序章:その視線が、私の中の“女”を起こした
午後三時、季節は梅雨。
湿った風がレースのカーテンを揺らし、エアコンのない静かなリビングに、ゆるく生あたたかい空気が漂っていた。
私は37歳。夫とは10年の結婚生活。
会話は業務連絡程度、セックスはもう何年もない。
だけど、妻として、母として、私の生活は壊れていなかった。
むしろ整っていた。完璧なほどに。
ただ――空っぽだった。
そんな日々に、直哉くんが現れた。
息子の家庭教師として、週2回来るようになった大学4年生。
21歳、理系の知性と、文学青年のような静けさを併せ持った青年。
最初はただ、若いなと思っただけだった。
けれどある日、私は感じてしまった。
彼の視線の温度を。
私がコップを取るとき、手首の内側を見つめる熱。
濡れた髪をかき上げたときの、その目の揺らぎ。
――“女”として見られている。
そう感じた瞬間、凍っていた身体の奥に、じくじくと熱が灯った。
そしてその日、息子が塾に行っている午後のひととき。
私は、知らなければよかった扉を、自らの手で開けてしまう。
第一章:汗のにおいと、欲望の距離
「今日、少しだけ、奥さんと話せませんか?」
直哉くんがそう言ったとき、私はソファに座っていた。
リビングの窓は半開き、蝉の声と時計の秒針が混ざり合っている。
息子は外出中。夫は出張。
そのことを、彼は知っていた。
私も、知っていた。
「…話すって、何を?」
視線を合わせず答えた私に、彼はひと言だけ囁いた。
「……どうして、そんなに綺麗なんですか」
空気が止まった。
心臓が跳ねる音が、耳の奥で暴れた。
足元がふわふわして、口を開けようとしても、声にならない。
私は、どこかで期待していた。
その言葉を。
誰かに、そう言われることを。
「……冗談、よね?」
「違います。僕、本気です」
言葉の余韻が落ちるより先に、彼の指が私の髪に触れた。
そっと、後ろに流すだけの動作なのに――
私は身体がピクリと反応するのを止められなかった。
彼は静かに私の手を取り、その甲に口づけた。
その優しさが、逆に罪だった。
無理やりでも、強引でもない。
ただ、“私の意思”を問う手だったから。
「…こんなこと、してはいけないのに」
「僕がしたいんじゃない。奥さんも……したいんじゃないですか?」
その一言で、私の中の倫理は崩壊した。
私は彼に導かれるように、指を絡め、唇を差し出した。
触れた瞬間、背骨が痺れるような感覚が走る。
唇と唇の間を、彼の舌が探る。
そして、服の上から私の胸元に手が置かれた瞬間――
「……ぁっ」
小さく漏れた声。
自分がこんな音を出すなんて、忘れていた。
でも、確かに私は“濡れて”いた。
欲望は、密やかに、しかし抗えず、身体をつかまえて離さなかった。
第二章:濡れたソファ、濡れた私
「ここ、…リビング、だよ…?」
彼に押し倒された場所は、家族で使うソファだった。
何度も子どもと笑い合い、夫と夕食を囲んだ、その上。
そんな場所で、私は今、下着を脱がされ、脚を広げている。
彼の指が私の奥に触れる。
膝を抱え込まれるようにされて、
唇が乳首を吸い上げ、舌が円を描くたびに、
全身が甘く弛緩していく。
「奥さん…ここ、もう、びしょびしょですよ」
その言葉に、頬が火照った。
羞恥なのに、快感と直結している。
濡れているのを認められたい――
そんな浅ましい自分が、確かにいた。
指が中に入り、やわらかく動く。
探られるたびに、奥の奥が締め付け、脈打っていく。
私は堪えきれず、小さく啼いた。
「そこ…ダメ、ダメなのに…ああっ…」
快楽に、身体が反応する。
腰が揺れる。息が浅くなる。
そして――私は彼の手の中で、初めての絶頂を迎えた。
震える手で彼の肩を掴みながら、
私の中で何かが崩れ、流れ、目覚めていった。
第三章:赦しのない愛撫、許された悦び
直哉くんが、私の脚をさらに広げる。
その動作には一切の躊躇がなかった。
私の身体が、完全に“彼のもの”になっていた。
彼の硬さが、私の柔らかな入口に触れる。
触れただけで、喉が詰まり、脚が震える。
「入れるよ、奥さん」
その低く優しい声に、私は小さく頷いた。
そして――
熱が、私の中に満ちていった。
最奥まで届いた瞬間、身体の奥で何かが弾ける。
奥を突かれるたびに、視界が揺れる。
濡れた音と、ソファの軋む音が、リビングを支配する。
「すごい…締まる…気持ちいい…」
そんな言葉を彼に言わせていることが、
“妻である私”を背徳の深みに堕としながらも、
“女である私”を強く歓喜させていた。
