その後、二人は何も言葉を交わさず、それぞれの席に戻った。しかし、オフィスの空気は明らかに変わっていた。彼の気持ちを知ったことで、私の胸の中には戸惑いと同時に、抑えきれない感情が芽生え始めていたのだった。
その夜、オフィスは静まり返り、フロアには私たち二人だけが残っていた。蛍光灯の柔らかな光が机の上に映り、資料を整理する音だけが響いていた。時間が遅くなるにつれて、静寂が増し、互いの存在感がより一層強く感じられるようになっていた。
武がキーボードを叩く手を止め、ふと顔を上げて私を見つめた。その視線は真剣で、どこか切なげな光を帯びている。私の胸が小さく高鳴るのを感じながら、「どうしたの?」と声をかけた。
「部長……やっぱり、どうしても伝えたいことがあります。」
彼の声は低く、それでも決意がこもっていた。私は一瞬戸惑いながらも、彼の隣に腰を下ろした。
「何かしら?」
「昨日、部長に告白しましたけど、本気なんです。部長のことが……ずっと好きでした。」
その瞬間、私の心に再び甘い震えが走る。彼の目が私の目を捉えたまま離さない。その熱のこもった瞳に吸い込まれそうになりながら、私は言葉を探していた。
「武くん、昨日も言ったけど、私たちは……」
言葉を遮るように、彼がそっと私の手を取った。その手は温かく、そしてわずかに震えていた。
「分かっています。でも、どうしても伝えたくて……。あなたが僕の中でどれだけ大きな存在かを。」
その言葉に胸が締め付けられるような感覚を覚えた。理性では拒むべきだと分かっているのに、彼の真っ直ぐな気持ちが心を揺さぶる。
「武くん……」
その時、彼がゆっくりと私に近づいてきた。その動きに息を飲み、身体が硬直するのを感じた。彼の顔が近づくにつれて、互いの呼吸が混じり合うようだった。そして次の瞬間、彼の唇がそっと私の唇に触れた。
そのキスは、短くも深かった。彼の唇の柔らかさと熱が私の中に浸透していく。拒むべきだと思う一方で、その感触が心地よく、全身に広がる甘い感覚に抗えなかった。
彼の唇が離れると、私の胸には余韻が残り、その場に静寂が戻った。しかし、その静寂は決して冷たいものではなく、むしろ私たち二人を包み込むような温かさを持っていた。
「……ごめんなさい、部長。でも、本当に好きなんです。」
彼が囁くように言葉を紡ぎ、私の目を見つめる。その声には真剣さと、どこか幼さが混じっていて、私の理性をさらに揺るがせた。
私は立ち上がり、距離を取ろうとした。しかし、武がそっと私の手を引き寄せ、再び近づいてきた。
「お願いです……一度だけでいいので、僕を信じてください。」
その言葉に、私は完全に崩れ落ちるような感覚に襲われた。彼の手が私の頬に触れると、自然と目を閉じてしまう。そして、再び唇が重なった。今度のキスは、より深く情熱的だった。彼の手がそっと私の背中を支え、引き寄せるように触れた。
その瞬間、全身に熱が広がり、拒む気力が失われていくのを感じた。心臓が早鐘を打つ中で、私の中に隠していた感情が次第に溶け出していった。
彼の手が私の肩からゆっくりと滑り降り、指先が私の背中に触れる。その動きに全身が敏感に反応し、思わず目を閉じた。彼の息遣いが耳元に近づき、囁くような声が私の心を掴む。
「部長……ずっとこうしたかった。」
彼の手が再び私の頬に触れ、唇が触れるたびに胸の奥が甘く締め付けられる。私はその場から動くことができず、ただ彼の感情の波に身を任せるしかなかった。
彼の指先が髪を撫で、肩へと流れる。その動作は丁寧で、まるで壊れ物を扱うような優しさが感じられた。その一方で、彼の目には抑えきれない熱が宿り、その熱が私の中の眠れる感情を刺激していく。
「部長……僕はあなたに触れるたびに、自分がどれほどあなたに惹かれているか気づいてしまいます。」
