【第一章:夏の午後、風が止んだ】
千葉の外れ、陽炎がゆらめく住宅街。
夫と再婚して半年、42歳の私は、二度目の苗字にまだ馴染めずにいた。
初夏の湿気が肌にまとわりつく午後、静かな家の中でひとり、私はリビングのカーテンを揺らす風を見ていた。
──「彼」との距離が、変わりはじめたのは、梅雨が明ける少し前だった。
蓮(れん)──16歳、高校2年生。
夫の連れ子。義理とはいえ「息子」と呼ぶには、あまりに肌の温度を感じてしまう存在だった。
「ただいま……」
細身の制服、長い睫毛に縁どられた眼差し。
湿った空気をまとって、彼は玄関からふわりと現れる。
「蓮くん、今日も暑かったわね。……水、飲む?」
「うん……お母さん、髪、濡れてる」
洗い立ての髪が、うなじから背中をすべる。家事の合間にシャワーを浴び、バスタオルを巻いただけの格好で、私はそのままキッチンへ向かっていた。
「見ちゃ……だめよ」
声は制止のつもりだった。けれど自分でも、どこかでそれが形だけの拒絶だったと分かっていた。
目が合った。
蓮の視線は、私の濡れた鎖骨から、肩を伝って胸の膨らみに落ち、やがてタオルの境界線へと吸い寄せられていった。まるで、触れずに愛撫されているようだった。胸の先が、呼吸とともにかすかに脈打っていたのを、自分でも意識してしまった。
「お母さん、今日、綺麗……」
その言葉を聞いた瞬間、空気の温度が変わった。
キッチンの窓から流れ込む風が、タオルの端をわずかに持ち上げた。太ももに触れる彼の視線に、全身が粟立つ。
何かを抑えているのは私だけで──彼のなかでは、すでに「その先」へ踏み出しているのだと気づいた。
「だめよ……私は、あなたの……母親よ」
唇はそう動いたのに、身体は動けなかった。
目を逸らすどころか、私は彼の瞳を正面から見据えていた。
視線が交差したまま、時が止まった。
その沈黙が長引けば長引くほど、私の下腹はじわじわと、得体の知れない熱を帯びていく。
蓮の指が、伸びた。
濡れた髪の先をそっと摘み、耳元にかき寄せて、低く、息をかけた。
「……お母さん、汗のにおい、甘い」
その言葉に、身体の芯がふるえた。
愛撫されていないのに、もう腰がゆるむ。
浴びたシャワーの温もりが、彼の言葉で逆流してくるようだった。
冷蔵庫のドアに手をかけたまま、私はもう、主婦でも妻でもなくなっていた。
その瞬間から、私は女として、彼に見られていた。そして、それを受け入れていた。
汗ばむ肌、濡れた髪、薄いタオル1枚の感触──すべてが、禁じられた誘惑として存在していた。
──このままでは、いけない。けれど、もう止められない。
【第二章:罪を孕んだ舌先】
その夜、夫は地方への出張で、翌朝まで戻らない。
夕飯を済ませたあと、蓮は「宿題してくるね」と言って2階の部屋へ上がった。
私はリビングの照明を落とし、ワイングラスに注いだロゼを指で転がすように飲んでいた。
──さっきのあの視線、あの言葉。
忘れようとしても、身体の内側に焼きついていた。
足元には冷房の風が静かに吹き、脚を組み替えるたび、薄手の部屋着のワンピースがふくらはぎから腰へとまとわりつく。
脚の奥。あの視線を感じた場所が、ずっと熱を帯びている。
そのとき、階段を下りる音がして、蓮が静かにリビングへ現れた。
グラスを持つ私の手元を一度見て、彼はソファに腰を下ろす。
「寝れなかった?」
「うん……お母さんも、まだ起きてるんだ」
間。
沈黙が、私たちの間に濃密な膜を張る。
「さっき……ごめんなさい。変なこと、言って」
「……気にしてないわ」
嘘だった。
私は今も、あの言葉に身体のどこかを捕まれたままだった。
蓮はふと立ち上がり、私のほうへ歩み寄る。
テーブル越しの距離が、どんどん狭まっていく。
私は動けない。
「……お母さん、少しだけ……触れてもいい?」
耳元に、息がかかるほど近くで、蓮が囁いた。
「だめよ……そんなこと……」
言葉だけが拒絶を演じていた。
胸の奥、心臓が暴れている。
ワンピースの薄布越しに感じる夜気さえ、もう甘く、淫らだった。
蓮の手が、そっと私の膝に触れた。
その瞬間、脚が勝手にほどけてしまいそうになる。
「ここ……ずっと、見てたんだ」