私は彼の腰に脚を絡め、
さらに奥を求めた。
強く、深く、貫いてほしかった。
「もっと…突いて…壊して…」
快楽と罪悪が、官能の炎で融合する。
果てる瞬間、私は彼の名を呼びながら、涙を流していた。
それは赦しの涙ではなく、
悦びに赦された女の涙だった。
終章:女であることを、思い出した午後三時
彼が帰ったあと、私はゆっくりと下着を穿き直し、鏡の前に立った。
濡れた髪、赤くなった首筋、震えの残る膝。
それは、“主婦”でも“母”でもない、“女”の身体だった。
もう戻れない。
でも、私は確かに、生き返っていた。
午後三時。
レースのカーテンが揺れるたび、
私はまた、あの匂いを思い出す。
背徳の匂い――それは、私の中の“女”を、確かに濡らしていた。
第一章:息を潜めたまま、私は求められていた
日曜の午後三時。
天気は曇り。雨の予報だったが降らなかった。
けれど、私は雨よりも濡れていた。心も身体も。
リビングには、夫がいた。
ソファに座り、新聞をめくっている。
時計の針は、ちょうど三時を指していた。
「ピンポーン」
インターホンが鳴る。
私は反射的に立ち上がった。
「俺が出ようか?」
夫の声を背に、私は笑って答えた。
「ううん、大丈夫。教材だけ受け取るから」
玄関のドアを開けると、そこにいたのは直哉くん。
前回の罪を知る男。
いや、私を罪に導いた、共犯者。
彼は一瞬、視線だけで私の全身を撫でた。
そのわずかな視線に、身体が熱を帯びる。
まるで――前戯だった。
「教材、これです。あと……少しだけ、お話いいですか?」
その声の低さ。声に乗った湿度。
それだけで、私はもう抗えなかった。
私は、夫がまだソファにいることを忘れてなどいなかった。
むしろ、その存在こそが――
この背徳を、より甘くしていた。
第二章:音を立てずに、貫かれて
私たちはキッチンへ向かった。
間取りの都合で、夫のいるリビングとはL字に離れていて、声は届かない。
扉を閉めると、彼がすぐに近づいた。
「…奥さん、会いたかった」
その声は、恋人のように甘くて、
けれど熱を帯びた“男”の欲望を孕んでいた。
「だめよ…夫が、すぐそこにいるの」
そう言いながらも、私は逃げなかった。
いや――逃げられなかった。
彼は後ろから私を抱きしめた。
腰にあてがわれた彼の熱が、スカート越しに感じられる。
その硬さは、あの日と同じ。
いいえ、それ以上に、私を求めていた。
「声、出しちゃダメですよ」
耳元で囁かれ、私は脚が震えるのを感じた。
彼の手が、ブラウスのボタンを外す。
下着の上から、私の胸を揉みしだき、指が先端を転がす。
呼吸だけで身体が反応してしまう。
私は台所の流しに手をつき、息を殺した。
「…濡れてるの、わかりますよ。奥さん…ここ、もう…」
彼の手がスカートの中に滑り込む。
ショーツの布越しに、彼の指が私の中心をなぞる。
「やっ…だめ……っ」
絞るような声しか出せない。
だけど、身体は――
完全に、彼を欲していた。
そして彼は、後ろから私の中に、静かに、音もなく、挿れた。
「ああ…」
その瞬間、私は声を出しそうになり、
慌てて唇を噛んだ。
身体の奥に、熱が突き立てられている。
なのに、叫べない。求めても、啼けない。
それが、たまらなかった。
台所のステンレスの縁に掴まりながら、
私は腰を揺らされ、何度も突かれた。
「中…締まりすぎる…誰にも、してないんですか?」
「…っ、…夫とも…もう、何年も…」
その会話すら、背徳の蜜だった。
繰り返される突き上げに、
快楽が身体の底を走り抜け、
私は何度も、静かに、でも確かに果てた。
第三章:家という牢獄で、私は解放された
数分後、彼がそっと身体を引いた。
私の膝は、震えていた。
流し台の水音に紛れ、彼が私の耳元で囁いた。
「また、来ますね。奥さんが“女”に戻れる時間に」
私は微かに頷くことしかできなかった。
玄関のドアが閉まり、彼が帰っていったあと。
私はスカートの中を確認する。
熱がまだ、肌に滲んでいる。
夫のいる家で、夫の知らない私が、
こんなにも濡れて、開かれて、満たされていた。
「何話してたんだ?」
リビングに戻ると、夫が顔を上げた。
私は笑顔で、麦茶を注ぎながら答えた。
「…たいしたことじゃないの。ちょっと、教材の相談」
そうして、また“妻”に戻った。
でも――
私の中には、確かにまだ、彼の熱が残っていた。
その熱は、きっと消えない。
家庭という檻の中で、私はようやく“女”として目覚めてしまったから。
二度目の午後三時――
私は、より深く、背徳の悦びに堕ちていた。
コメント