彼の言葉が心の奥深くに届き、私は言葉を失った。彼の手が再び私の背中に触れ、そっと引き寄せられると、彼の体温が私の肌越しに伝わってきた。その瞬間、私の中の理性が崩れ去り、彼の熱に応えるように身を委ねた。
彼の指が背中を優しくなぞり、腰へと降りていく。その触れ方には焦りはなく、むしろ私の反応を確かめるような慎重さがあった。私の心は緊張と期待が交錯し、全身が彼の手の動きに敏感になっていく。
「部長……あなたのすべてが美しい。」
彼の囁きに、私の胸が震えた。彼の言葉は直接的でありながら、どこか詩的で、私の中の女性としての自尊心をそっと持ち上げるようだった。彼の手が再び私の肩に戻り、そして両手でそっと私を抱きしめた。その包み込むような抱擁に、私は全身の力が抜け、ただ彼の胸に顔を埋めた。
彼の鼓動が、私の鼓動と同じリズムで高鳴っているのを感じた。その音が心地よく、まるで二人だけの世界に引き込まれるような感覚だった。彼の指先が再び髪を撫で、首筋に触れた瞬間、全身に甘い痺れが走った。
「部長……もっとあなたを感じたい。」
その言葉に私は一瞬息を飲んだが、次第にその言葉の響きが私の中に広がり、拒む気持ちが薄れていくのを感じた。彼の唇が再び私の唇に触れ、そのキスはより深く、より情熱的に私たちを包み込んでいった。
オフィスの静けさの中で、私たちの間にある空気がさらに濃密になっていく。その夜、私は武の真っ直ぐな想いと自分の抑えきれない感情の狭間で揺れ動きながらも、彼の熱意に引き込まれていった。
その瞬間、時間が止まったかのように、二人の間に流れる空気が一変した。静寂の中に漂う緊張感と、絡み合う視線が空間を満たす。武の手がそっと私の頬に触れ、彼の指先から伝わる微かな熱が私の肌にしみ込んでいく。その触感は優しくも力強く、私の内側を揺さぶった。
彼の唇が再び私に近づき、触れた瞬間、全身に甘美な震えが走った。キスは、最初はそっと触れるだけの控えめなものだったが、次第に深さを増していき、そのリズムに私も引き込まれていく。唇が重なるたびに、彼の息遣いが私の鼓動と混ざり合い、互いの存在が溶け込んでいくようだった。
彼の手が私の背中を包み込み、まるで壊れやすい宝石を扱うかのように慎重でありながらも、情熱を秘めていた。その手が背骨をなぞるように滑り降りるたびに、私は自分が彼にすべてを委ねていることに気づき、内心の抑えきれない欲望が高まっていくのを感じた。
「あなたが、こんなにも美しいなんて……」彼の声が耳元でささやき、胸の奥に甘い痛みを残す。その言葉に私は反射的に彼を引き寄せ、さらに深い接触を求めた。
武の手が私の肩から鎖骨、そして胸元へと滑り、私の心を燃え上がらせる。触れるたびにその感触が鮮やかに伝わり、私の内側を溢れさせていく。その手が柔らかな曲線をなぞるように動き、彼の視線がその動きを追っているのを感じると、全身が火照り、甘い痺れが広がる。
彼の体温が私の肌に伝わり、互いの熱が絡み合う中、私は自分を完全に彼に委ねていることを自覚した。その瞬間、彼の唇が再び私を捕らえ、今度はさらに情熱的なキスが始まった。唇から伝わる彼の熱意と渇望が、私の中の深いところに眠る感情を解き放つ。
二人の動きが次第に激しくなり、呼吸も乱れ、意識が彼だけに向かう。彼の手が私の背中を支えながら、腰に触れ、私の全身を抱きしめるように引き寄せる。その力強さに私は応えるように彼を掴み、体をさらに密着させた。
「一緒に……この瞬間を……」彼の声が震えるように耳元で囁き、私たちは共に頂点に向かって駆け上がっていく。その瞬間、世界が光に満ちたかのように眩しく、すべてが一つになる感覚に包まれた。
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