言いながら、彼の指先が太ももをなぞる。
布と肌の境界をかすめ、スカートの奥へと、指がゆっくり──忍びこむ。
「やめて……ほんとに……」
懇願するような声が、唇から洩れた。
でももう、私は止められなかった。
声とは裏腹に、腰は彼の手の動きを誘うように浮いていた。
そして、ワンピースの裾をそっと持ち上げた蓮が、まるで神聖な儀式のように膝をつき、私の脚の間に顔を埋めた。
「おかあさんの匂い……すごく……いい……」
唇が、内ももを這う。
生まれて初めて“そこ”に触れる男の子の舌は、幼くて、不器用で──それでも、驚くほど本能的だった。
「んっ……や、だめ……そんな、舌……っ」
舌先が、私の蕾の先端にたどり着いた瞬間、背骨が電流のように跳ねた。
じゅん、と濡れた音が、耳の奥に響く。
恥ずかしいはずなのに、身体の奥はむしろ、その音にすがりたがっていた。
彼の舌が、何度も、何度も、同じ場所を円を描くように舐め上げるたび、脚が震え、手がソファを掴む。
もう、抗う力は残っていなかった。
「そんなに、奥まで……あっ……」
蓮の唇が花弁をそっと吸い上げ、舌がその中心を探る。
頭が真っ白になり、息が乱れ、心のなかのすべての秩序が崩れていく。
夫でもない、かつての男たちでもない──
こんな快感を与えられたことは、なかった。
言葉を知らないくせに、蓮の舌は、私の“女”としての場所を本能で読み取っていた。
まるで、許されぬ扉を開けた報いのように、果てるまで、止まらなかった。
何度も、小さな波が、熱となって、内側から押し寄せる。
私は震える手で、蓮の髪を掴み、無意識に自分の奥へ押しつけていた。
「もぅ……だめ……もう、だめ……っ」
最後の波が訪れたとき、頭の奥がふわりと白くなり、快楽と罪が、泡のように弾けて消えた。
【第三章:終わらない余韻と、はじまりの夜】
──あのあと、私は何も言葉を発することができなかった。
汗ばんだ脚の奥に残る、蓮のぬくもり。
ワンピースの裾は乱れ、下着は片足に引っかかったまま。
私はソファの上で横たわりながら、ただ静かに天井を見つめていた。
蓮は、私を見つめたまま黙っていた。
まるで、自分のしたことの重大さを理解しているような、けれどそれでも決して後悔はしていないという目だった。
「……ごめんなさい」
私の口からこぼれた言葉は、その場にふさわしくないほど軽く、空虚だった。
「お母さん……」
蓮が私の指先に触れた。
触れた指が細くて、温かくて、やけにやさしかった。
「もう、やめなきゃいけないわね……」
震えた声でそう言う私の頬に、彼はそっとキスをした。
頬の内側まで熱くなる。身体の奥の快楽が、まだほんのり残っているのがわかった。
──思えば、私はずっと“欲しかった”のかもしれない。
家庭の中で、妻として、母として与えるばかりで、女として「受け取る」ことを忘れていた。
けれど彼は、その欠けていた空白に、何の躊躇もなく入り込んできた。
年齢差──26歳。
常識、倫理、家族。
そのすべての境界線を、あの舌先と視線で、彼は優しく壊した。
私はもう、元には戻れないのかもしれない。
それでも翌朝、いつも通りに目覚め、キッチンに立った。
朝陽が差し込む中、私の指は卵を割り、味噌汁を温める。
でも、包丁を握る手の奥に残る熱だけが──昨夜を確かに語っていた。
「……おはよう」
リビングに入ってきた蓮は、まるで何もなかったように制服を着ていた。
けれど、私の目を見た瞬間、かすかに口角を上げる。
「今日、早く帰ってくるよ」
何気ないその一言が、私の身体のどこかを震わせた。
脚の奥が、きゅう、と疼くように。
──この関係は、もう終わっているのかもしれない。
けれど、同時に──まだ何も、始まっていなかったのかもしれない。
あの夜が、私に与えたもの。
それは、喪失でも背徳でもなく──
**「私はまだ、女である」**という、目覚めだった。
そして私は、朝の光のなかで、無意識に唇をなぞっていた。
あの夜、蓮の唇がふれた場所を──もう一度、思い出すように。
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